3.動員
ここ、メディオ王国の東側、そこには神聖レジオカント帝国が存在している。
王国と帝国の狭間には、多数のモンスターが跋扈する"緩衝地帯"が存在している。王国と帝国はこの緩衝地帯を巡って数十年間争い続けている。とはいえ、ここ十年ほどは目立った戦闘行為も行われなかった。しかし……。
王都にいる人々の多くは、「帝国は東側なのだから東側から攻めてくる。」と認識していた。
だが、帝国軍は西側に現れた。
どうやったのか不明だが、どうやら海を越え、大きく迂回してきたらしい。海には大型のモンスターが多数生息しており、逃げ場の無い船でそこを越えるなど、緩衝地帯を越えるよりも遥かに危険だ。にも関わらず、帝国軍は西側へと回り込んできた。
「どうやって現れたか? そんなことは問題ではない。今考えるべきは、どうやって護り、戦うか、だ!!」
講堂の舞台上、士官らしき男が激を飛ばす。
俺たちは兵学校登校直後に講堂へと集められ、"王都西側に帝国軍出現"という情報を聞かされた。
「諸君らも防衛戦力として投入されることが決定した。」
どうやら俺たちもこのまま戦力として動員されるらしい。
兵学校の生徒なら、こういうこともありうるという説明は聞いていたが、実際にその状況に至りすんなりと割り切れる人間は少ないのだろう。周囲はざわつき始める。
「奴らは1両日中には王都に侵攻すると予想されている。時間がない。早速だが、戦闘実技を行った班で集まれ。」
皆少しずつ移動を始めるが、ざわつきが収まらない。
「事態は亡国の危機だ!! 貴様らの遅れが国を滅ぼす!! さっさと並ばんか!!!」
皆焦るように班員を探して集まる。俺もマグダイム+取り巻き2名に近づく。レイヴは機兵科であるため、ここにはいないようだ。うちの班は4名になってしまったな。
「なんでこんなことに……」
マグダイムが小声でつぶやいている。たぶん、それが普通の感想なんだろうな。俺は慣れてしまったせいか、"仕方ないな"という気分だ。
今朝、下宿を出てくるときにはこんなことになるとは思っていなかったから、普通に出かける挨拶をしてきただけだ。レインは、どうしているだろうか。できることならサンディさんたちと一緒に避難してほしいが、それを伝えに行くことも……。
「あ、できるか。」
思わず声に出たため、マグダイムたちに睨まれる。
俺は焦って首を振りながら誤魔化しつつ、
プルルルルルルル、プッ
『……ん? これは?』
思念波を通じ、レインの声が聞こえる。
『あ、レイン。聞こえる?』
『はい、聞こえます……、え、あ、はい。そうです、コースケです。』
なにやら向こう側で何か聞かれているらしい。レイン、声に出して答えてたんだな……。念じるだけで通話できるんだけども……。
『じつは……』
俺はざっくりと帝国軍が西側から侵攻してきていることと、俺が動員されることを伝える。
『コースケが動員されるなら、私も行きます。』
そう言うだろうとは思っていた。
『レインには、サンディさん達を護ってほしい。』
『で、でも……』
『俺が帰ってきた時、誰かが亡くなっていたら悲しい。俺のためだと思って、頼む。』
『……』
『俺なら大丈夫、死ぬ気は無い。』
『わかりました……。必ず、必ず帰ってきてください。』
しばしの間の後、レインは絞り出すように答える。
『ありがとう、頼んだ。』
『はい、コースケも──』
「ルクト・コープ!! 聞いているのかっ!!!」
レインの言葉を遮るように怒声が響く。
「え、あ、はい?」
「さっさと戦技兵器を受け取りに行かんかぁぁぁ!!」
「は、はい!!」
頭髪が無い年嵩の教官が真っ赤になって怒鳴る声に、俺は飛び跳ねるように反応した。
どうやら俺がレインと電話しているうちに説明が終わり、武器の支給が始まっていたようだ。
一応、どんな説明だったか、
「今日に限って、アーマー置いてきたんだよなぁ……。」
支給されたのは、再び剣と盾の戦技兵器だ。防具は革鎧。こちらは戦技兵器ではなく、ただの革鎧だ。
以前の俺はレインと同様に、全力で戦技兵器を稼働させると
だが、そんなことでは兵学校の授業が受けられない。そのため、第13独立部隊の屯所で戦技兵器を借り、出力調整の練習をした。
刀剣8本犠牲の後、俺は適切な
つまり、今の俺は戦技兵器でも戦える。まあ、パワードアーマーで戦う方が強いけど。
俺たちの班からは機兵科であるレイヴが抜けたため、教官が入っての5人で編成された。兵学校の学生は全て5人ずつの班で運用されるらしい。
装備やメンバーが実地戦闘実技の時と似ていて、なんだか奇妙な気分になる。
「れ、連携の確認を行うぞ!!」
一応この班のリーダーに任命されたマグダイムが音頭を取る。顔色が青すぎるし、いつもの威勢が無いが。
それから半日ほど、班での連携を確認した。
「た、
マグダイムは青い顔で俺に怒鳴りつけてくる。
「戦争において、
テレンス・キオース教官がマグダイムに忠告する。テレンス教官が俺たちの班の5人目だ。
実は、1年次最後の実地戦闘実技で俺たちの班を隠れて監視していた教官だ。40代の渋いおっさんだ。
なんとも纏まらない連携の練習を行い、俺たちはそのまま校舎で一泊。翌朝、早くも出撃となった。
俺たちは隊列を組み、王都の大通りを行進する。いつも賑やかな大通りには人は無く、閑散としている。大通りの先には、王都の外壁から出る門が見える。俺たちの行進は門まで十数m手前で停止した。確か……、そうそう、俺たちは門の内側で待機なんだ。昨日の記録映像でそのように指示されていたんだった。
数軒の建物を挟んだ先の通りにはマグナも展開している。どの機体も兵学校で見た覚えがある。たぶん、学生の機体がここでの待機なんだろう。
門が閉ざされているのと、外壁も高さがあるため外の様子はわからない。だが、遠くから爆発のような音が響いて来ている。既に戦端は開かれているようだ……。
遠く雷鳴の様に響く戦闘音に、班のメンバーたちも落ち着きなく浮き足立っている。
「なんで……、どうして俺が……、」
マグダイムが小声でなにかをつぶやいている。
だめだ。うちのリーダーがこんな状態ではまともに戦えないんじゃなかろうか……。
その時、遠く後方の頭上から駆動音が響き、直後、飛行型魔導船3機が上空を通過し、外壁の外へと飛び去って行った。
見たことも無い飛行体の出現に、更に周囲がざわつく。
「今のは……、バジス?」
3機の内1機は、俺も良く知るあの船だったように見えた。
魔導船って王都の住民にも秘匿されている技術のはずだが、こんな大っぴらに飛んでいいのだろうか。隠す余裕も無いということか……?
直後、間近での爆発音とともに地面が揺れる!
「うわぁぁあぁ!!」「きゃぁぁぁあぁ!!」
地響きに足を取られ、周囲の人々は悲鳴を上げながら地面を転がる。
更に連続した爆発と振動が続き、外壁の一部が崩落した。
「うわぁぁぁ! 王都の外壁が!!」
崩れた壁からは、外の様子が見えた。
空に浮かぶ島。その周囲には先ほどの魔導船3機が飛び回り、地上ではマグナ部隊や歩兵部隊が展開され、天と地に向けて激しい砲撃戦が展開されていた。
「ぁぁぁぁ、あんなのに、勝てるわけが……、」
静まり返った周囲で、誰かの弱音が響き渡る。
崩れた外壁に銀の手がかかる。
身長5mはあるであろう銀の巨人、帝国軍のマグナが壁内へと侵入してきた。
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スペックシート:ルクト・コープ(識名 孝介)
氏名:ルクト・コープ(
性別:男
年齢:16
タイプ:中近距離戦
装備:
・PEバッテリー
高性能なエネルギー蓄積装置。装置内部に陽電子化した状態でエネルギーを保持するため、小型で超高容量。
無線給電によりエネルギー量は自然回復する。
・義手義足
チタン合金による骨格、人工筋繊維による作動、強化繊維ベースの強靭な人工皮膚によって構築されている。
【
・圧縮格納μファージ
機能を停止し、体積圧縮されたμファージ。体内や義手義足の余剰スペースに格納保存されている。
そのままでは使用できない。使用する場合には解凍展開、機能の再起動を行う必要がある。
展開すると黒い粘液体で広がる。展開状態であれば装備の設計変更、再構築など、様々な用途に使用可能。
・フラクタス(剣の戦技兵器)
刃の部分に流動性を持った液体金属を含み、微弱な魔力で金属を流動させ、切断力を上げる。
刃以外の剣身強度を上げる効果もある。
・クリペウス(盾の戦技兵器)
波動障壁搭載のシールド。機械的に発生補助を行っているため、細かいコントロールが不要。
・サニタム(魔法効果のある防具)
厚めに織り込んだ麻でできたシャツ、自己治癒能力を高める効果をのせてある。ただし、効果は「気持ち」レベル。
・皮の鎧
ただの皮鎧。動きを阻害しないように面積は小さ目。
・その他、皮のブーツやグローブなど
諸元:
・PEバッテリー
容量:3000kWh、最大出力:500kW、最大蓄積能力:300kW
・フィールド発生器×4(両手両足の義手)
最大出力:72kW(推力:1600N)(4基合計)
技能:
・付け焼刃の盾使い
・飛行
・
ウィラクトによる衝撃波。近距離用であるため、射程は数十cm。
・
ウィラクトによる衝撃波。高収束による遠距離用。射程は数m。
スラストタイプは距離で威力が減衰するため、攻撃力は
・
連射式の
・
フィールド発生器の圧縮器内圧を限界まで引き上げ、威力を増した
収束することができないため、接近して放つ必要がある。粒子圧縮器が過重に耐えられず
1回で破損する。威力は
・
ディール粒子かく乱により思考混乱。一時的な全身麻痺を起こす
相手の頭部付近に直接触れる必要がある。
・
思考領域の一部に自立稼働プログラムを埋め込む。そのプログラムは継続的に思考攪乱を発生させ、全身麻痺を誘発する。
従来の思考攪乱では効果の薄い相手への対策として考案したシステム。
使用には相手の頭部付近に直接触れる必要がある。
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