第24話 シンデレラの逆襲 前編

 ここはとある場所とある国の、皇王子が主催する年に一度の舞踏会会場であります。

 この国のしきたりでは、王位継承者である王子が主催する年に一度の舞踏会で、王子が見初めた女性を妃として迎えることになっていました。


 その為、王子が十八歳を迎えて開催された、今回の祝賀パーティを兼ねた舞踏会には、国内外から大挙して参加者が押しかけ、盛大な催しとなっています。


 先王亡き今、王子は妃をめとり国をべなければなりません。その大事な国家主催、大舞踏会の幕が今、摂政せっしょうグルベンキアン候の手によって切って落とされようとしています。


 ところが、静まりかえる会場の大舞台に向け、異を唱える影がありました。





 その影とは、本来人のいる筈のない塔の頂上でマントをひるがえし、黒いマスクで顔を隠した男でした。

 男は大声で叫びます。

「まて! このような茶番を許していては国が滅ぶ! 今すぐに中止せよ!」と。

 その声は、会場に設けられた音響設備を通し、参加者や来賓らいひん、そして見物客たちの耳へと届きます。


「警備は何をしておった! 無礼講ぶれいこうとはいえテロリストの進入を許すとは何事か!」

 すぐさまグルベンキアン候の叱咤しったが会場に響きわたり、城の警備担当者たちが塔の男を逮捕に向かいます。ところがです。塔の上で確保された男とはなんと、案山子かかしだったのです。

 会場内は、たちまちのうちに犯人の正体に思い巡らせる人々のささやく、ざわめきによって、騒然となってしまいました。





***


 その頃、城外市街地の豪邸がつらなる界隈かいわいの裏路地に、一人の少女が立っておりました。

 その薄汚れたみすぼらしい姿の少女は、名をシンデレラと申します。


 シンデレラは、元々は由緒ゆいしょ正しき血筋の学者を父に持ち、聡明そうめいなるお嬢様として生まれ育っていたのでありますが、実の母親の死後、父親が二人の娘を持つ後妻ごさいを迎えましてから、彼女の人生の歯車はぐるまは狂いはじめたのであります。

 父親が城へ出向いて後、行方不明になりますと、継母ままはははシンデレラを下女げじょのように扱いはじめます。それに反発はんぱつしたシンデレラは、今では町の不良たちと親しくするようになっていたのです。


 手持ちぶささに伸びをするシンデレラの前へ、やがてバイクに乗った青年が現れました。





 まぶしいヘッドライトの灯りに顔をしかめて、シンデレラは「遅いぞ! パンプキンヘッド!」といいました。

「わりぃ! 他にも友達ダチを舞踏会会場へ送ってたからな。おびにプレゼントがあるぜ!」

 そういうと、青年はシンデレラに大きな紙箱を手渡します。


 うやうやしく梱包こんぽうされた、その箱を不思議そうに観察したシンデレラは、「なんだよ! 親愛しんあいなる魔女まじょよりって書いてあるじゃんかよ!」とバンプキンヘッドのカボチャヘルメットを手で小突こづきました。


「ちぇ、バレるのぇな」

 そいう言いながらパンプキンヘットは不貞腐ふてくされたようにヘルメットをシンデレラに手渡します。





 魔女とはシンデレラの伯母おばさんのことで、父親が行方不明になって十年もの間、ただひとりシンデレラの身を案じてくれている人物です。


「うひゃ! すげ! ドレスにガラスの靴だってさ!」見せびらかすシンデレラをパンプキンヘットが「馬子まごにも衣装ってヤツかな?」と、からかいます。

「うっせ! 着替えるからこっち見んなよ!」と、ボロを脱ぎはじめたシンデレラに、ライダージャケットの背を向けたバンプキンヘッドは、「貧相ひんそうな裸なんて誰が見るかよ」そう毒づきますが、――「もういいぞ」と声を掛けられ、彼が振り返ってみたとき、そこには、それはそれは美しいお姫様が立っていたのでした。

「うへー! 本当に馬子にも衣装だぜ! ばーさんは本物の魔女なんじゃね?」とパンプキンヘッドは、目を丸くしてしまいました。





「いってろ! よし! いくぜ! これなら舞踏会に参加できそうだ」

 先程さきほどまで薄汚れた姿で、生気せいきのなかったシンデレラの口角こうかくが不敵に上がります。

「調子に乗んなよ、いくら無礼講ぶれいこうでも招待状がなきゃ踊れないんだぜ!」

 そう首をかしげ、両のてのひらを呆れ顔のあたりでひらひらと、おどけるように振り肩をすくめたパンプキンヘッドの目前もくぜんへ、シンデレラは金色のカードを、ギン! とかかげて見せるのでした。


「控えおろう! この招待状が目に入らぬか~」

 へへーっとパンプキンヘッドも恐れ入りやのマリア様と平伏へいふくいたします。

「こんなもの何処から盗んできたんだよ?」

 呆気に取られ不思議そうにカードを眺めるパンプキンヘッドにシンデレラは、「人聞き悪りぃな! ばーか、親父宛に着たんだよ!」と誇らしげに(貧相な)胸を張るのでした。





「なんだ、お前本当にお嬢様だったのかよ?」困惑しているパンプキンヘッドのヘルメットをコンコンと叩き、シンデレラは号令します。

「はいよ~シルバ~! いざ! 舞踏会会場へLet'sらGO! GO!」


 パンプキンヘッドのRG500γが後部座席にシンデレラを乗せ、古い石畳の街並みを軽快なツーサイクルエンジン音を残して駆け抜けてゆきます。

「もっと乗り心地いい単車無かったのかよ! ケツいてーよ!」

「贅沢言うな。硬派な俺にはコイツしかねーってぇの!」

 おごそかな夜の街路に、そんな会話だけを残して。





***


城内の舞踏会会場


「長らくお待たせしました――。これより――舞踏会を再開ぃ、いたします!」

 アナウンスに会場全体が沸きます。会場を心配そうに、見詰めている王子の耳元にグルベンキアンが囁きかけました。

「ご安心を、テロリストは直ちに、射殺するよう警備の者には申しつけてあります」

 その言葉に王子は眉をひそめました。

「このような大事な場所で血を流すと言うのですか? 観客に万一の事があったらどう責任をとるおつもりです」

 少し顎をあげ、納得いかないといった表情のグルベンキアンは言葉を返します。

「何をおっしゃいます。王子のお命を一番に思っての事でございます。他の者の代わりはありましょうとも、王子様のお命だけには代わりはないのです。王子も国の為をお思いになるなら、どうぞ私たちの指示にお従い下さい。それが、国民の為なのですから」

 その言葉に王子は、目を閉じ愁眉しゅうびをつくり、不信感をあらわしました。





 舞踏会がはじまり選手入場の軽快な音楽が流れはじめますと、美しく着飾った選手達が中央の舞台へと両コーナー出入り口から進み出て、セコンドの介助をうけ舞台へと上がり、自分の相手を待ちはじめました。

 

 そこへシンデレラを乗せたパンプキンヘッドのバイクが警備員の制止を振り切り、直接舞台サイドへと乱入してきます。

「いくら無礼講とはいえ無礼であろう!」

 グルベンキアンの指示で警備員たちがバイクのまわりを包囲します。


 しかし、会場全体が注目する中、バイク上に立ち上がり王家直々の招待状である金の招待状を手に、高らかに会場全方位に向け掲げるシンデレラを、制止できる者は誰もいませんでした。


 その姿を認めた放送席の王子が、マイクに向け宣言します。

「誰も手を出すな! その方は私が招待したお方だ!」

 それにはシンデレラとパンプキンヘッドも、共に視線を合わせ面食らっています。


 王子は放送席をあとにして舞台へ向かうと、軽がるとロープを飛び越え舞台中央へと進み出て、片膝を付いて言います。「お待ちしておりました、是非とも私と一曲踊っていたたきたい」とこうべを垂れました。

 その一部始終を注目していた観衆からは、地鳴りのようなどよめきが起こります。

 勿論、シンデレラの継母や義姉あね達も舞台サイド観客席の折りたたみ椅子で、固唾かたずを飲んで観戦しておりました。





 王子の申し出をシンデレラが承諾すると、王子はバイク上のシンデレラへ手を差し伸べて丁重ていちょうに舞台上へと降ろし、二人は舞台中央へと進みでて、まずレフリーに注意事項の説明とボディチェックをされ、お互い手の取り合いからの、踊りをはじめます。会場全体が二人の姿に見とれ、華麗な舞いに酔いしれて、優雅で流れるような技の掛け合いと息の合った動きに、観客は魅了されてゆきました。

『あのお嬢さんはどなた?』

 そんな観客たちの言葉が囁かれはじめた頃、曲終了の鐘が会場に鳴り響きます。


「やはり想像通りです。私はあなたとずっと踊っていたい!」そう王子はシンデレラに囁きかけました。これは王侯貴族特有の結婚の申し込みなのですが――

 ――しかし、「てやんでぃ! 何が王子だ! このへなちょこ野郎が! あたしは今日、踊りに来たんじゃない、一言文句言いに来たんだ!」と、シンデレラは王子の手をはね退け放送席を襲いマイクを奪って啖呵たんかを切りました。





「お前の所為でな、迷惑こうむってる人達が街には大勢おおぜい居るんだ! とっとと王位を継承して国を立て直しやがれ!」

 そう言い放つと、床にマイクを投げつけました。すると、会場は冷や水を浴びせたかのように音をなくしてしまいました。

「あっ……」

 目を丸くした王子には言葉もありません。


 その静寂の空間に午前零時の鐘の音がカンカンカンカン! と連打され、鳴り響きます。

「やべ!」

 そのとき、シンデレラは魔女が箱に書いた注意書きを思い出していました。

〝午前零時に魔法は解ける〟

 身ばれしたら大変だ! 飯抜きだけじゃすまねぇ! とばかりに、シンデレラは顔を隠しながらパンプキンヘッドへ駆け寄ろうとしますが、王子に腕を掴まれて「どうかお名前を!」と迫られます。





 シンデレラはその腕をエイヤァ! と、振りほどくと、「名乗る程の者じゃない! 知りたきゃ自分の胸に聞いてみな!」と言い放ち、ドレスの端を手ではぐり王子の顔面目掛け靴が脱げた素足を、ヤァ! とばかりに振り上げ、伝家の宝刀九文キックをお見舞いしたのでした。

 顔面直撃の反動で、うしろに倒れそうになった王子は、腕をくるくると回しながらなんとか持ちこたえます。それを確認すると、シンデレラはパンプキンヘッドのヘルメットをコンコン! と叩いて会場を後にするのでした。

 華麗にウイリーを決めながら走り去る二人を乗せたバイクは警備員たちを掻き分けて、会場から逃げ去っていったのです。


 王子に駆け寄った警備主任とグルベンキアンに王子は、「白だった」といいました。

「は? 何がです」と要領を得ない二人に、「いや、白いドレスの娘を直ちに探し出せ!」と命令するのでした。


 こうしてシンデレラは舞踏会を混乱に落としいれ、王子様に暴行をはたらいた容疑者として国中のお尋ね者になったのでありました。

 めでたし、めでたし。


 いえいえ、まだまだ続きます。





シンデレラ編



 翌朝、王子は朝食もそこそこに頬杖をつき不貞腐れていました。

 そこへお城の警備主任である、アル・ベロベッロが声を掛けます。アルは王子の幼馴染なのです。

「昨晩のことをまだ気に掛けてらっしゃるのですか? 妃を迎えられれば顔を蹴られるなど日常茶飯事ですよ」

「なんだ、アルの細君さいくんも蹴るのか?」

 アルの告白に信じられないという表情で王子は顔をあげます。

「えぇ、そんな時は足裏を舐め返してやればいいんですよ」

 新婚のアルは恥ずかしいのか嬉しいのか声がうわずっています。


「ご馳走様。あんなじゃじゃ馬などどうでもいいのだが、あの娘が言ったことが気になるんだ。それにあれは私が出した招待状だ。それをなぜあの娘が持っている?」

 王子が呟いた言葉に、アルは王子の耳元にだけ聞こえるように囁きます。

「それでは、わたくしが調査してもよろしいのですね?」


「勿論! 信頼できるのは君だけだよ。昨日は色んな事が有り過ぎた。まだ夢を見ているみたいだ、今日の執務は休む」

 そう言い残し王子は自室へと向かいました。





 そこへ摂政グルベンキアン候が訪れます。

「昨晩は大失態だったな。テロ騒ぎに続き、わしは生きた心地がせんかったぞ!」


 畏まっているアルが答えます。

「申し訳ありません。汚名返上の為、あの娘を是非とも探し出してご覧にいれたいと思います」

 それに摂政は「余計なことを……」と、ぼそりと呟きました。

「何か申されましたか?」そう問い返すアルに、「いや謀反人逮捕の吉報を待っておるぞ!」とグルベンキアンは答えるのでした。


 シンデレラの住む国では、先王が亡くなられたのち、王子が戴冠式たいかんしきを済ませ妃を迎えるまでの間を、摂政が国の政治を取り仕切ることになっているのです。

 摂政グルベンキアン候は政敵を退けまして、永らく摂政による独裁政治を行っているのです。それも、王子様が妃を向かえ戴冠式を済ませるまでの話ではあるのですが、王子様の気に入るお妃はなかなか現れません。それというのも、王子様には幼い頃に許婚いいなずけとなった娘が、現在行方不明であることも原因のひとつなのです。





***


 ここはシンデレラのまう邸宅です。


「まぁそういう訳よ!」

 朝のお勤めがおわり、いつもの小汚い下女げじょシンデレラが、路地裏で街の不良たちに自慢話を語ってみせています。


「ふ~んシンデレラがねぇ」

 ところが同じ下女や、こそ泥の少年達には、にわかには信じられない様子ようすです。


「信じないのかよ! あたしの親父おやじは、プリンス・チャーミングの家庭教師なんだ、あたしは昨日の晩だって王子と踊ったんだぜ?」


 少年が言います。

「そんな夢みたいな話、誰だって言えらぁ。だったらシンデレラは、王子様にお願いしてお金持ちにしてもらえばいいじゃないか」


 シンデレラが顔をしかめ舌を出します。

「チッ! うっせ! なんであたしが、あんなゲジゲジ王子に頼まなきゃなんないんだよ!」


 下女仲間の少女が言いいます。

「なんで? 王子様が嫌いなの?」

「ああ嫌いだね。スカートめくりはするし、いつも威張ってて嫌な奴なんだ。親父おやじ誘拐ゆうかいしたのだってきっと王子の仕業に違いないんだ、あたしは悪党王子をやっつけて親父を取り返すんだ! 絶対にな! それがあたしの望みなのさ!」

 そこへ継母の怒声が響きます。

「お前達、なにサボってんだい! 昼飯抜かれてもいいってのかい!」





「シンデレラ! 着替えるの早く手伝いなさいよ!」

「はい、お嬢様」

 シンデレラの義姉あねたちは、シンデレラに自分たちをお嬢さまと呼ばせて、事あるごとに虐めていたのでした。

 父親が行方不明である今、父親の死亡宣告が発行されて、財産は全て継母が相続しましたから、シンデレラは厄介者になってしまっているのです。


「なんで服をちゃんとたたまないのよ! あんたが義妹いもうとでなかったらとっくの昔に追い出してるんだからね! 感謝しなさいよ!」

 義姉達はこう言いますが、継母はシンデレラを手元に置き、おかしな事をしでかさないか監視していたのです。


 それでもシンデレラがなんとか無事ぶじここまで成長できたのは、魔女こと伯母が影から助けていたからなのでした。

 しかし伯母は今、魔女として追放された身すから、表立ってシンデレラを助けることはできないのです。

 ですから、街の不良パンプキンヘッドやこそ泥の子供たちを使って、誰にも知られぬように、ひそかに見守っていたのです。




***


 シンデレラの仕える邸宅の近所では、お城の警備主任アルが早速聞き込みを始めていました。

「お屋敷の先生は最近、姿を見掛けないねぇ。それに娘は後妻の連れ子と下女たちだけだよ」

 アルは随分と下町を尋ねてまわったのですが、皆同じ答えを返すばかりで、王子の依頼した家庭教師の娘に繋がる情報はありませんでした。


 王子の言葉が正しいなら、私も子供の頃に会ったことのある少女だ。昨晩の娘のように気品(多少元気すぎだが)と美貌を兼ね備えた、美しい少女に成長していることだろう。あんな薄汚い下女である筈はない。

「無駄足だったな」

 そういうと、アルはその場をあとにしました。





 下町での調査を終えたアルは、帰路に着こうと、道端に停めていたスクーターに跨ったところで何者かに声を掛けられました。

「お兄さん、余所者よそものだね? ここには特別ルールってのがあってね、無断駐車は罰金なんだぜ」

 ヘルメットのアゴ紐を調えながらアルは、がらの悪い、見るからにギャングといった風体ふうていの男へ向け答えました。

「そうかい? 弱ったな。じゃあ、請求書は城の警備課に送っといてくれないか」

 声を掛けた街のチンピラは、「残念ながら、下町はいつもニコニコ現金払いでね!」と、アルの胸ぐらを掴んで凄みました。





***


「それで、結果はどうなったんだ? 早く言えよ」

 城で退屈そうにアルの武勇伝を聞いていた王子が、アルに向けいいました。


「せっかちですね王子は、禿げちゃいますよ?」

「結果、ア〇イのヘルメットが再起不能です。決済お願いします」

 伝票を差し出すアルに王子は苛立ちます。

「調査の結果だよ!」

「聞きたいですか? いや聞かない方が――」

「言いたいのか? 言いたくないのか? どっちなんだよ?」

 王子は更に苛立っているようです。仲が良いんだか悪いんだか、涼しい表情と険しい顔で睨みあうのでした。





「わかりましたよ。暴漢ぼうかんはアバラ三本骨折、両手足の靭帯損傷じんたいそんしょうで現在、王立病院に入院しています。王子、興奮すると血圧が上がりますよ。そして娘の行方は依然不明です」


「結局、最後の一言が言いたくなかっただけだろ。しかし空手と柔道合わせて十段、喧嘩十段の異名を持つアルを襲うとは哀れなヤツだ」と王子が口を尖らせました。


 そんな王子にアルはBLの如く、王子に息が掛かるほどまで近付くと、そのぷるるんとした唇を王子の水ぎょうざのような、つるるんとした耳元に触れそうなまで寄せて、刺激的な言葉を囁きました。

「ブギーマンというチンピラの親分から、私を襲わせた者の名を聞きだしました」

「それで、そいつも病院送りにしたのか?」

 そう問う王子に、アルはニコリと微笑み掛けます。

「まさか、取引ですよ。今のご時勢、医療費もバカになりませんからね」


 そこへグルベンキアン候が腹心の部下ディックを伴い、血相を変えて現れました。

「おふたりにお話があります! 王子、なんとこのアルは、罪もない一般市民に対し暴力を振るい、怪我をさせて病院送りにしたのですぞ! この財政逼迫ひっぱくの折になんということをしでかすんですか! 医療費だってバカにならんこのご時勢に!」


 王子とアルは顔を見合わせ、肩をすくめました。


「グルベンキアン、結論だけ頼む」

「わかりました。アルは警備主任更迭こうてつです。王子のお友達とはいえかばいきれません。マスコミが騒ぎはじめる前に手を打たなければ、王家への不満が更に高まりかねませんですからな。後任こうにんにはこのディックを就任しゅうにんさせます。よろしいですね」

 そう言うやいなや、グルベンキアンとディックは挨拶もそこそこに、そそくさと部屋を出て行きました。





「王子、ブギーマンが白状した、私を襲わせた人物の名があのディックなのです」

 アルの一言に王子は冷静に答えます。

「まさか、グルベンキアン程の者がチンピラを雇ったとでも言いたいのかい?」

 アルはすっと、王子から離れいいました。

「王子も、お人が悪い。私に言わせたいのでしょ? 残念ながら、そのとおりです。舞踏会があんなことになりましたからね、もう手段は選ばないということでしょう。もしかすると先生が行方不明になったのもおそらくは――」

 冷静だった王子の顔色が変ります。

「先生親子にもしものことがあったら許さんぞ! グルベンキアンめ!」


 興奮してテーブルを叩いた王子をアルがいさめます。

「お静かに、盗聴器があるやも知れません。今更遅いですが……。まだ望みはあります。舞踏会に乱入した娘が、先生のお嬢さんであるなら、どこか無事な場所に隠れているのでしょう。『王子に疑われているのですからね、先生に手を出すのは自殺行為です』グルベンキアン候のおかげさまで、私は役職を解かれて自由に動けますから、娘さんさえ探し出せれば、先生の居場所の手掛かりも得られるでしょう。王子は大人しく吉報をお待ちください。ところで更迭の件ですが、家内には内緒にお願いしますよ」




 ある日のこと、街々に御触れの掲示板が立ちました。


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WANTED

右の者、舞踏会にてテロ行為に及んだ不届き者なり。

捕らえた者・情報提供し逮捕に協力しただけでも一億Z$を支給する。


特徴とくちょう

白いドレスの女と、バイクに乗った男のふたり組み。

連絡先 新警備主任ディック


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「よぉ! シンデレラ! 俺達、有名人だぜ!」

 料理中のシンデレラのところに、指名手配の似顔絵の描かれた紙を持ったパンプキンヘッドがやって来ていいました。


「大声出すなよ、唾が鍋に入るだろ」

 そして指名手配の紙を見て吐き捨てます。

「流石は悪徳王子、悪役が板についてるね。似顔絵も全然似てないじゃん! またとっちめられたいのかよ! あの性悪王子め」

 パンプキンヘッドが自慢のかぼちゃヘルメット越しに鍋のパンプキンシチューをつまみ食いしながら、「どうやって?」と尋ねました。


「どうやってって? こうやって!」シンデレラは持っていたオタマを振り回します。

「ならいい考えがある」そういうとパンプキンヘッドがいやらしい微笑を浮かべ、悪巧みをはじめました。

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