9.共闘

 無幻残影デヴァイドミラージュの分身体をフィーデと俺の周りに滞空させる。

 フィーデは屋根を蹴り、俺の分身体を蹴りながら上昇していく。俺もそれに併せて上昇する。



 グウガァァアァァァァァ!!



 俺たちに向けて振り下ろされる巨大な両腕。俺たちはそれを左右に避ける。

 そのまま腕の軌道を迂回し、頭部に向けて飛翔。


「シャァァァァァァ!!」

攻勢手甲ガントレット重撃オーバーレイ!!」


 同時に発した2発分の威力に、ヨルムンガルドは大きく仰け反る。


 分身体を足場にし、一気に降下。

 ヨルムンガルドの腹部で横へと加速し、再び二人同時に腹部へと打撃を打ち込む。


 グウゴァァ……、


 奴は呻き声を上げつつ、体は"く"の字に折れ曲がる。



 奴の背中から多数の光線が発射され、うねりながら俺たちに殺到する。


 俺たちは軌道を交錯させながら奴の周囲を飛び回り、追尾してくる光線を奴自身の身体へとぶつけていく。



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 私は半壊状態のバジス甲板から身を乗り出し、その情景を見ることしかできなかった。


 あれは間違いない、行方が分からなかったフィーデだ。

 そのフィーデとルクトが共に戦っている。


 ヴェタスマグナも失い、ここで彼らの戦いを見守ることしかできない自身が歯がゆい。だが、そんな想いを抱えつつも、見惚れてしまうほど、幻想的な光景が展開されていた。


 赤と青、二色二筋の光がは時に並行、時に交錯し、巨大な怪物の周囲を縦横無尽に飛びつくす。時折怪物自身が撃ち出す光線とも混ざりあり、まるで空に光の絵画が描かれているように見えた。


「美しい……。」



 グウゴアァァァァ……、


 その2本の閃光は、巨体を確実に削り、打ち砕き、徐々に破壊へと近づけていく。



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 警告音が鳴りっぱなしで止まらない。両手両足の義体も限界だ。今にも自壊してしまいそうだ。

 PEバッテリーの残量もかなり少ない。あとどれだけ重撃が撃てるだろうか。

 フィーデもかなりきつそうだ。


 それでも、まだ止まれない。


 ヨルムンガルドをかなり弱らせたが、まだ倒しきるには至らない。奴らは自己修復する。完全に倒しきる必要がある!



 奴は再び背中から光線を放つ。分身体を囮にしつつ回避、


「ぐっ!」

 だが、避けきれなかった数発が脇腹や肩を焼く。


「もう一本!!」

「グルゥゥゥァァァァァァァッ!!!」

 奴の右上腕に俺とフィーデの攻撃が入る。直後、右上腕部が破砕し、腕がもげて落ちていく。


「ガァッ!!」

 ヨルムンガルドが苦し紛れに放った光線の1本が、フィーデの腹を撃ち抜いた。


「フィーデ!」

「トマルナ!! イクゾォォッ!!!」


 グブウゴォォォォ!!!


 ヨルムンガルドの背中から空を覆う程の光線が発射される。まるで光の被膜が広がっているようだ……。

 これは避けきれない!!



 俺は咄嗟に拒絶障壁ウィラクトシールドを展開し、フィーデを庇うように前に立つ。全ての分身体も集めて盾にする。


 逃げ場の無い、埋め尽くす程の光線が襲い掛かってくる!



「ぐうぅぅぅぅ!!」



 閃光が消えた。拒絶障壁ウィラクトシールドと分身体は消えてしまったが、身体に特に大きな被害が無い……?


「よ、かった……、」


「レ、レイン!!」

 俺たちの目の前には、右手左足を失い、ドレスアーマーもボロボロになったレインが滞空していた。


「だ、いじょ、ぶです。 それより、今。」


 柄だけになった巨大破砕槌オープレシーインジェンスでレインが示す先。

 ヨルムンガルドは半分放心したような状態で動きを止めている。


 今の攻撃は奴でもかなりの無理をしたということなのだろう、一時のことだろうが機能不全を起こしているらしい。


「フィーデ!!」

「イワレルマデモナイ!!」


 俺とフィーデは左右に飛び出す。


「焼き切れてもいい!!」

 俺は無幻残影デヴァイドミラージュを全力稼働。今出せる最大の分身体を生み出す。


 フィーデも力を右手に集めている。全身の熱量は下がっているが、右手だけが白熱している。



「コレデェェェェッ!!!」

「終わりだぁぁぁっ!!!」



 シンクロする2発の衝撃。

 俺の自壊迫撃アウトバースト重撃オーバーレイと、フィーデの白熱した拳が左右から奴の頭部へと打ち込まれた。



 内部機構が噴出する。ヨルムンガルド頭部の穴という穴からμファージ混じりの液体が噴き出す。


「まだまだぁぁあ!!!」

 俺は更に左手のフィールド発生器も高圧縮させる。


 俺が追加の自壊迫撃アウトバーストを打ち込むと同時に、フィーデも逆サイドから両手突きを打ち込む。


 頭部が爆砕し崩れる。



 いくら"魔王"と呼ばれた怪物とはいえ、頭部を失えば死亡するようだ。

 ヨルムンガルドは緩やかに傾き、徐々に加速しつつ倒れていく。


「レイン!」

 俺は振り返り、レインを確かめる。

 ぐったりとした様子だが、それでもまだ滞空できる状態ではあるらしい。


「大丈夫か!?」

「わ、たしは、全身、義体です。主要、部位は、無事です。」

 レインは力なく笑いつつそう言う。俺はレインを支えつつ、緩やかに王都の路地裏へと着地する。


 ヨルムンガルドの巨体が地面に倒れ込み、地面を揺るがす。周囲から何かの壊れる音や悲鳴が聞こえる。

「……、よかった、倒れたのが王都の逆側で……。」

 あれを支えることになったらと思うとゾッとする。



「貴女のお陰で助かった。一応礼を言っておく。」

 レインを抱える俺の背後から、フィーデの声がする。


「フィーデも、今回はありが──、」

 振り返ると、そこにフィーデは既に居なかった。


「ま、俺に礼を言われても嬉しくないかな……。」


 そこで再びレインを見る。ボディのあちこちに損傷があるが、なにより右手と左足が無い。これでは歩けないな。


「とりあえず、応急処置として手足を構築して付けようか……、あ、」

 俺は情報端末メディアから【デザインドラフト】で丁度良い感じの義手義足を探そうとして、資材値がほぼ0なことに気が付いた。

「あ~、アモルファスボディにほとんど使ってしまったか……。」


「コースケ、」

「ん? どした?」

 レインは少々伏し目がちに言葉を続ける。

「もうしばらくすれば、自己修復が始まります。なので……、」

 レインがモジモジしている。


「差支えなければ、それまで、その……、抱き上げていただければ……、」

「わかった。」

 俺はレインを抱え上げる。いわゆるお姫様抱っこというやつで。


 レインを抱き上げ路地裏を出る。そこでは慌ただしく王国兵たちが往来していた。先ほどから戦闘音も聞こえないし、どうやら我々の防衛は成功したようだ。


「ルクト・コープ!」

 声の主はテレンス教官だ。俺に向かって走ってくる。


「言いたいことは多々あるが……、だが、今は一つだけにしておこう。」

 テレンス教官は渋面で続く言葉を告げた。

「よくやった。お前は英雄だ。」

「教官……。」


「ルクト君!! 君はやればできる奴だと前から思っていたよ!!」

 俺が教官の言葉にすこし感動していたところで、横合いから空気を読めない男の声が聞こえた。

 レイヴの相変わらずどこかズレた発言だ。一目置いていてくれたのか、それともこの場の雰囲気での言葉なのか。たぶん気にしたら負けだ。


 その向こう、マグダイムと取り巻き2名がこちらを見ていた。


「……、その、彼女は、大丈夫なのかよ?」

 マグダイムの第一声は、レインを心配する言葉だった。


「あ、ああ、彼女の身体は色々と特殊でな。このくらいなら大丈夫だ。」

 俺の言葉にマグダイムは「そうか」と小さく答える。


「……、助かった、礼を言う。」

 それだけ言うと、マグダイムは取り巻きを連れて去っていく。

 気に入らない奴だが、"認められた"というのは悪い気分じゃ──、

「……ない、な……?」


 視界が徐々に上に向く……、アレ?


 次の瞬間には、俺はレインをお腹の上に乗せた状態で仰向けになっていた。


「コースケ!!」

「─…──!!」


 レインの声がだんだん遠くなる。視界も暗くなる。


 そのまま俺は意識を失った。



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 倒れた機械装備の男と、それに縋りつく女。

 なんだこいつらは……? こんな奴らがなぜ!?



 バカな! ありえない! 奴が生き残っていたのか!?



 それにあの身体。あれは全身義体!?


全身義体トランスヒューマンが残っていたというのか!?」


 許されない

 許されない

 許されない

 許されない

 許されない

 許されない

 許されない

 許されない


 そのような存在認められない。


「私は唯一にして無二の存在。至高にして最上。それを脅かす可能性は、消さなくては……。」

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