12.誘拐
サンディさんの下宿でお世話になって今日で1週間。だいぶお仕事にも慣れてきました。
一つ問題があるとするなら、コースケとの時間をあまり取れないことでしょうか。
「レインちゃん悪い! ちょっと買い忘れた食材があるから、お使い頼まれてほしいんだ。」
「はい。おまかせください。」
サンディさんから、購入品を聞き、お金を預かって出発しました。
この町の地理はまだ知らない部分は多いですが、食材の買い出しはサンディさんと数回ご一緒させていただいたので、わかります。
サンディさんから聞いた調味料類を購入しました。さて、帰りましょう。
「あ、いたいた!!」
突然、後ろから男が声をかけてきました。振り返ると、見知らぬ男が立っていました。
ややこけた頬と神経質そうな顔、対照的にあまり整えられていない黒髪で、ゆったりとしたローブを着ています。
「彼が学校で大変なんだよ!」
「え、コースケが?」
「ああ、コースケくんが怪我をしたんだ。急いできてくれ!」
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「最近、全身鎧の怪人が──、」
「討伐兵団でも──、」
「──、ソルドレッド様は──、」
俺は荷物をまとめ、席を立つ。学校の後はバイトだからな、早く帰らないと。
教室から出て校庭を通過し、兵学校の敷地から外へ出た。
「なんで噂になってるんだ!? それもソルドレッドの名前で!!」
最近全身鎧の怪人が出没するとの噂が、学校だけでなく、バイト先の飲食店でも流布していた。
「怪人って、ヒドイ……。」
ヒーローと呼んでくれ……、いや、それも恥ずかしいか。
「当分はアーマーで出歩くのはやめよう。人の噂も75日だ。」
俺は硬く誓いつつ、下宿への帰路に着く。
下宿前にはサンディさんが立っていた。
「ただいまー」
「ルクト君!!」
俺の顔を見るなり、サンディさんは泣きそうな、それでいて必死な表情で走りってくる。
「どうかしたんですか?」
「レインちゃんが!! レインちゃんが帰ってこないの!!」
「え?」
聞くと、お使いを頼んで1時間以上経つのに戻ってこないらしい。お使い先は片道10分程度の場所であるため、こんなに遅くなるとは考えられないらしい。
「どうしよぅ、きっと誘拐されちゃったんだわ……、私のせいで……」
「俺が探してきます。だからサンディさんは落ち着いて! 大丈夫、絶対無事ですから!!」
サンディさんはかなり取り乱している。俺は落ち着かせるために自信満々な言葉をかけた。
「サンディさんは憲兵へ通報をお願いします!」
俺は学校の荷物だけを下宿の入り口に放り込み、街中へ向け走り出した。
同時に、
【ご連絡いただいた端末はネットワークの届かない場所にあるか、電源が入っていないためお繋できません。】
あ、そういえばレインの
俺はメニューを再度起動、位置情報サービスを起動する。レインの
マップ情報が無いためグレーの領域にレインの
「縮尺と方向から考えて、王都の中には居るな。」
つい先ほど誓ったばかりだが、俺は建物の影に隠れ、手荷物に偽装していたパワードアーマーを装着し、夕暮れ迫る王都の空へと浮かび上がった。
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「急いで! この中だ。」
男が示す先には、ずいぶんくたびれた建物が立っています。
木製の壁にはあちこち穴があき、階高が高いためか、今にも倒れそうな印象です。
男が木戸を開け、中へと私を誘います。中は暗くて、よく確認できません。
「コースケ、大丈夫ですか? 死んでませんか?」
その時背後に気配。
咄嗟に逆水平チョップを繰り出し、後ろの気配へ牽制、相手は私のチョップを受け止めたようです。
「私の後ろに立たないでください。」
「なっ! し、仕方ない! 少々手荒になるが覚悟しろ。」
なにやら手荒な状況のようです。しかしコースケのためなら覚悟の上です。
「いえ、大丈夫です。ご心配には及びません。」
「……。(なんか想像してる反応と違う。調子狂う)、ふ、ふん、いつまで澄ました顔でいられるかなっ!?」
男は注射器のような物を取り出し、私に向けて振るってきます。
この男がコースケへの処置も行ってくれるのでしょうか。しかし私には処置は不要です。
私は男の手から注射器を叩き落としました。
「こ、このっ!!」
更に男は両手で注射器を取り出し、次々と私に突き立てようとしてきます。だから私には処置は不要です。
私も次々と叩き落としました。
男がだんだんと近寄ってくるので、額に掌底を当て強制的に後退させます。
「コースケから迫られるのは望むところですが、それ以外の男を近寄らせるつもりはありません。」
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位置情報サービスの示す光点は間違いなくあの建物の中を示している。
俺は建物の手前で着地し、その木戸をそっと開いた。そこには壮絶な光景が──。
レインと知らない男が高速で手刀の応酬を繰り広げていた。
あー、これ昔カンフー映画で見たことある。
ってか、この状況って、"誘拐された"と言っていいのかな……。
俺がいまいち状況を飲み込めないうちに、男の額にレインの掌底がクリーンヒット。男は額を押させて呻いている。
「コースケから迫られるのは望むところですが、それ以外の男を近寄らせるつもりはありません。」
「こ、この!」
いかん、そろそろ止めよう。なんかとんでもないことを口走り始めたよ、この人。
「あー、あのー、何やってるんですか?」
二人が一斉にこちらを振り向く。
「あ、コースケ、死んでないですか? 怪我は大丈夫ですか?」
「どう見ても生きてるでしょうに。あと、俺も
「──ぁ、」
「……。」
完全に忘れてたな。
「くそっ、私の研究を二度も邪魔しおってっ!!」
知らない男が悪態をつきつつ奥の部屋へと逃げていく。これは追った方がいいのか?
とりあえずレインは無事に保護(?)できたし……、でも誘拐犯なら憲兵に突きだした方がいいのかな。
ん? "二度も"と言ったか? そういえば、あの男どこかで見たことが……、どこで見たんだったか……。
「あ、路地裏で女の子を攫おうとしてた奴だ!」
ということは、常習犯!? となると、やはり捕縛すべきだな。
「レインは外で待ってて、俺はあいつを──、」
【Willact Field Detected ...】
【Start of heat source Detected ...】
【Respond to mothin senser ...】
【Emergensy!!】
俺は咄嗟に
外壁を突き破り、そのまま屋外まで吹き飛んだ俺は、空中で体勢を直し地面を滑るように着地する。
全身の状態をチェック、防御した左義手にイエローが点灯している。が、大丈夫だ、稼働には問題ない。
俺が開けた穴からレインが飛行機能を使ってスルリと飛び出してくる。彼女に助けは必要だったんだろうか……。
直後、壁を粉砕しながら銀の巨人が姿を現す。
「マグナ!?」
全身金属製の装甲版で覆われた巨人、マグナアルミスの威容がそこにはあった。
『ふはっはっはっは! 王都で噂の怪人ソルドレッドでも、さすがにマグナには敵うまいっ!!』
「だから怪人じゃねぇって!!」
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