4.結集
『お前は……、そこの男に憑りついていた人格……? バカな、お前の人格を切り離し、ネットワークへ放流したはず!』
これまで落ち着いた様子を崩さなかったオメガが、困惑を露わにする。
「お陰さまで、綺麗に分離できたよ。」
『ありえん! むき出しの人格だけの状態で、ネットワークの海で溶け込まずに残れるはずがないっ!!』
オメガは更に困惑の度合いを強め、語尾には苛立ちが見える。
神様気取りは自分に理解できないことがあるのが気に入らないらしい。
「思い出しただけだ。俺はμファージ溶液の中で人型を取らずにまどろんでいた、300年ほどな。」
それに比べれば、数分程度ネットワークの海で自我を保つくらい大したことじゃない。
『そんなことで……、ふ、ふん、まあいい。今更一人増えたところで──』
「一人じゃない。なぁ? ルクト。」
オメガの声を遮り、俺はルクトに声をかける。
「あぁ、もう少しやさしく起こしてほしかったかな……、」
ルクトはフルフェイスを解除し、首を抑えながら起き上がる。
『な、なん……、だと!?』
僅かに取り戻した落ち着きが再び吹き飛ぶ。
『まさか私が操られるとは……、不覚を取った。』
殲滅卿は立膝の状態で眉間を指で押さえている。
「あぁぁー、なんか気分悪い。イライラするわぁぁっ!!」
フィーデはその怒気を隠す気もない。
「オメガ、お前のプロトタイプを分析した。仕組み上、お前の洗脳は、コレで解除できる。」
俺は右手に
『ふ、だとしても、改めて侵入し、再び私の支配下に置けばよいだけの──、』
俺は奴の言葉を聞き終わる前に、ボディを展開する。アモルファスボディの内部構造は空洞だ。そこを
「アルバート、この子頼む。」
俺は
『え、はぁ!?』
アルバートはマグナでその子を恐る恐る受け取る。少女の首には
「その子を探すのに少々手間取ってしまってね。王都の反対側に隠されているとは……。エリーゼが来なかったら間に合わなかったかもしれない。」
『き、きさま、その娘は!!』
「その子がオメガの弱点だ。オメガにはシステム上の脆弱性が多数存在しているが、その中でもこの子は一番重大な奴だ。」
アルバートは自分のマグナの手の上で、どうしたものかと戸惑っている。
『どういうこと?』
エリーゼが話の先を促す。
「この子の中にあるのがオメガの
俺は右手で
分体の直撃を受けた住民、数十人が倒れる。
「だから、今のオメガは
起き上がった住民たちは口ぐちに「なんだ?」「何がおきた?」などと呟きあう。その様子からはオメガの支配が見えない。
「つまり、今ならオメガを完全に抹消できる。」
『貴様! 許さぬぞ!! 私こそが
オメガは激しく怒気をはらみつつ声を荒げる。その怒りに呼応するように、未だ操られている住民たち、白い巨人の群れ、3体のディヴァステータ達が激しく威嚇し、咆哮を浴びせかけてくる。
「わからないか? オメガ。」
俺は中空に浮かぶオメガの白い全身義体を睨め上げつつ告げる。
「うぜぇな、こいつら。」
フィーデは両手を打ち鳴らしつつ、あくどい笑みを浮かべる。
『虚勢か。』
殲滅卿は静かに立ち上がり、不敵に笑う。
『落とし前をつけてもらうわ!』
レミエルが堂々と構え、エリーゼは強気な声を上げる。
『エリーゼ様、あまり無茶は……』
アルバートはいそいそと少女を自身のコックピットに収容しながら、心配性な発言をする。
「おれだって、戦える。」
ルクトはフルフェイスを閉じ、力強く構える。
「今こそ……、」
レインは再びたちあがり、その目に強い意志を宿す。
「許さないのは俺たちの方だ。」
俺は全身義体アモルファスの体表面を変換し、
「お前は俺たち7人を完全に敵に回した。」
俺たちの放つ"圧"に、敵は一瞬気おされ、怯む。
『殺せぇぇぇぇぇ!!!』
その叫びに、もはや威厳はない。だが、全ての敵はその命令を遂行すべく、一斉に動き出す。
空からリンドヴルムが熱戦をはき、フレースヴェルグの羽が大量に飛来する。
だが、それは1つとして俺たちには届かない。全て不可視の壁に遮られた。
『五月蝿い。』
やや浮上した殲滅卿が軽く右手を振る。
リンドヴルムとフレースヴェルグが巨大な何かに衝突したかのように吹き飛んでいく。
そこへフェンリルが咆哮と共に飛び掛ってくる。
殲滅卿に喰らい付く直前、黒い何かが側頭部に命中し、フェンリルが真横へ吹き飛ぶ。
そこには黒い外殻を纏った女が残った。
「うっとおしい犬がっ!!」
吹き飛び、王都外壁に半身がめり込んだ上体のフェンリルにむけ、フィーデは更に激しく追撃を浴びせかける。
その横、崩落した外壁の隙間を抜け、2機のマグナが駆ける。
『王都の中へは入らせないわ!!』
レミエルが金色の燐光を纏い、白い巨人の群れへと飛び込む。
『エリーゼ様!?』
焦りながらその後をアルバートが追う。
「ルクトとレインは住民たちを頼む。俺は……、」
俺は再び見上げる。白亜の人型が空に浮かぶ。
「アレを潰す。」
速度で圧倒的に勝る2体。フレースヴェルグがその機動性と多数の羽でかく乱しつつ、リンドヴルムが熱線で打ち抜く。それは必勝と呼べる連携。だが、それは"この男以外"が相手であった場合の話だ。。
『ふっ』
2体の放つ遠距離攻撃は、文字通り空間を捻じ曲げる程の
偏向された多数の羽はリンドヴルムを打ち据え、熱線がフレースヴェルグを貫く。
キルゥェェェゴヴバァァァァァ
胴体部に致命的とも言える大穴を空けられたフレースヴェルグが落下していく。リンドヴルムは傷が浅いようだ。再び口内に力を溜める。
『学習しないな。』
リンドヴルムの口腔から白熱した火球が撃ち出され、殲滅卿に襲い掛かる。だが、それも射線を逸らされ、白い巨人の群れへと着弾する
業火に焼かれる巨人たち。
『ちょっと!! 私たちまで焼くつもり!?』
白い巨人は、自身の巨体に比べれば小柄なマグナに向け、その巨大な腕を振り下ろす。
直後きらめく銀刃。巨人は四肢と首を落され、無言で倒れる。
レミエルの周囲で静止する4枚の金属板。それは盾のようであり剣のようだった。
『切り裂け、サテライト。』
エリーゼの声に呼応し、4枚のサテライトは再び散開。周囲の巨人の頭部が次々と刎ねられる。
正面から巨人数体がレミエルに向け襲い掛かってくる。
レミエルは背中にマウントされた砲身を脇から前方へと展開。甲高い音が響き、直後に轟音。
電磁加速により打ち出された鉄杭は、巨人3体の上半身を消し飛ばし、2体の頭部を潰す。
『エリーゼ様! あまり突出しては危険です!!』
アルバートは常にレミエルについて回っている。
そのレミエルに向け、背後から2体の巨人が迫る。巨大な腕を振り上げ──
『エリーゼ様に触れるな、無礼者。』
ぞっとするほどの冷徹な声を出し、アルバートのマグナは姿が消える。
2体の巨人は動きを止める。ゆっくりと、そしてバラバラに、巨人たちが肉片へと変わる。その向こう側には両手に刀剣を持つマグナの姿があった。
再び姿が消えるマグナ。神速のごとき速度で駆け抜けるアルバートのマグナは、目で追うことも難しい程の速度で戦場を駆け抜ける。
その通過した場所に、敵は残らない。
そこへ吹き飛んでくる影。巨大な狼が錐もみ状態で吹き飛んでくる。
アルバートはぐるりと回転し、飛んでくる狼にまわし蹴りを撃ち込む。
アギャゥ!
フェンリルは妙なうめき声を上げ、元来た方向へと吹き飛んでいく。
それを待ち構える人物。
フィーデは向かってきた狼を地面に叩き落す。
「オラオラ、ドオシタドォシタァァァァァ!!!」
真っ赤に赤熱した両手で地面に埋没したフェンリルを切り刻む。さらに蹴り上げ、後ろ回し蹴りで吹き飛ばす。
フェンリルが王都外壁にぶち当たり、外壁の破片が飛び散る。その飛礫が散った先には、正気を失った王都住民たちが居た。
だが、飛礫は彼らに当たらない。
「
ルクトが展開する防御壁により、住民たちは護られる。だが、その住民たちがルクトに襲い掛かる。
「全く、周りへの被害も考えてほしいなぁ。」
Enemyの反応に対し、
多数の反応が一気に消えていく。
「おれだって、できる!!」
コースケが戻ってきてくれた。彼はいつでも私の希望だ。絶望の中で手を差し伸べてくれる。
「今なら……」
システム:アルファ。
システム:スティグマは、オメガとの闘争を想定し、攻撃や防衛機能を着けていた。でもアルファは違う。プロトタイプオメガから抽出した"感染能力"だけを持ったシステム。本来ならオメガ相手では何の役にも立たない。だが、今なら、オメガが新たな感染を広げられない今なら。住民に被害を出さずに救出することができる!
【System: ALPHA... Standby】
スティグマの時と同様に、レインの周囲に
「起動!」
操られた住民たちがレインに飛び掛る。
そんな彼らに、レインは優しく触れる。レインの手から光る粒子が湧き出し、彼らの体へ入り込む。
「……、あれ? 俺たち何してんだ……?」
彼らは唐突に意識を取り戻す。
レインは飛翔する。バックパックからシステム:アルファの生み出す白い粒子を噴出し、頭部にはシステム起動状態を示す金の円環が輝く。
白き燐光を振りまきながら、レインは王都の中を飛び回る。さながら天の恵みをもたらす御使いのように……。
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スペックシート:システム・オメガ(大村 明日斗)
氏名:システム・オメガ(
性別:なし(発生の元となった人格所有者は男)
年齢:なし(発生から約300年)
タイプ:なし
装備:なし
諸元:
・システム概要
生命体の思考領域の僅か数%を占有し、それを数千、数万と束ねて巨大思考領域を作り出す。
思考領域の一部を占有した生命体のことは「
原則として全ての
行う「
破損(死亡)した場合、別の
・発生
自身の人格コピーを本システムに乗せ、稼働させた。結果としてオリジナルである
・存在目的
存在し続けること
・行動原理
やりたいことをやる
自称「
興味の向くまま、何かの知識を授けたり、新しいモンスターを生み出したり、人間同士を争わせたりしている
上位種であるという自意識は、自分以外の存在を実験対象程度にしか認識させていない
・動力源
縮退炉で生成し、ディールレイヤーネットワークから供給されるエネルギーを無尽蔵に
利用可能。ただし、システム・オメガ自体としてエネルギーが必要な場面は存在しない。
すべては各
技能:
・
・
ディールネットワークを介してのアクセスだけでは侵入できない場合がある。
その場合は別の
セキュリティホール
システム・オメガには、競合プログラムが存在しないが故に、様々な問題点が残されている。
・
(平文通信の状態であるため、傍受されると通信内容が簡単に割り出されてしまう)
・
(トークンキーなどの偽装防止がされていないため、送受信偽装に弱い)
・思考領域の一部を利用するような別プログラムと競合する。競合した場合に強制的に
が解除される
(競合プログラム例:
・
(破損・死亡の場合には別
更新が行われない。⇒本編においては
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