8.崩壊

 あの時とは違う。今ならやれる。アモルファスなら!!


 体内にある全フィールド発生器のリミッターを解除する。直列起動で最大稼働。

 体中の隙間と言う隙間から、青い炎のように思念力ウィラクトが噴き出す。


 そして装甲の連結を解除。がらんどうの中身が展開される。アモルファスには内部構造は無い。あるのはPEバッテリーとフィールド発生器と装甲だけだ。思念体も思念力ウィラクト上で稼働しているため、装甲の拘束を解けばどのような形、大きさにも変化することができる。


 俺はマグナを越える10m超の巨体へと変形した。


「オオオオオォォォォォォォ!!!」


 闘争心の赴くまま、咆哮を上げる。


 コイツヲコワス。


 敵はまるで動きが遅い。話にならない。こんなやつに俺は手こずっていたのか。


 オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、

 オソイ、コワイ、オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、コワイ、オソイ、オソイ、オソイ、

 オソイ、オソイ、オソイ、コワイ、オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、オソイ、


 俺は身体を自由に流動させる。回り込むときは細く、打撃では巨大に、穿つ時には鋭く。


 コワス、コワス、コワス、コワス、コワス、コワイ、コワス、コワイ、コワス、コワス、

 コワス、コワイ、コワス、コワイ、コワイ、コワス、コワス、コワス、コワイ、コワイ、

 コワイ、コワス、コワイ、コワス、コワイ、コワイ、コワイ、コワス、コワイ、コワイ、


 なかなか頑丈だ。ナラバ、


 コワイ


 右手に力を集め、



 コワイ、そしてハジケタ。


「オゴォ……?」


 右手が治らない。体がおかしい。縮んでいく。


「ウゴガガガガァガ」

 体が膨らんだり萎んだりしながら、だんだんと元の大きさへ近づいていく。


「こ、これは……? 恐怖?」



 意識の内側からの悲鳴。人型を失う恐怖。



「な、なんで……、あとちょっと……だった……」



 俺は暗闇へと落ちて行った。





 悲鳴……? 誰が叫んでいる?






 オレは……、ダレだ?


 ココはドコだ……?




 オレ……、



 コースケ!! ルクト!!




 オレ?



 ヒカリ……、光が見える。




 光の中に誰かが居る。その人は、俺の手を引く。


 ああ、ダメなんだ、もうアシが無い。カラダも無くなった。


 光の人が身体を足をひっぱてくる。



 コースケ! ルクト! しっかり!!



 光の人に引かれ、だんだんと浮き上がる。





 うっすらと視界に白髪で赤目の少女が映る。


「……、レイン?」

「コースケ! 気が付きましたか。」

 レインは目を潤ませている。


「"人型"を失い、恐怖で消えかかっていた人格を、元の体に戻しました。」

 俺は起き上がり、手足を確認する。確かにルクトの身体だ。すぐ横には、半分崩壊したアモルフォスボディが置かれていた。


「すまない、心配かけた。」

「無茶をしすぎです。」

 レインは少し目じりを濡らしつつ告げる。


「ごめん……。」

 そこで俺は気が付く。


「そうだ! 敵は!?」

 俺の言葉に、レインは俺の後ろを見る。


 振り返ると、まさに王都の外壁を乗り越えようとしている巨大な怪物"ヨルムンガルド"の姿があった。

 王国軍マグナの残存戦力が攻撃を仕掛けているが、遅滞戦闘にもなっていない。


 あれは……バジス? 空を飛ぶ船は半壊ながらも果敢に攻撃を仕掛けている。


 エリーゼたちも戦っている。



 俺は立ち上がる。


「コースケ! 無理は……っ!」

「今以外にする時が分からないな!」

「なら!」

 レインも壊れかけの巨大破砕槌オープレシーインジェンスを手に立ち上がる。


「私も行きます。」

「……、わかった。」


 俺たちは足のフィールド発生器を起動し、揃って浮上する。


 殲滅卿との戦いでかなり破損したはずだったが、"留守"の間も自己修復が進んだらしく、多少機能が回復している。あくまでも多少だが……。


「俺が牽制する! レインは隙を見て叩き込め!!」

「わかりました。」


無幻残影デヴァイドミラージュ!!」

 俺の分身体が出現し、青い光をたなびかせ、空を駆けていく。

 通過したバジスの甲板ではエリーゼが何事かを叫んでいた。


 俺はそれを後目に、ヨルムンガルドに向けて飛ぶ。


 ヨルムンガルドは俺の分身体など目にも留めていない。


「こっちを向かせてやる!!」

 俺は分身体の隙間から接近し、頭部に迫撃掌アサルトを打ち込む。

 人間でいうところの、こめかみあたりに命中したが、逆に俺が反動で後退する。


 直後、逆サイドからレインが巨大破砕槌オープレシーインジェンスを振り抜く。インパクトの瞬間に発生する衝撃波が凄まじい衝突音を響かせた。

 だが、ヨルムンガルドは動じない。


「これならどうだ!!」

 右腕のフィールド発生器が過剰圧縮により高周波音を上げる。俺の挙動に合わせ、周囲の分身体が集まってくる。


自壊迫撃アウトバースト重撃オーバーレイ!!」

 接触の瞬間に分身体が収束する。ヨルムンガルドの頬を捉えた重撃は、僅かにたたらをふませた。


 グゴォォォォォォォ……、


 右手の破損した圧縮器を排莢する。


「いける! 追撃を──、」

 メギ、という嫌な音が体から響く。巨大な壁が目の前に突然現れていた。いや、ヨルムンガルドの腕だ。


 俺はヨルムンガルドの裏拳を食らい吹き飛ばされた。


「コースケェェェェ!!」

 レインの叫びが急速に離れていく。



 数十m以上地面を滑って停止した場所は、ヨルムンガルドから数百mは離れていた。


「うぐぁ……。」

 パワードアーマーの損傷も酷いが、生身部分のダメージが深刻だ。体内のμファージが修復してくれるとはいえ、きつい物はきつい。


 俺はなんとか起き上がり、右腕に新しい圧縮器をセット。再び浮上し、ヨルムンガルド目がけて飛ぶ。


 ついに王都外壁は大きく崩壊し、市街地へとヨルムンガルドが侵入する。


「それ以上いかせない!!」

 無幻残影デヴァイドミラージュを起動しつつ接近する。


 グウガァァ!


「!」

 背部から多数の光線が放出され、それらは全て俺に向けて突っ込んでくる。


「くっ!!」

 機動を大きく変え、俺は回避行動をとる。だが、光線は歪曲し俺を追跡してくる。

 分身体を囮に使い、それでも止められない分を小刻みに旋回、ロールを繰り返し、光線の軌道から逃れる。



 グガ!



 奴の背中に再び光が宿る! 今追加されたら、これ以上は避けきれない!!



 赤い光の筋。王都の屋根伝いに接近し、瞬く間にヨルムンガルドの胴体を駆けのぼる。


「ガァァァァァァァァッッッ!!!!!」

 奴の顎下で赤い閃光がはじける。


 ヨルムンガルドが大きく仰け反り、1歩、2歩と後退する。


 奴の頭があった場所。そこには両手が真っ赤に赤熱した黒い人影が浮いていた。


「フィーデ!?」

 全身黒い外殻に覆われたフィーデは、空を蹴るように降下すると、一つの屋根に着地した。


 俺は恐る恐るフィーデに近づく。その姿は、先日の戦闘で最後に見せたいわゆる"完全体"のソレだった。


「安心しろ。今は正気だ。」

 全身、顔まで全て外殻で覆われたフィーデの表情は窺えない。だが、外殻表面。顔面部は鬼面の様相だ。


「貴様との共闘など反吐が出る。だが、アレの相手は私一人では手張る。手を貸せ。」

 フィーデはヨルムンガルドから視線は外さない。


「それはありがたいが、なぜ?」

 俺の疑問にフィーデは鼻先で嗤う。


「なぜかだと? 私はここで生まれた。そしてロディもな……。」

 フィーデから僅かに怒気が漏れる。

「私は連携などできない。お前が合わせろ。」

 フィーデの身体が更に激しく加熱され、両手は白熱し始める。


「いくぞ。」


 フィーデの号令に合わせ、俺は三度無幻残影デヴァイドミラージュを全力展開する。

 青と赤の軌跡が巨大な巨大な怪物へと向かう。

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