続2章 Recurring Nightmare

1.キャラクターをクリエイトしよう

「どうしてこうなった。」

 俺たちが乗っている魔導実験船ファフニール内には居住空間や厨房も揃っている。その厨房は今や一面真っ黒な炭に覆われ、元食物がそこら中に飛び散っている。

「す、すみません。」

 フィルトゥーラは心から申し訳なさそうに謝る。


 ユーラシア大陸。おそらくは旧中国あたりに上陸した俺たちは、早速そこでオメガの洗礼を受けた。いや、どちらかと言えば急襲したというほうが正しいか。あちらは全く情報が無い状態で、こちらはオメガ対策は万全。当然の帰結として、その周辺のオメガは壊滅した。

 フィルトゥーラも縦横無尽に飛び回り、殴る蹴る叩き潰す吹き飛ばす、と大活躍だった。お前は"重力魔法使い"っていう設定を忘れてるんじゃないか?と問いかけたくなる活躍だった。いや、確かに"重力"を操作している風ではあるのだが……。


 それはまあ、いいとして。魔導艦での旅でフィルトゥーラの予想以上のポンコツ具合が判明した。寝起きはいつも服の前後が逆。ついでに寝ぐせなのか、頭頂部の毛が一房いつもあっちへこっちへとフラフラ漂っている。街で買った甘味の袋は食べたまま放置する。掃除をしろと言ったら部屋で荷物に埋まる。風呂も洗濯機も備え付けがあるのに、お前は毎日風呂に入って衣服を洗濯しているのか? 女子としてそれは大丈夫なのか? 挙句、「いつもレインさんに作ってもらってばかりでは悪いです!」といって厨房に入っていった結果、厨房で爆発事故が発生した。


「大丈夫です、あとは私が片付けます」

「本当にすみませんんんんんっ!!!」

 レインに向け、フィルトゥーラは煤だらけの床に土下座……、もとい五体投地している。まあ、元々爆発で煤まみれなので、特に変化はないのだが。


「とりあえず、風呂入って着替えてこい……。」




 俺たちは現在ユーラシア大陸内陸部を西へ向かっている。正確な地図も無いしGPSも無いからよくわからないが、たぶん昔で言えば中国の内陸部、四川省あたりかな? 艦橋に設置されたオメガパケット検知器は、ごく微量だが進行方向からのパケットを検知している。

 地上には平原が続き、あまり木などは生えていない。

「……ん? あれは……、町か?」

 平原の先、一面雪でも降り積もったように白い場所がある。ところどころに建物があることから、おそらくは町だろう。

「まだまだ検知器の反応は微弱だ。ということは、まだ先か……」

 オメガが居るであろう場所に着く前に、水や食料を補給しておくべきかもしれないな。一面が白一色に覆われた町に向け、俺は魔導艦を進めた。



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 そこは何もない真っ暗な場所だった。あるのはただ一つ。虚空に浮かぶ裸電球のような照明のみ。僕、大村おおむら 明日斗あすとは、そんな何もない場所に一人立っていた。

 はて、僕はどうしてこんな場所に居るのだろうか。直前までどうしていたのか、どこにいたのか、記憶がおぼろ気ではっきりしない。覚えていることは、名前、年齢、住所、自分が日本人で、高校生だということくらいだろうか。


「裸電球かと思ったら、電球型LEDじゃないか。」

 他に何もないために電球を観察したところ、非常にどうでもよい情報が増えた。そもそも空中に浮かび、どこから電力供給されているのかもわからないような物体が、フィラメントだろうがLEDだろうが関係ないな……。


 そんな益体も無いことを考えていたが、ふと気が付くと、大きな画面があることに気が付いた。本当に直前までは無かった。見落としていたとか言うレベルじゃない。本当に目の前に気が付くと在った。

 そっと画面に触れてみる。


 ヴォン


 軽い起動音を立て、画面に映像が表示される。そこには金髪碧眼で、白い薄手の服を着た青年が立っていた。青年の横には、顔は髪型、体型などの項目が並んでいる。ためしに「顔」の項目に触れると更にメニューが展開され、顔のパターンが選択できるようになった。青年に触れて指を滑らせると、青年が画面の中でくるくると回転する。


「完全にゲームのキャラクタークリエイト画面だな、これ。」

 いろいろと操作してみる。髪は緑、髪型は短髪、目は赤……。顔は輪郭の他、目鼻口の形状、サイズ、位置、色、さらには目尻や目頭の高さとか口角の高さとか、細かすぎる……。

「いろいろ細かくいじれるキャラクリって、だんだん何が良いのかよくわからなくなるよなぁ。」

 僕はだんだんと面倒になり、「まあこれでいいや」と呟きつつ、決定ボタンを押す。

 画面が切り替わり、名前入力と表示された。だが、既に名前が入力されていた。

「アーヴァ・スクラビー? デフォルト名みたいなものかな……。でも消せないな。」

 変更できない以上どうしようもない。決定で先に進める。


「今度は武器選択か……。」

 長剣、槍、斧、杖、双剣、手甲、薙刀……、なんか、ハサミとかもあるな……。金平糖!? これ武器なのか!?

「ここは、双剣かな……、なんか二刀流っていいよね。」

 双剣を選び、そこで僕は急に気になった……。ここまで特に疑問も持たずに進めてしまったが、これはなんなのだろう? これを進めてしまっていいのだろうか。

 改めて周囲を見渡す。相変わらず、ここにあるのは今相対している画面と頭上の照明のみ。どれだけ見回してみても、先ほど急に画面が出現したように、何かが現れることは無かった。


 僕は覚悟を決め、武器選択画面の決定ボタンを押す。すると画面が消滅し、たった一つの照明も消え、完全な暗闇となった。



「なっ!!」

 声を出した瞬間、突然眩しい程の青が目に入った。周囲を緑に縁どられ、ところどころに白が混ざっている……。

「え、空?」

 それは木々の隙間から覗く青空だった。僕はいつの間にか森に倒れていた。

 体を起こし周囲を見る。それほど深い森ではない。やや薄暗くはあるが、木々の隙間から日の光があちこちに差し込み、幻想的な雰囲気を作り出していた。

 自分の身体を見下ろす。ややくすんだ白い衣服を纏い、革製のベルトで両腰には短剣がぶら下がっていた。さきほど選んだ"双剣"だろうか。

 とりあえず立ち上がる。少し先は森が明るくなっている。もしかして森が終わっているのかもしれない。とりあえず僕は歩き、そこへ向かってみる。


 そこは小さな泉だった。幅奥行きともに30mくらいだろうか。とても水が綺麗だ……。水面に映る自身の顔を見て、驚きと共に納得もした。予想はしていたが、やはり僕は"アーヴァ・スクラビー"になっているようだ。水面を介して、先ほど画面で設定した緑髪で赤目の男がこちらを見返してくる。


 ──よく来ましたね


「誰!?」

 湖から柔らかな光が漏れ、湖面上に女性の姿が浮かび上がる。半透明なその女性は湖上の空中に浮かび、足元は湖面に消えるように広がっている。


『私は精霊アエリア。この世界アエリアの化身であり、守護者です』

 僕は精霊アエリアの美しさに見惚れ、しばしぼぉっと見とれていた。


『精霊とはいえ、あまり見つめられると落ち着かなくなりますよ』

「あ、ごめんなさい。」

『いえ、良いですよ……。今の状況がよく分からないことでしょう。私があなたを呼び寄せました』

「僕は、どうなったのですか? もしかして……、死んだのですか?」

 僕の問いかけに、精霊は一瞬くらい表情をした後に答える。

『ええ……、ですので、この世界へと呼ばせていただきました』

 そうか、僕は死んでしまったのか……。死んだときの記憶が無いが、突然すぎて覚えていないとかだろうか……。


『あなたは強い魂の力を持っています。その力で、この世界を救ってほしいのです』

 精霊アエリアは、視線を空に向けながら続けた。

『この世界は今、魔獣の脅威に晒されています。魔竜王ヴォーガルス率いる魔獣たちが、この世界の命を奪ってゆくのです。このままでは、この世界は魔獣のものとなってしまうでしょう……。そうなる前に、奴らの王たる魔竜王ヴォーガルスを倒してほしいのです』

 まるでゲームみたいな状況だ。だけど、ゲームなら二つ返事で戦いに行くだろうが、今の僕の実感は間違いなく現実の世界だ。実際に体を張って、とんでもない怪物と戦うなんてできる気がしない。

『貴方には大いなる力が眠っています。この世界に生まれ変わったことで、その力は戦いの中で目覚め、成長していくでしょう』

 戦えば強くなれる……。戦うために強くなり、強くなるために戦う、それを繰り返してくということか。


「僕に、できるでしょうか……。」

『一人では不安でしょう。案内人を付けましょう』

 精霊はにこやかに笑い、軽く右手を振った。その指先から光があふれ、小さな人型を形作る。

『やっほー、妖精案内人 クスタさんだぞ!』

 手のひらに乗るサイズの小人が空中に現れた。髪は青く肩にかからないくらいの長さ。青い衣を身にまとい、背中には虫のような羽がある。

『あんたが魔竜王と戦えるように、あったしがしっかり面倒みちゃうよー!!』

 クスタと名乗った妖精は、そんなことをしゃべりながら僕の周りを飛び回る。


『その子は、私の分身のようなものです。貴方の旅を導いてくれるでしょう』

『あったしにまかせなさい!!』

 ずいぶんテンション違うけど、分身なんだ……。


 僕はおびえる自身を鼓舞する。精霊様は、世界を救うために僕を呼んだ。義務は無いかもしれない、でも困っているなら助けてあげたい。

「僕に、どれだけできるかわからないですけど、や、やってみます。」

『あったしが居ればダイジョーブだって!!』


 クスタは右手を突き上げ、

『そんじゃ、まずは"要塞集落"へ、れっつごー!!』

 高らかに宣言した。


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スペックシート:魔導実験船ファフニール


名称:魔導実験船ファフニール

重量:50t

全長:15m

最大高:7m

船体幅:6m

最大乗員:15名

推進器:(6基搭載)

 単体性能 推力:150kN 

PEバッテリー:(12基搭載)

 単体性能 容量:10000kWh、最大出力:1500kW、最大蓄積能力:300kW

武装:

 30mm多段式魔導加速銃×2

 (両舷2基、駆動式銃架で全方位を攻撃可能)

 多砲門思念光線砲(多数)

 (船体上部および下部に多数設置。思念力ウィラクトによる誘導式の光線を発射する)


特殊装備:

 戦闘形態(竜人形態)への変形……(機能停止中。機能はあるがAI未実装であるため稼働不可)


備考:

海外への渡航用として実験的に建造された魔道船。魔道船と言っても、その実態は魔王ディヴァステータ

オメガが最後に逃げ込んだ人格未搭載だったディヴァステータの「ファフニール」をベースに建造した。

実験船であるため管制システムのみ搭載されており、相変わらず人格は搭載されていない。

(ディヴァステータは人格が搭載されて初めて真価を発揮する)

魔道船としてはかなり小型であるため、乗員数も少なく、マグナも搭載できない。

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