2.バージョンアップ Vol.2
メディオ王国 王都シムラクタ。
山岳に広がる王都の中心。そこには豪奢な王城がそびえる。その王城の最奥とも言うべき場所。華美ではないが、趣味のよい調度品が置かれた執務室にエリーゼは居た。
その部屋の奥にはその主たるメディオ王国の現国王 アイゼン・スクラビー・メディオが居た。
「今もヴァルデ砦ではギリギリの戦いを続けているはず! 父上! なぜ私を前線へ出さないのですか!!」
王に向け、エリーゼが声を荒げる。
「お前の任務は王都防衛だと言ったはずだ。」
エリーゼとは対照的に、王の発言は冷静だ。
「今更父親面でもなさりたいおつもりですか!?」
そんな淡泊な言葉は、さらにエリーゼの感情を逆なでするのか、目に見えてヒートアップしている。
「ばかな。そんなことはありえん。ここが落されれば王国は終わりなのだからな。お前も王族なら、王族を守護してみよ。」
王は淡々と言葉を返し、"これ以上の口答えは許さぬ"という態度を示す。だが、それでもエリーゼは引かない。
「民あってこその国でしょう! 私が前線へ出れば不要な犠牲を払わずに──、」
「エリザベート、もう一度は言わぬ。お前は王都の防衛だ。」
エリーゼは下唇を噛みしめ、壊れそうな勢いで扉を閉め、退室していった。
「よろしいので?」
王の補佐官が問う。
「ああでも言わねば、あやつは飛び出して行ってしまう。帝国の出方が分からぬ以上、強力な駒を手元に置いておかねばな。まさか今ヴァルデへ攻めている戦力が全てとは思えん。」
==================================================
「なんでも、帝国が攻めてきたらしいわよ。」
「こわいわねぇ。」
兵学校からの帰り道、女性同士の噂話が耳に入る。俺も同じ噂は聞いた。噂というか、より確からしい情報だが。
東の神聖レジオカント帝国の軍が緩衝地帯を越え、ヴァルデ砦へと侵攻した。それに伴い、兵学校の教官も動員されたため数を減らしている。俺、もといルクトの担当教官だったロッド・オーツ教官も派遣され、今は代理の教官だ。
「装備の強化をしておいた方がいいかもしれないな。」
俺はひとりごちつつ足を速め、帰路を急ぐ。
先日のモンスター化した姉弟との戦いもギリギリだった。レインからも改良を希望されているしな……。なによりあの"殲滅卿"、今のままではあいつには間違いなく勝てない。
あいつが攻めてくるとは限らないし、あんなのが何人も居るとは思えないから、杞憂かもしれない。が、備えておくべきだろう。
「ということで、装備強化を行いたいと思います!」
「おー」
レインのやや無感動な歓声と共に、軽い拍手がパチパチと響く。
「例によって、レイン、改造の希望はある?」
俺は全く期待せず、レインに希望を聞いてみる。
「ん……。ぼわっと──、」
「あ、わかりました、大丈夫です。」
擬音が一言出た段階で発言を止めたためか、レインは少々不満げだ。
レインは
俺は【デザインドラフト】で図面ファイルを展開。その装備と、
「ちょっと無茶な設計かな……?」
【デザインドラフト】上で稼働シミュレーションを行う……。お、なかなかいい塩梅だ。
少し調整し、まずは1基を【EQコンストラクタ】で出力した。
新たなバックパックと共に、レインに取り付けしてみる。
「これは? 今までのように、ムカデさんが背中にくっついていますが。」
ムカデさんとは
「
レインがしばし中空に視線を泳がせる。背後のバックパックが起動し、小さく駆動音を鳴らす。
長身の銃がバックパックから外れ、レインの横に浮遊する。
「おおー」
レインは面白そうに浮遊する銃をあちらこちらへと動かす。
「思念誘導による操作は大丈夫そうだ……なっ!?」
浮遊する銃が高速旋回し、銃床部分が鼻先をかすめていく。あ、危ない!!
「はい、これはなかなか興味深いです。」
き、気に入ってもらえたようで幸いです。
「ふ、
「なら、今まで通りムカデさんですね。」
楽しそうでなにより。
「銃の側面には簡易だけど装甲板も取り付けたから、軽微な攻撃ならこれでも防げる。」
それでは、これをあと3丁造ってバックパックに取り付けして、これで両手は空いたので、そこには以前よりは小ぶりな
目の前には、背後に長身の銃を4丁背負い、金砕棒を二刀流で持ち、黒いドレスアーマーに身を包んだ痩身の少女が立っていた。
「なんか、すごいな……。」
「はい、ありがとうございます。」
……、本人はご満悦だからいいか。
さて、あとは俺の装備だが、戦闘スタイルは高速戦闘なので、レインのように大型の追加装備は邪魔になる。ルクトが発見した全身義体に換装できたら一番良かったのだが、魔核が足りない。本当は今の装備でがんばりつつ温存しときたいところだが、それで死んだら元も子もない。ここは割り切って使ってしまおう……。もしかして、こんな感じで使ってばっかりだから、魔核が貯まらないのだろうか……。
よし、レインの改造にも使った簡易のフィールド発生器をアーマーの各部位に設置、全身のあちこちで
あと、ついでに
それでは、新装備を使って早速魔核集めに行ってみようか!!
==================================================
「せ、船長! 船長ぉぉぉ!!」
船員の1人が慌てて船室に入ってくる。たしかコイツは今の時間見張り台に居たはずだ。
「どうした? 何か見つけたのか?」
「や、……」
「や?」
「山が! 空を飛んます!!」
俺は部下に促され甲板へと繋がる扉を開く。外には強い風が吹いていた。飛行型魔導船特有の強風だ。
「どこだ? その山が飛んでるってぇのは。」
俺は船長帽を片手で押さえつつ、部下に問いただす。
「あ、あれでさぁ!!」
船員の指差す方向。そこにはたしかに小さな山が……。
「なんだ、ただの山じゃねぇか……、!?」
いや、ただの山じゃない。その山があるのは……、
「海の上だと!?」
正確には海面より上に浮かんでいる。確かに空飛ぶ山だ。だが、なぜ山が浮いている?
「遠眼鏡を貸せ!」
船員から遠眼鏡をひったくるように受け取ると、テレスコープを延長し、その山を眺める。
「ただの山……か?」
特に目立った特徴が無い、山のようだが──、
「帝国軍、軍旗!? ということは、まさか……、あれは帝国軍!?」
ただの山に見えるソレの各所に、帝国軍軍旗が翻っていた。
長年船乗りをしてきた俺でも、あんな異常なモノが浮くなんて頭が追い付かない。だが、事実として山が空を飛び、その山には帝国軍が乗り込んでいる!
「急速回頭!! 急いでこの空域から離脱する!!」
不味いぞ! ヴァルデ砦への攻撃は陽動だ!! このことを早く王都に報告しなければ!
『残念だが、離脱はさせられない。』
思念波に伝わる声……、魔導船の船首、その先に人影が浮いている。
「あぁぁ……、あんたは……。」
人影が右手を軽く振るう。
魔導船が急激に傾き、船体が軋みをあげ歪んでいく!!
「せ、殲滅卿!!」
--------------------------------------------------
スペックシート:レイン
氏名:レイン(本名 ,%&#|$'-レイ^n)
性別:女
年齢:16?
タイプ:遠距離戦
装備:
・PEバッテリー
高性能なエネルギー蓄積装置。装置内部に陽電子化した状態でエネルギーを保持するため、小型で超高容量。
無線給電によりエネルギー量は自然回復する。
・全身義体
チタン合金による骨格、強化繊維ベースの強靭な人工皮膚によって構築されている。
【
動作には人工筋繊維と
・
フロートシールドシステムに
元々は
浮遊は
エネルギーも、本体から供給されているため、飛行稼働的には限界は無い。だが、弾薬は有限であり、10発
撃つとリロードが必要。
衝撃発生器を銃身に多数取り付けた多段式加速銃、通称ムカデ銃
口径20mmにもなる大型銃。全長は140cm程度、銃身は70cm。装填数 10発
銃身内に多数の衝撃発生器が配置されており、連続衝撃による超加速で弾丸を打ち出す。
フロートシールドに搭載するにあたり、フルオートに改造された。
通常はこの銃を撃てるほどの
・バックパックフロートベース
搭載用銃架。レインの義体背中には装備増設用のアタッチメントがあり、そこへ取り付けて使用する。
(ドレスアーマーの背中はバックパックを邪魔しないように大きく開けてある。)
増加した重量を補助するためにフィールド発生器を1基内蔵している。
・オープレシーインジェンス×2
レイン専用、通常の
レインの過剰な
・メタルヘルム
孝介が【EQコンストラクタ】で構築した開閉式フルフェイスヘルメット。
・リキッドドレスアーマー
孝介が【EQコンストラクタ】で構築した長袖・ロングスカート形状のワンピースアーマー。全身黒色。
ポリアミド素材にダイラタント流体を合わせた素材で作られており、通常時は柔らかいが、速いせん断刺激(衝撃)
には強い抵抗力を発揮する。
両足のフィールド発生器の邪魔にならないようにスカート形状としてある。
残念ながらスカートの中はショートパンツをはいている。
・シールド発生器×2
両腕に取り付けられた簡易式フィールド発生器。
諸元:
・PEバッテリー
容量:5800kWh、最大出力:800kW、最大蓄積能力:300kW
・フィールド発生器×2(両足)+バックパック
最大出力:65kW(推力:1500N)(3基合計)
技能:
・飛行
・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます