13.VSマグナ

 身長5mの巨体が目の前に立ちはだかる。

 右手には俺の身の丈より巨大な大剣を持ち、左手はその巨体を半分ほども隠すほどの盾を帯びている。


「レインは離れて!」

 彼女の動きを確認する暇も無く、マグナがこちらへ接近してくる。

 大上段から振り下ろされる大剣を右へ回避、盾の死角から背後まで一気に回り込み、背中へ迫撃掌アサルトを打ち込む。


 カァーンという小気味良い音と共に、マグナが前へたたらを踏む。

 背後の俺目がけ、大剣を横薙ぎに振り払ってくるのを上空に浮きがって回避、そのまま頭の上から束撃弾スラストを数発打ち込む。


 マグナを飛び越え、再度背後に向けて束撃弾スラストを打ち込む。


『ふははははっ! そんな豆鉄砲、何発打ち込まれても全く痛痒にならんわ!』



 やつのマグナはよく見れば微妙に赤さびが浮き、整備も不充分に見える。

 兵団に配備されている物や、先日兵学校で試乗した機体とは比べものにならない。だが、それでもマグナの性能は驚異的だ。


「あんなに操作し辛いのになっ!!」

 マグナの周囲を飛び回りつつ、関節部目がけて束撃弾スラストを連続で撃ちこむ。だが、ダメージが入っている様子が無い。


『ちょこまかと、鬱陶しいやつめ!!』

【Willact Field Detected ...】

 敵機体からの思念力ウィラクト反応が強まる。

 間合いの大きく外、敵はそこで大きく大剣を横薙ぎにする。飛行している俺には全く届かない位置だ。だが、


【Emergensy!!】


 反射的に展開した拒絶障壁ウィラクトシールドに何かが衝突し、大きく後方へと吹き飛ばされる。


【Emergensy!!】

【Emergensy!!】

【Emergensy!!】


 空中で身を翻し、敵を中心として旋回するように回避する。体のすぐ横を何かが続けざまに通過していく。


「建物内で初撃に喰らったのはこれかっ!」

 どうやら不可視の"斬撃"を飛ばしてきているらしい。"斬撃"といっても斬れることは無いが、思念力ウィラクトによる攻撃らしく、装甲を浸透して内部にダメージが伝播してくる。

 情報端末メディアの身体状況では一部内臓に損傷が発生している。


「ぐ、痛覚遮断、ダメージコントロールで痛覚情報管理。」

 体の痛みは遮断され、感じなくなった、が、視界投影型ディスプレイインサイトビューの隅に表示されたダメージコントロールログには大量の痛覚情報が流れている。


 その間にも、敵は"飛ぶ斬撃"を乱れうちしてくる。拒絶障壁ウィラクトシールドで防御しても一部衝撃が浸透し、受け止めた腕がギシギシと軋みをあげる。


「厄介な攻撃を……、」

『どうだどうだどうだぁぁぁぁ!!』

 敵マグナは狂ったように斬撃を連打してくる。上下左右に不規則に機動し、斬撃を回避する。が、このままではジリ貧だ。


「攻撃の威力が足りないなら──、」

 情報端末メディアから義手のフィールド発生器コントロールシステムのソースコードを呼び出し、内部に固定で設定されている粒子圧縮限界値、現在の130%から発生器の耐容限界である2000%に変更しリビルド。


【Build started】

【Building files ...】

【Packaging files ...】

【Build succeeded.】


 斬撃が左肩に命中し、錐揉みしながら地面へと落下した。

「ぐはっ!」

 体のばねを使って即座に飛びのく、直前に居た場所に斬撃が通過し、地面がえぐれる。

 ぐ、左肩が上がらない。先ほどのダメージで骨が折れたらしい。


【Restart Willact Field Generator System ...】

【System started.】


 システムの再起動直後、右手の発生器で粒子圧縮を開始する。


【Charging ...】



 敵マグナが足元で爆発的な思念力ウィラクトを発生させ10m近くも跳躍、俺の目の前まで飛び上がる。


『空が自分だけの領域と思わんことだ。』

 大きく振り上げた大剣を、俺の脳天目掛けて振り下ろしてくる。再度、盾の死角へ入るように右へ回避する。


『ソレもさっきみたぞぉ!!』

 盾が思念力ウィラクトを発し、気が付くと俺は吹き飛んでいた。

「コースケっ!!」

 レインが悲鳴のような声を上げている。


「ぐ、シールドバッシュか──、」

 俺は緩やかに放物線を描き飛ばされながら、ひとりごちる。

 視界投影型ディスプレイインサイトビューに映る全身の状態は、一様に警告表示であるレッドに変わる。


【Charge 2000%】


「だが、チャージ完了だ。」

 右義手内部からきしむような音が鳴る。


『すり潰してやる!!』

 自然落下する俺に向け、敵マグナが盾に思念力ウィラクトを纏わせて突進してくる。


 衝突に併せ、左手の迫撃掌アサルトで盾を受け止める。


 質量物同士がぶつかり合ったかのうような激しい衝突音っ!

 俺の左義手が破砕し、接合部からもげる。その勢いのまま、身を翻して回り込む。


「だが、接近できた……、」

『なに──、』

 左手を犠牲にしての接近、盾のすぐ横、マグナのわき腹に右腕を押し込み、発生器内の粒子を解放する。


 密閉容器内で爆発でも起こったかのようなくぐもった破裂音が響き渡り、周囲の建物を揺さぶるほどの衝撃が伝播する。




 一瞬の静寂。マグナがグラリと傾き、どすんと鈍い音を立て倒れる。

 マグナは半壊し、崩れ落ちるように部品が散らばる。



 一部破損した装甲を押し上げ、中から誘拐犯が姿を見せる。


「──っ!」

 まだやるか!?


「わ……、メガ……、英知……、ぐふっ」

 誘拐犯は壊れたマグナから半身だけ出した状態で気を失ったようだ。



 俺は震える右手でフルフェイスを展開し、顔を顕にした。

「ぷはぁっ」


 右義手は辛うじてもげていない、といった体で、腕の中ほどには大穴が開いてしまっている。どうやら内部のフィールド発生器が破裂したようだ。



 俺はしりもちを付くように地面に座る。

「ま、マグナつぇぇ──、ぐぇ」

 背後から体当たりを食らう。と同時に、ふわりと安心する匂い。

 レインが後ろから俺を抱きしめていた。


「コースケ、無茶しすぎです。」

 どうやらだいぶ心配をかけたらしい。

 言われて見れば、無理して戦う必要は無かったかもしれない。途中から意地になってしまった。


「ごめん───。」


 ──いつも心配かけてばかりだな、──



 瞬間、何かの記憶がよぎる。


「──? どうかしましたか?」

 レインが不安げな表情で覗き込んでくる。


「いや、なんでもない──、」


【Willact Field Detected ...】


「え!?」

『まさかマグナを倒すとはね。』

 機械を通したような女性の声が後ろから響く。


 背後にある建物を飛び越えて1機のマグナが飛来、踏み固められた硬い土の地面を大きく削りながら着地する。

 俺はフルフェイスを閉じ、痛む体に鞭を打ちながらもレインを背後に庇うようにマグナに相対する。


 大きさこそ体長は5mほどと、今まで見たマグナと変わらないが、その容姿は大きく異なる。

 全身の装甲板には豪奢な飾りが施され、真紅のマントを纏っている。マントから覗く背後には筒状の武装らしきものが2本見えている。

 丁度、某エックスがダブルなロボットのようだ。まさか衛星のキャノン砲なんて撃たないだろうな……。


 豪奢なマグナは真紅のマントを翻し、両手を腰に当て仁王立ちの姿勢を取る。


『あなたが噂の怪人ソルドレッドね?』

 ここまでたった二言しか発言を聞いていないが、中の人の性格がにじみ出てくるようだ。どうやら少々高圧的な女性のようだ。

 というか、また怪人か……。


「だとしたら、何かあるのか?」

 俺は警戒を解かず、新たなマグナに答える。

 まさか、マグナの増援が現れるとは。やはり戦闘に突入したのは誤りだったか……。


 正直、これ以上の戦闘には耐えられそうにない。左手は失い、右手も機能の大半が損失。胴体の生身部分も痛みが激しい。

 これは如何に逃げ延びるか、になりそうだ。


『なんだか警戒しているみたいだけど、勘違いしないで。あなたの後ろで伸びてるその男が私の目的よ。』

 俺の後ろには、マグナからはみ出し気絶した誘拐犯が居る。


『憲兵がかどわかし犯を追っていたら、追跡に当たった兵員がマグナに全滅させられたの。そこで私が出動してきたってわけ。』

 ということは、誘拐犯を追っている側、憲兵かそれに類する組織の人間ということか。


『え、エリーゼ様!!』

 街並みの合間を縫って、もう一機のマグナが姿を現す。こちらも装備は充実しているが、先ほどの豪奢なマグナほどではない。


『任務の情報を部外者にペラペラとしゃべらないでください!』

 なんだか苦労人風な男の声が、高圧女性を窘める。


『いいじゃない。すぐに部外者じゃなくなるんだし。』

『え?』「え?」

 苦労人男と俺の声が重なった


『彼らを次の任務にスカウトするわ。』



--------------------------------------------------



スペックシート:ルクト・コープ(識名 孝介)


氏名:ルクト・コープ(識名しきな 孝介こうすけ)(怪人ソルドレッド)

性別:男

年齢:15

タイプ:中近距離戦

装備:

・PEバッテリー

 高性能なエネルギー蓄積装置。装置内部に陽電子化した状態でエネルギーを保持するため、小型で超高容量。

 無線給電によりエネルギー量は自然回復する。

・義手義足

 チタン合金による骨格、人工筋繊維による作動、強化繊維ベースの強靭な人工皮膚によって構築されている。

 【思念力ウィラクト】という名の新物理力を発生させる装置が搭載されており、それにより飛行や衝撃波の発生が可能。

・圧縮格納μファージ

 機能を停止し、体積圧縮されたμファージ。体内や義手義足の余剰スペースに格納保存されている。

 そのままでは使用できない。使用する場合には解凍展開、機能の再起動を行う必要がある。

 展開すると黒い粘液体で広がる。展開状態であれば装備の設計変更、再構築など、様々な用途に使用可能。

・パワードアーマー

 チタン合金外骨格、内部に人工筋繊維によるパワーアシストシステムを搭載した全身鎧。

 頭部もフルフェイスでカバーするため、外からは顔が見えない(中からは各種センサで外の様子がわかる)

 艶消し黒マットブラックでカラーリングされている。

・麻の上下

 住民がよく着ている一般的な服装。

諸元:

・PEバッテリー

 容量:3000kWh、最大出力:500kW、最大蓄積能力:300kW

・フィールド発生器×4(両手両足の義手)

 最大出力:72kW(推力:1600N)(4基合計)

技能:

・飛行

迫撃掌アサルト

 ウィラクトによる衝撃波。近距離用であるため、射程は数十cm。

束撃弾スラスト

 ウィラクトによる衝撃波。高収束による遠距離用。射程は数m。

 スラストタイプは距離で威力が減衰するため、攻撃力は迫撃掌アサルトの方が高い。

自壊迫撃アウトバースト

 フィールド発生器の圧縮器内圧を限界まで引き上げ、威力を増した迫撃掌アサルト

 収束することができないため、接近して放つ必要がある。粒子圧縮器が過重に耐えられず

 1回で破損する。威力は迫撃掌アサルトの数十倍。

思考攪乱パラライザ

 ディール粒子かく乱により思考混乱。一時的な全身麻痺を起こす

 相手の頭部付近に直接触れる必要がある。

拒絶障壁ウィラクトシールド

 思念波を球状に展開し、防御用の障壁を生成する。物理的攻撃や思念力攻撃を防ぐことができる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る