5.殲滅戦

 見渡すたびに、この非常識な飛行体の大きさに驚く。

 帝国軍が搭乗し、王都まで進軍してきたこの巨大な島は、その上で何体ものマグナが戦闘をしていてもびくともしない。


 銀の刃が閃く。


 私は盾でそれを受け、そのまま盾から衝撃波を発して弾き飛ばす。

 倒れた敵マグナに追撃しようにも、別のマグナがフォローに入ってくる。


「くっ! 連携が上手い!」

 私とアルは4機のマグナ相手に攻めきれずにいた。見ようによっては、倍の敵と渡り合っているともいえる。だが、私はヴェタスマグナ使いだ。普通のマグナ相手に手間取っていいわけはない。

 アルのマグナも、ルクトが手を入れてから明らかに動きが良くなった。機動性、攻撃力共にヴェタスマグナに迫る程に。


 にもかかわらず、4機に攻めあぐねる。この4機は間違いなく私たちを足止めしている。


 再び1機が斬りかかってくる。それを弾いたところで他の1機がフォローに回り、倒しきれない。


『エリーゼ様、我々がこれ以上食い止められては……、』

『そうね、何とか抜け出さないと。』

 私たち、いえ、私に求められているのは、迅速に"頭"を潰すこと。王国最強戦力による短期決戦だ。

 そんな私がこんな場所で足止めを食らっていてはいけない!!


『温存を考えては勝てないわ!』

 内部動力炉の出力を上げる。レミエルの装甲から僅かに金色の燐光が漏れる。


 盾から衝撃波を放出したまま突進する。2機のマグナが一気に吹き飛ぶ。よろめく2機の間を抜けながら、大剣を振り抜く。

 過剰供給されるエネルギーにより、大剣の刃は耳を突くような高周波音を発しながら敵マグナを両断した。

『1つ!』


 斬りかえし、近くの1体に向け大剣を振り下ろす。盾と接触した刃が激しく火花を散らす。

 その敵の腹から剣が生える。アルのマグナが背後から貫いていた。


『これで!!』

 残り2体!!


『エリーゼ様、これ以上は! ここは私に任せて先へ!!』

 既に最大稼働状態の継続が困難にはなりつつある。だが……、


『そんなかっこいいこと言って、あなたもギリギリでしょう!?』

 先ほどから視界隅でとらえていたアルの動きは、普通のマグナのソレではない。まるで軽業師のようだった。恐らくは関節部は限界に近いはず……。




『お待たせしてしまったかな?』




 私とアルは一斉に振り返る。

 中空に浮かぶ黒い人影。黒いマントを翻し、緩やかに降下してきた。



『最近は良くお会いしますな、エリザベート殿下。』

『それも奇妙な場所でばかりね、ハーヴァシター卿。』

 白銀の仮面で表情は窺えないが、声の調子は軽い。


『お二人は私に用があるようだ。君たちは下へ』

『はっ!』


 2機の敵マグナは殲滅卿の指示を受け、島から降下していった。


『ハーヴァシター卿、すぐに部隊を引きなさい。なぜ急にこんな無茶な侵攻を!?』

『無茶であるか……、それは結果でわかろうというもの……。まあ、すでに結果は出ているも同然。』

 殲滅卿の仰ぐ先。そこには王国軍の陣容を食い破り、王都を蹂躙せんと前進する帝国軍があった。


『このような無法! 周りの国も許しはしない!!』

『王国を併呑した帝国に異を唱える国などありますまい。』

 殲滅卿は淡々と答える。彼の声からは、本気の意見であることが窺えた。


『私は皇帝陛下の剣。陛下の命令は絶対。言葉で剣は止まりはせぬ。』

 声のトーンが一段下がる。


『剣を止めたくば、剣を持って止めて見よ。』

 殲滅卿から押し飛ばされそうなほどの圧が放たれた。



 殲滅卿が軽く手を翳す。すぐ左に居たアルが視界から消える。遅れて背後から激しい衝突音!


 アルのマグナが30m程吹き飛ばされ、小山に激突している。


『よそ見とは余裕ですな。』

 殲滅卿はレミエルの頭部を張った。


 巨大な落石にぶつかったかのような恐ろしい衝撃!

「あぁぁ!!」

 レミエルが半回転して地面に転がる。


『エリーゼ様!!』

 アルのマグナが大剣を振り下ろすが、殲滅卿の直前でビタりと止まる。まるで不可視の壁でもあるかのように……。


『フッ』

 軽く息を吐き、殲滅卿が右手を捻る。

『ぐぁぁ!!』

 アルのマグナな左腕がねじ切れていた。

 そのまま、殲滅卿が左手を横に振り抜くと、その速度でアルのマグナが横へ吹き飛んでいく。


「こぉんんおぉぉぉぉ!!」

 レミエルは更に激しく金の燐光を放つ。


 振り下ろした大剣が不可視の壁と衝突し、空間を揺るがす。


『ほぅ、なかなかやる。』

 殲滅卿が手を翳し、力を込める。不可視の壁は抵抗力を一気に増す。


『あぁぁぁぁぁっ!!』

 レミエルの両腕が軋みを上げる。だが、押し切って見せる!!


 ビシッ


 大剣の刃が欠け、剣身が嫌な音を立てる。武器が持たない!!

 一瞬の逡巡、その隙に剣を逸らされ、前へとつんのめる。そして上から凄まじい圧力で地面へと押しつぶされた。


『うぐっ!!』

 レミエルの機体が押し込まれ、ギシギシと異音を立てる。


『エリーゼ様をっ!!』

 アルのマグナが飛びかかるも、軽く受け流され地面に転がる。


『ぐっ、まるで本気じゃない……!』

 そう、じゃれてくる子犬でも相手にしているかのように、殲滅卿は軽々と2機を相手に立ち回る。


 途端、殲滅卿が急にあらぬ方向を向き手を翳す。

 まるで金属同士が衝突したような異音が響き、銃弾と呼ぶにはあまりに大きな弾頭が殲滅卿の眼前に4発停止する。直後に弾頭が炸裂! 殲滅卿は黒煙に包まれる。


「エリーゼェェェ!!」

「ルクト! レインまで!? 来てはダメ!!」


 全身が黒い装甲に覆われた少年と、黒いドレスアーマーの少女が降り立った。



==================================================



 あれで終わったわけがない。俺は晴れない黒煙に向かって速射束撃ガトリングを打ち込みつつ飛翔。レインは遠隔駆動多薬室砲フロートセンチピート4基を操り、銃弾を発射する。


 レインが撃ちこんだ銃弾により厚みをました黒煙の中へと攻勢手甲ガントレットを叩き込む。が、あまりに硬質な手ごたえ。

『やはり現れたか。』

 いずれの攻撃も、思念力ウィラクトの強固な障壁に防がれ、汚れ一つ付いていない。


 殲滅卿の障壁に弾かれ、俺はやや後退する。


『ふむ、4対1か。少し本気でいこうか。』


【Abnormal Willact Field Detected!】

【Danger!】【Danger!】【Danger!】【Danger!】

【Danger!】【Danger!】【Danger!】【Danger!】

【Danger!】【Danger!】【Danger!】【Danger!】


 情報端末メディアがこれまでにない程の異常な警告を発する。


「レイン!! 防御だ!!」

 俺は前面に集中して拒絶障壁ウィラクトシールドを全力展開。直後、目が眩む閃光と空間が歪む程の衝撃!


『ぐばぁっ!!』

 アルバートのマグナは粉々に分解されつつ空を舞う。

『ま、また俺かぁぁぁぁ!!』

 彼は悲壮な嘆きを残響音として残し、地上へと落下していった。


『うむ。少々狙いが逸れたか。』

 手負いだったとはいえ、マグナを一撃で粉砕するとは……、想定していた以上の攻撃力だ。

 それにこちらの攻撃はほとんど効果が無い。防御力も想定以上だ。


「だが! 攻撃方法が無いわけではないっ!! 制限解放リリースからの無幻残影デヴァイドミラージュ!!」

 視界がモノクロに変化し、更に周囲には俺の分身体が浮かぶ。今度は手だけではない。全身の分身体だ。


『むっ。』

 俺は分身体と入り乱れるように殲滅卿の周囲を飛び回る。その中にはレインの遠隔駆動多薬室砲フロートセンチピートも紛れている。


「いくぞ!!」

 すべての"俺"は手に攻勢手甲ガントレットを宿し四方八方から殲滅卿へと殺到する。


『激しい攻撃だな。』

 レミエルが金色の大剣を振り下ろす。殲滅卿は手を翳してそれを──、俺の分身体がその手の前に立ちはだかる。

 殲滅卿が放った思念力ウィラクトは俺の分身体がその身に受けて対消滅する。直後、金の刃は奴を護る障壁に衝突、火花を散らす。


「これで!!」

 レインの操る遠隔駆動多薬室砲フロートセンチピートが殲滅卿の上下左右に配置され、一斉に銃撃する。


「重ねるっ!!」

 俺は背後から接近。俺の攻勢手甲ガントレットに併せて、周囲の分身体が集まり、多数の攻勢手甲ガントレットが同時に同一箇所へと命中する。

攻勢手甲ガントレット重撃オーバーレイ!!」

 それでも奴の障壁は破れない。だが、さすがの多重攻撃に揺らいでいる。


『ぬぅ!』

 殲滅卿の思念波から、僅かに動揺の声が聞こえる。

『押し切るわ!!』 

 レミエルが更に力を強め、障壁へと刃を押し込んでいく。


 殲滅卿の両手に、一瞬閃光が宿る。


 不味い!! 拒絶障壁ウィラクトシールドを──、

 視界が白で埋め尽くされ、見えた時には俺は地面にめり込んでいた。


「ぐ、またか……、」

 先ほどアルバートを砕いた術だ。

 視界投影型ディスプレイインサイトビューが示す体中の各部位の状態には、レッドサインやイエローサインが点灯している。分身体は全て消滅していたが、何とか五体は満足だ。


『物理魔法煌輝コルシェント。私にしか使えない、専用の魔法だ。私が持つ巨大な"アニマ"のみが、これを可能とする。』


 通常、思念力ウィラクトは不可視だが、それが眩い光を出す程に生成圧縮しているということか。俺の義手にあるフィールド発生器ではあんな異常な圧縮など到底できない。

「人間技じゃない……。」



『久しぶりになかなか楽しめる。このくらいで死んでくれるなよ?』

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