続3章 Ebon Stronghold
1.黒い山
山岳都市であるトゥラヘレ。ここには数千からの人間が住む。ここに住む人間どもは、周辺の街などを含めて一国家を形成している。中でもここトゥラヘレには奴らが"神域"と呼んでいる"縮退炉"が存在しており、そこから生み出される多量のディール粒子と無尽蔵ともいえるエネルギーは、この都市を高度な魔術都市として発展させた。人間たちはそれを享受し、自分たちこそが支配者であると
そんな私に盾突く者どもが現れた。奴らは住民たちを殺傷し、"オメガ"を名指しで荒らしまわった。住民が多少殺されたところでなんの痛痒も無いが、"神"であるこの私を名指しするという無礼は許されぬ。
私は全身義体シェイドにシステムの一部を導入し、愚かにも私に盾突く者へと相対する。
『何者かは知らぬが、この都市、この国の住民は全て私の傀儡。ふん、重力を操るとは奇怪な技能を有するようだが、"戦力差"は圧倒的だな』
奴らも少々高機能なボディスーツを纏った人員が数百程度は居るようだが、こちらは数千、いや、万にも届くほどの戦力。その上縮退炉までもが我が掌中だ。"火力"も"継戦能力"も比較にならない。
「ええ、良く知っているわ……、縮退炉を抱え込んでるってこともね。お陰で縮退炉の位置を割り出せたわ」
全身骨格のスーツを纏っており顔はおろか性別すら分からなかったが、声の感じは妙齢の女のものだった。
『なに?』
「じゃあね」
奴らは身を翻し、空を木の葉が舞うように浮かびながら飛び去って行く。何をしに来たのやら全く分からぬ。が──
『逃がすと思うか?』
全身義体シェイド2号から15号を起動し、奴らの追跡と殲滅をプログラムする。武装した戦力が百は居たようだが、これで生き残れまい──
突然雲が裂け、空が割れた。都市の中心部に何かが衝突し、そこから広がる破壊の波は、すべてを飲み込み大地すら巻き上げ粉砕していく。
『な、なんだと──』
その衝撃は、すべてを飲み込み……、その日、一つの都市を中心とした半径数十kmは、一瞬にして灰燼に帰した。
==================================================
「俺たちもアストって呼んでいいかな……?」
元"
俺の問いかけに、彼のホログラム映像は少し困った表情に変わる。ぬぅ、緑髪って少々違和感ある髪色だけど、イケメンなら何でも許される感あるな。困り顔すら様になる……。
『"アーヴァ"か"アスト"か、と言われれば、僕の中の認識ではどちらかと言うと"アスト"寄りなんですが、その記憶も本質的には僕のものじゃないので……、すみません、なんか我がままですね……。』
「ハイハイ!! なら、私が新しい名前つけてあげますよ!」
フィルトゥーラがハイテンションで両手を挙げながら立候補してくる。大丈夫、対立候補は出てこないからそんなに焦らないでも──
「私のほうが良い名前を考えられます」
と思ったら意外な対立候補が出現。レインが静かに手を挙げた。
『え、あ、あの……』
彼の戸惑いはそっちのけで二人の視線がぶつかり、艦橋内は一触即発の空気に満たされる。え? 何この空気。
最大限に高まった緊張は、フィルトゥーラの先制で一気にはじけた。
「ヴァルドフェルド!!」
フィルトゥーラさん長いです。あとちょっと中二っぽいですね。そういう"気"があるのですか?
「ミドリ」
レインさん、まんまです。まんますぎます。あとあまり男っぽく聞こえません。
「シュレステンヴェルグ!」
相変わらず長いです。"ヴ"っていう文字が入ってないとダメな病気か何かですか?
「アカ○」
目が赤いからって……、だからまんま過ぎですって、それにその名前は被るんでマズイです。あとレインさんも目は赤いですからね?
「深緑のヴォルフウッド」
名前ですよね? なんか二つ名みたいになってますよ? っていうか、ちょっと二人とも"緑色"から離れろ。
「ミドリのアカ○」
レインさん、あまり無理しないでください。ネタ切れ感が半端ないです。
『あの、できれば、もう少し普通の感じで……』
ついに彼自身からもダメ出しが入りました。もっと言っていいと思います。
「なら……、アッシュで!」
お、多少中二感が残ってますが、割とマシな感じ。
「……。」
レインさん、無理しないでください。俺はレインの肩に手を置き、ポンポンと宥めておいた。
『アッシュか、いいかも……』
彼からも好感触だ。良いんじゃないだろうか。
「ちなみに、由来は?」
「え……」
俺の問いかけに、フィルトゥーラは沈黙する。え、なんでちょっと引きつった笑顔になってるの?
「ぺ……、ペットです、昔飼ってた……」
『いい名前だ、ありがとう!』
「え、そこいいのかよ!?」
彼、改めアッシュは良い笑顔だった。
『あ……』
唐突にアッシュが声を挙げる。
『センサーに感、微量ですがオメガパケットを検出……』
キャピタスの街から山を避けるように南下したところで、新たな街を発見した。この街も規模としては人口数千程度かな……。
「あそこか?」
『……、いえ、反応は微弱です。この街ではないかも……』
「この間のキャピティスの街みたいな例もあるし、一応警戒しつつ情報収集してみるか……」
『わかりました、降下します』
アッシュの言葉に合わせ、魔導艦が高度を下げ始めた。
「この街? ここはクララだよ、あんたらここが何処かも知らずに来たのかい?」
街の商店で買い物などしつつ、雑談ついでに情報を収集する。住民たちの反応には特に違和感は無い。レインもオメガパケットは検出していないみたいだし、ここにはオメガが居ないのか……?
「変な場所や人って言われてもねぇ……、あー、そうだ。ここから北西へ、1日くらいかねぇ? 歩いていくと、おかしな山があるよ」
「あ、これください……山?」
「そうなのよ、そこだけ真っ黒な石だけでできてて、木も生えてなくてね。近くによると頭がおかしくなっちまうんだってさ」
おばちゃんは俺が渡した商品を紙で包みながら、まるでテレビのワイドショーネタで盛り上がるかのように楽し気に話してくれた。うん、なかなか怪しげだ。特に"頭おかしくなる"ってところが特に怪しい。
「ありがとう、おばちゃん。助かったよ」
「こんな話でよかったかい? またよろしくね」
俺、レイン、フィルトゥーラはそれぞれに買い出しを兼ねて情報収集を行った。魔導艦に再び合流した我々は、情報収集結果の照合を行うわけだが……。
「フィルトゥーラ、なぜ購入品が果物ばかりなんだ……?」
「お、美味しかったのです! あとお値段も安いし!!」
「後で保存できる食料も買ってください」
「はい……」
「レイン、その食器セットは……? 食器類は備え付けがあるよね……?」
「ご当地食器で世界巡りです」
「……。」
お土産感覚かな……?
『全員が"黒い山"についての情報を入手していますね』
アッシュは何事もなかったかのように話を進める。俺だけでなく、レインもフィルトゥーラも、"黒い山"の話は聞いていたようだ。
『方向については、オメガパケットセンサーの検出結果とほぼ一致しますね』
アッシュは自身のホログラムと合わせて、ディスプレイのような物を表示し、そこに噂の方向とオメガパケットの受信方角を示す。情報が足りないため地図は……、まあ、ちょっと適当だ。
『センサーの検知結果があまりに微弱なので、距離はもっと遠いかと思っていましたが……』
「とりあえず、その"黒い山"とやらに行ってみるか」
徒歩で1日だと、10km前後だろうか。魔導艦なら数分の距離だ。途中、地上には無人になった集落らしきものの痕跡が、何か所か見られた。
「無人の集落跡……か」
『まだ木製住居跡が残っていますので、無人になって1年以内でしょうか……』
魔導艦で数分の距離に、確かにソレはあった。
俺たちは崖から見下ろす形でそれを確認する。木々がまばらな窪地のど真ん中に、やけに異質な黒い小山が存在していた。
--------------------------------------------------
スペックシート:魔導実験船ファフニール(AI搭載)
名称:魔導実験船ファフニール
重量:50t
全長:15m
最大高:7m
船体幅:6m
最大乗員:15名
推進器:(6基搭載)
単体性能 推力:150kN
PEバッテリー:(12基搭載)
単体性能 容量:10000kWh、最大出力:1500kW、最大蓄積能力:300kW
武装:
30mm多段式魔導加速銃×2
(両舷2基、駆動式銃架で全方位を攻撃可能)
多砲門思念光線砲(多数)
(船体上部および下部に多数設置。
AI人格:アッシュ
オメガが構築していたゲーム空間"アエリア"の主人公として設定された仮想人格。ゲーム崩壊時にコースケと
レインにより救出され、本船のAIになった。
オメガに付与された記憶では"
という氏名だったが、彼の自己確立においてどちらも自分の名前ではないとの理由からアッシュという名前を
名乗るようになった。
(アッシュという名前はフィルトゥーラ発案。元は彼女が以前飼っていたペットの名前)
特殊装備:
戦闘形態(竜人形態)への変形
備考:
海外への渡航用として実験的に建造された魔道船。魔道船と言っても、その実態は
オメガが最後に逃げ込んだ人格未搭載だったディヴァステータの「ファフニール」をベースに建造した。
魔道船としてはかなり小型であるため、乗員数も少なく、マグナも搭載できない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます