5.無形体VS無形体

「終わらせてやる、オメガ!」

 不遜な態度で中空に浮かぶ白亜の人影に向け、俺は上昇する。


『ふん、少々の予定外が起こったが、これもせいぜい余興。反逆者どもは全てくびり殺してくれる。』

 オメガのシェイドボディが白い光を振りまく。

『まずは貴様からだ!!』

 シェイドボディから数十の光線が発射され、歪曲し俺に向けて突き進んでくる。


攻勢手甲ガントレット! 無幻残影デヴァイドミラージュ!」

 俺の周囲に攻勢手甲ガントレットを纏った拳の分体が大量発生する。殺到する光線と拳の分体が次々と衝突する。


 分体と光線は衝突すると小爆発を起こす。周りで大量の小爆発が発生する。


 その爆風の海の中、俺はオメガへと肉薄する。

「オメガァァァア!!」

『チィッ!!』

 俺の攻勢手甲ガントレットとオメガの拳が衝突する。


「オォォォォォォ!!」

 俺は両手の攻勢手甲ガントレットで次々と拳打を叩き込む。オメガもそれに併せて両手で突きを放つ。

 向かい合う両者の狭間には、激しい攻防による小爆発が大量発生する。


 背後、分体の隙間を抜け、光線が俺の胴体を貫く。と、同時に俺はボディを思念力ウィラクト化し拡散する。

 直後、オメガの背後に再度ボディを構成、背中に向けて攻勢手甲ガントレットを撃ちこむ。


 だが、オメガも首と胸部を残して思念力ウィラクト化し霧散する。


 オメガの光線が、思念力ウィラクト化していない肩を焼く。


 俺の攻勢手甲ガントレットがオメガの胸部を削る。


 下方から光線の群れが襲い来る。


 俺は再び思念力ウィラクト化してやり過ごす。だが、俺の再構成位置には既にオメガの突き。


「ぐぅ!」

 両手をクロスしてガード、撃ちこまれた攻撃により逆流した思念力ウィラクトで、フィールド発生器の一つが軋みを上げる。


 俺は右手を構成する思念力ウィラクトを暴発させ、オメガに浴びせかける。


『ぬぅ』

 直後にオメガは再びボディを霧散させ、その影から大量の光線が俺に向けて殺到する。


 俺もボディを思念力ウィラクト化、その光線全てをやり過ごす。


 その状態で俺は大量の分体を生み出し射出、オメガからも多数の光線が発射される。再び空を覆う小爆発の嵐。


 オメガの頭部と胸部。そこは思念力ウィラクト化せずに残る。俺はボディを再構成しつつオメガの頭部目がけ、分体を集約し、巨大化した右腕で攻勢手甲ガントレットを叩き込む。


 オメガもそれに併せて同じく巨大な右腕をぶつけてくる。


 ぶつかり合うエネルギー。行き場を失った力が周囲に拡散し、地上の建物を破壊する。


 拮抗していた力は、だが、急激に俺の方へと傾き、一気に放出される。


 右半身を構成していた思念力ウィラクトが吹き飛ぶ。6基のフィールド発生器全てでアラートが発生する。


『もらった!!』

 オメガが撃ち出した光線。それが俺の左胸を貫く。


 そこに心臓があるわけではない。だが、アモルファスボディで数少ない固定部品、PEバッテリーの1つが破損した。


【Emergensy!!】【Emergensy!!】【Emergensy!!】【Emergensy!!】【Emergensy!!】


 視界投影型ディスプレイインサイトビューには危険を告げるメッセージが大量に灯る。


 PEバッテリーには膨大なエネルギーが蓄えられている。それが一斉に放出された場合、一部どころではなく王都が半壊する。


「うおぉ!!」

 フィールド発生器を全力稼働。思念力ウィラクトでPEバッテリーの爆発方向を制御する。



 ボディから発し、空に向かって伸びる光。天を貫く光線が王都の空から立ち昇る。


『はっはっはっ! バッテリー1つでは出力で勝てまい!! 私の勝ちだな!!』

 未だPEバッテリー暴走の制御に必死な俺に向け、オメガは再び多数の光線を放つ。


 大量のエネルギーが流れ出ていく、消え入りそうな意識の中、だが、そこに慣れた感触を覚えた。

 μファージの中、身体が無い状態で漂っていた時の状態。

 ルクトの身体から抜け出し、ディールレイヤーネットワークの中を彷徨っていた時の状態


 俺はある種の確信を感じ、その流れに身を任せた。


『な、なに!?』

 俺の思考が大量のエネルギーに伝わる。全てが思念力ウィラクトとなり、一つの大きなうねりへと変わっていく。


 自身の身体が巨大化したかのような錯覚を覚える。天に伸びる柱になった俺は、その柱を折り曲げ、分解し、オメガの元へと降り注がせる。


 オメガのシェイドボディ、いやその向こうに居る思念が驚きに固まっているのが見えるようだ。

 奴の放つ光線とは密度が全く異なる膨大な思念力ウィラクトが、そのシェイドボディを押し流す。


『な、なぜだ!! なぜそれほどの思念力ウィラクトとディール粒子に飲まれながら、自我を保てる!!』

 オメガは戸惑いの叫びを上げる。


『さぁな……、300年で慣れたのかもな。』

 分岐した多数の"思念力ウィラクトの触手"は、ひたすらにシェイドボディの頭部および胸部を打ち据える。


『がZ$%-ぶ!+\^』

 オメガの呻きに妙な機械音が混じる。どうやらシステム的に相当のダメージを受けたようだ。

 同時にシェイドボディもかなり破損したためか、ボディの形状状態がかなり怪しいことになっている。


『オラァァ!!』

 俺は思念力ウィラクトの塊をオメガへと叩きつける。


『ガァァァァァァァ…………』

 奴の叫び声が小さくこだまする。


 王都外壁の外、かなりの郊外へと吹き飛んでいった。






 俺は王都郊外の丘陵地に着地する。

 暴発したエネルギーを使い切ったアモルファスボディは既に元に戻った。ただ、PEバッテリーは1つしかないため、以前よりも出力はだいぶ落ちている。

 しかし、もうそれも必要は無さそうだ。目の前に横たわるシェイドボディは既に崩壊寸前。ギリギリ稼働している、といった状態だ。


『なぜ……だ……、スペックは、大きく違わないはずだ……、』

 オメガは独り言のようにつぶやく。


『よ、巨人ヨトゥンども! そのマグナを破壊しろ! 中の娘が死ねば、操作点ノードを回復できる!!』

 オメガが見ている先、そこではアルバートのマグナが白い巨人相手に戦っていた。


 オメガの声と同時に、白い巨人が一斉にアルバートへと殺到する。




 襲い掛かる多数の白い巨人。だが、それらは瞬く間に切り刻まれる。

『私なら倒せると思ったか? ずいぶん下に見られたものだな。』

 アルバートは静かに怒りを吐く。



 続けざまに、他の巨人たちは鉄杭に貫かれ、その上半身が消滅する。

『私たちがやらせるとでも!?』

 エリーゼは熱く怒りを露わにする。



 また他方、恐ろしい速度で巨大な狼の"頭"が飛来し、巨人たちをなぎ倒す。

「モウ、歯ごたえのあるヤツはイナイのかっ!?」

 フィーデは全身に滾る怒りを放つ。



 それでもなお近寄ってくる巨人たち、だが、的確に頭部の弱点を破壊され、次々と倒れていく。

「お前の好きなようにはさせない!!」

 ルクトは強い怒りを示す。



 流石に足を止めた巨人たち、その頭上に巨大な竜が落下し薙ぎ払う。墜落した竜の上には一人の人間が立っていた。

『どうした。我々を殺すのではなかったのか?』

 殲滅卿はどこまでも睥睨するように怒りを齎す。



 操られているにもかからわらず、残った巨人たちは戦意を喪失しつつあった。その巨人たちの上を白い翼が舞う。

 降り注ぐ白い燐光に触れ、巨人たちは驚き戸惑う。

「貴方の支配もこれまでです。」

 レイン断罪の言葉で怒りを表す。



「終わりだ、オメガ。」


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スペックシート:オメガ(シェイドボディ)


氏名:オメガ(シェイドボディ)

性別:なし(オメガの元となった人格所有者は男)

年齢:なし(発生から約300年)

タイプ:中近距離戦

装備:

・PEバッテリー×2

 高性能なエネルギー蓄積装置。装置内部に陽電子化した状態でエネルギーを保持するため、小型で超高容量。

 無線給電によりエネルギー量は自然回復する。

・全身義体 シェイド

 頭部および胸部以外は全て外殻だけで構成された全身義体。

 全身の駆動はWAS(Willact Actuation System 思念力ウィラクトにより対象物を稼働させる駆動系)にて行う。

 主要部品は頭部と胸部に集中しており、それ以外の部位については、全て思念力ウィラクトで構成されていると

 言っても良い。

 無形体アモルファス同様に軽量で柔軟な稼働が可能。だが、無形体アモルファスの欠点である「使用者を選ぶ」

 という欠点を最大限解消している。

諸元:

・PEバッテリー×2

 容量:8000kWh、最大出力:1100kW、最大蓄積能力:600kW

・フィールド発生器×6(胸部に6箇所)

 最大出力:290kW(推力:3000N)(6基合計)

技能:

・飛行

・マルチレーザー

 ウィラクトを収束したレーザーのような光線。ウィラクトであるため、曲射が可能。

思念力ウィラクト攻撃

 四肢もしくは、それに類する形状を成形しての攻撃。

 孝介が用いる迫撃掌アサルト束撃弾スラスト攻勢手甲ガントレットに近い特性の攻撃が存在するが、

 オメガはそれらに別段名称を付けていない。

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