幻想短編集
宮埼 亀雄
第26話 Magic System 魔法回路の迷走
序章
「もう駄目だ! 動けないよ」
「しっかりしろ、お前が居なければ旅の意味が無い!」
勇者である選ばれし少年が音をあげると、屈強な戦士が叱咤した。
此処はとある異世界である。彼らの世界は今、未曾有の危機に瀕しているという。
賢者は言った。
何処からともなく現れし怪物が世界を喰らい尽くすであろう。奴は正に純然たる悪、魔の中の魔、まさに魔王じゃ。魔王はこの世のものでは無い。別世界の者達の憎悪が作り出した怪物なのだ。人を妬み、人の不幸を望む歪んだ心を父に持ち、己を唯一絶対の正義と信じて疑わぬ愚かさ、他者に怒りをぶつけ屈服させ従わせようとする劣情を母に持って生まれし、真なる悪意のかたまり。奴こそは世界を無に返そうとする者、世界の破壊者に他ならない。善なる悪、この矛盾した存在に常識という力では立ち向かえぬ。既に世の聡明なる王達があやつに戦いを挑み、尽く浄化され無と化してしまった。
魔王の憎悪に対抗しうるのは、純真無垢なる心のみ。探せ、探すのだ。未だ穢れを知らぬ天から使わされし者を。そして、その者を守護する五人の戦士たちを!
第一章
賢者である魔法使いの手により彼ら六人のパーティは旅することとなった。
寛容なる賢者、魔法使いバロンは、屈強なる精神を持つ戦士カインと慈悲の心で罪を赦す聖職者マリア、どんな敵も一矢で死に至らしめる賢きアーチャー、ジム。そして、山奥で無垢なる魂を宿した、選ばれし勇者アール。最後の一人はなんとも風変わりな、異世界からこの世界へと迷い込んだ、何者に作られしかわからぬ
彼に出会った時、賢者は言った。『これこそが自然を支配する神の使わされし最高の戦士。世界を救う希望なり』と。
「僕はアール、君は何ていう名前だい? それともゴーレムに名前は付いてないのかな?」
賢者がゴーレムと呼んだ硬い金属で覆われた全長五メートル程の巨大な
「ワタシはAT-0928。AT型アンドロイドです。ワタシに出来る事は限られていますが、人間に奉仕する論理回路は正常です。どうぞ何なりとお申し付け下さい」
「アンドロイド?」
聞き慣れない言葉が多く、戸惑う勇者アールに賢者が、「アンドロイドとは異世界の人間たちが作ったゴーレムの事じゃよ」と、教えた。賢者は神に選ばれる程の物知りであった。彼が居なかったなら人間は、とうの昔に魔王によって、この世から消しさられていたことであろう。
「じゃあ、今から君をアンドロイドと呼ぶよ。良いかい?」
『はい。了解しました。これよりワタシの名前はアンドロイドで登録されます。必要な場合はAT-0928とシリアルナンバーでお呼び下さい』
アンドロイドは常に丁寧な言葉使いをする。賢者がゴーレムには魂の代わりに魔法の〝回路〟が備わっているので、人間の言う事を素直に聞くのだと言った。魔王が人間の心の闇が凝縮され生まれたのに対し、アンドロイドには心が無いのだから、魔王に惑わされたりしない、貴重な戦力なのだという。
「アンドロイドは怖くないのかい? 実は僕、とても怖いんだ。だって僕は山で毎日、羊を追ったり木の実を収穫して売ったり、里の人達の手伝いをしてずっと生活してきたんだよ。僕の両親も祖父母もその親たちもずっとずっとだよ。そんな田舎で毎日地平線へ沈む夕日を眺めるのが唯一の楽しみの僕なんかが、魔王なんて途方もない奴、相手に戦わなければならないかと思うと、怖くて仕方がないんだ。だから今、あの地平線を眺めて暮す平和な日々に戻れる事が、僕の唯一の望みなんだ」
するとアンドロイドはまん丸な目の中の、まあるい瞳を大きく見開いて言った。
「アール、その願いを叶える為にも是非とも魔王を倒して、地平線に沈む太陽をワタシにも見せて下さい。ワタシも大自然が広がる美しいこの世界を、一度でいいから感じてみたいと自己学習回路が要求しています」
アンドロイドは偶によくわからない言葉を話すけれど、彼はとても真面目で紳士的である事はよく伝わっていたから、アールはすぐに彼の事が好きになった。自然は大好きだけど、近所に友達の居ない山の子であるアールは何時も孤独だった。この旅が終わり、もしゴーレムの持ち主が許してくれるならば、是非ともアンドロイドと友だちに成って、山の家へ遊びに来て欲しいと願った。
「いいですよアール。是非、友だちになってください。ワタシも貴方の目にした美しい風景をアーカイブします。スケジュールに記録しておきますね」
こうして彼らの長い戦いの旅が始った。人の悪意の化身、魔王に近付くにつれて戦いは熾烈を極めていった。
「うぉぉぉぉ!」
お互いに両手を組んだ手を天に向け、力比べ状態にある巨大な怪物とアンドロイド二体の間に割って入った戦士カインが迷いのない一撃を魔物の腹へと叩き込む。
一瞬の後、瓦礫と化し頭上から振りそそぐ魔物の断末魔の怨念は、憎悪の茨でカインを傷付け、屈強なる戦士の全身を鮮血で濡らしてゆく。強力なバロンの防御魔法でさえも、魔王の強大な憎悪の前に限界を迎えようとしていた。
「傷は治療魔法で癒せても、失った血を元に戻す事は出来ないわ」
マリアの言うとおり、既にアンドロイドの分厚い金属の鎧でさえも、ボコボコに潰れていた。
「もう限界だ! 俺はもう前進できない。これ以上進めば俺達は犬死になる!」
カインの言うとおり、既にバロンの魔力を持ってしても、魔王の放つ悪意の瘴気には太刀打ちできなくなろうとしていた。これ以上前進すれば、必ずや全員に死が訪れるに違いない。
「以前から決めていた事だ。もう俺達に出来る事は少ない。悪いが、ここでお別れだ。達者でな、アール」
「ほんとうに行っちゃうの?」
「あぁ、俺達は別の道を行く。命があったらまた会えるさ。少なくともアールには賢者バロンとゴーレムが付いているんだ。きっと魔王を倒せる」
戦士カインが一瞬、賢者バロンを睨み、赤茶けたアンドロイドの手の甲に自らの拳を当て言った。
「アールは任せたぜ。俺達はここでお別れだが、お互い恨みっこなしだ」
『さようならカインさん。ごきげんよう』
「どうして! どうして仲間なのに別れなきゃならないの! どうして?」
「さぁな、ワシらも先を急ごう。魔王の居場所まではもう少しじゃ、邪魔な敵が現れると厄介じゃからな」
賢者バロンはカイン・マリア・ジムの去ってゆく後姿を、気にも止めずに歩き出した。
『悲しまないでアール。彼らには彼らの考えがあるのでしょう。私はカインさんのご依頼どおり、アールを最優先に守りますから安心してください』
悲しくて涙が止まらないアールを、アンドロイドは優しく見詰め、大きな手を差し出して早くバロンのもとへ行こうと促した。
見渡す限り荒地しかない道なき道をゆく。魔王の本拠地に近付くに従い、周囲に動く物は何ひとつ無くなっていた。それは、あの大勢いた魔王の分身、魔物たちでさえも無に返した為であろうとバロンは言った。魔王の目的は完全なる無なのだ。魔王の憎悪さえも無に
「無ですか?」
「そうじゃ、無じゃ」
「そんな、それじゃあ僕の村の人達もみんな無になるんですか? 異世界の人達とは何の関係もないのに?」
「悲しい事じゃが、憎しみとはそういうものなのじゃよ」
「僕にはわかりません。どうして関係もない人たちを憎んだりするのですか? どうして――」
「わからん方がよい。わからないからこそアールは勇者に選ばれたのじゃからの」
バロンさんはそういうけど、僕はどうしても理由が知りたい。僕達の世界で罪もない人達が殺される理由が。理由さえもないと思うと、僕の胸は締め付けられ、押し潰されそうになる。
「ねぇ、アンドロイドは異世界で生まれたから、何故なのか理由がわからないかな?」
アールは何時も隣に居て、歩調を合わせてくれているアンドロイドにそっと尋ねてみた。
『はい、アール。ワタシは西暦二千百八年に
「えっ? 罵りあいを楽しんでいるの? それって楽しいことなの?」
『そうですアール。人間は心の中に憎しみを持ちます。それは自然な事です。しかし、高度にコミュニケーションが発達した世界では、憎しみさえも娯楽になるのです。物質的に豊かになり、安全な社会になると、暴力の衝動が仲間、見ず知らずの誰か、非難されている見知らぬ人へと集中するのです』
「これ、アンドロイドよ、それくらいにしておきなさい。それは、あくまでも仮説にすぎん。知る事は大切じゃが、アールの憎悪が育ってしまっては不味い」
「それって誰にもあるんですか? 僕の中にも……」
「それ、言わんことじゃない」
『すみません』
「アールよ。その憎悪の種へ水を与え育てる者を退治しにわしらは向かっておる。そろそろ奴の巣に着く頃じゃ、心しておきなさい」
「はい」
でも、僕は怖くてたまらないんだ。バロンさんやアンドロイドもカインさん達も皆とても強いのに、魔王に近付くにしたがって段々、歯が立たなくなった。なのに僕には何も出来やしない。戦うなんて土台、無理なんだよ。
僕の様子を伺うバロンさんの表情に、どこか諦めを感じている表情が射した気がした。当然だよ。僕みたいな弱虫が、世界中の騎士や戦士を倒した魔王に敵う筈ないのは最初から分かっていたことじゃないか。偉そうに賢者なんていうけど、
アンドロイドだって言ってたじゃないか。『ワタシは旧型で細かい仕事には向かないので、新型と入れ替えで廃棄処分されたのです。この世界に来れて、また人間のお手伝いが出来る事に感謝しています』って、アンドロイドでさえ役立たずで捨てられたんだ。そんなポンコツより、遥かに役立たずの僕に魔王を倒す事なんて絶対に出来やしない! なのに神様はどうして、こんな弱虫で役立たずの僕なんかを選び苦しめるのですか? この役目にはもっと相応しい立派な人達がいる筈なのに、僕もカインさんの言うように犬死はしたくない。他人の犠牲になんて成りたくない。幸せな人生を送りたい!
「居たぞ! 奴じゃ! どんな攻撃を仕掛けてくるかわからん。皆、油断するなよ!」
第三章
アールたち三人は、盆地の窪みに一箇所だけ盛り上がった小高い台の上に居る、人の大きさ程の黒い影の塊を遠巻きに囲んだ。
黒い影の向いている方向はわからない。
わからないけど、奴は僕をじっと見ている。アールはそう感じていた。奴は、魔王は僕を殺せば勝利することを知っているんだ。早く逃げなきゃ。僕はまだ死にたくない。奴は僕を、僕だけを狙っている。
雲さえも存在しない。無の空間の薄明かりを引き裂いて、アールの頭上に目掛け無数の光が全方位から集中した。稲妻の様に描かれた光の集中がアールの頭を直撃した。
周囲が眩しい光りを発し、アールの心臓の鼓動は止まる寸前にまで早まった。
「怖気づくな! お前はワシが全力で守る! 行け! アール! 仲間を信じろ! お前の剣を魔王に突き立てるのじゃ! それで全てが終わる。皆、故郷へ帰れる!」
バロンが全力で放つ障壁がアールを包んでいる。魔王の攻撃は防がれている。しかし、障壁を侵食してアールの早鐘を打つ心臓に魔王の手がするすると忍び寄っていた。
立ち竦むアールの足は荒地に吸い付いたように動かない。
その時、アールに集中している魔王に向かってアンドロイドが猛突進し、全力の右ストレートを叩き込んだ。怪力のアンドロイドからの直撃では如何な魔王でもひとたまりもない筈。アンドロイドの拳は魔王を確実に捕え、振りぬかれた。
インパクトの瞬間、魔王もアンドロイドも静止し、衝撃が大地を振わせた。けれども、撃ち込んだアンドロイドの拳の方が粉砕されていた。アールへと伸ばしていた魔王の手はすんでのところで停止したが、アンドロイドへと意識を移した魔王は、今度は左の拳を打ち込もうと振りかぶったアンドロイドの周囲へ酸の雨を降らせた。金属と激しく反応した酸が、モヤと刺激臭を辺りへ振り撒いた。
「物理攻撃では足止めにしかならんか、だか今だ! さぁアール! 貫け!」
『ガガガ――さぁアール頑張って、今です。今こそ貴方の出番です。――ガガ、ピーュー』
酸に焼かれるアンドロイドが煙を上げながら断末魔の叫びを上げ、バロンは立ち尽くしたまま光に貫かれた。
「だ、だめだ。怖いよ! 僕には出来ない。最初から無理だったんだ! どうしてバロンは僕なんかを選んだの! 僕はこんなにも役立たずなのに! どうして僕が犠牲にならなくちゃいけないの、どうして?」
「すまない。許してくれ……。アール、ワシをゆる――」
「皆、勝手だ! 人間も! 神も!」
「――許してくれ。ワシには孫がいる。アールと同い年じゃ。とても素直で聡明な子なのだ、本当ならアールではなく、孫を選ぶべきだったのかもしれない。だがワシには出来なかった。血を分けた肉親を、子供の頃から成長を見届けてきた孫だけは連れて来れなかった。それが子や孫に何もしてやれなかったワシのせめてもの償いだと思っていた。だからアールを選んだんじゃ。見ず知らずの子なら犠牲になっても仕方ないと思った。ワシも人間のぐふっ……」
血を吐きバロンはその場に突っ伏し、最後の時を迎えようとしている。世界一の賢者であり大魔法使いとして名を馳せた賢者バロンでさえも魔王の力には敵わなかった。
「あぁぁ……。もう駄目だ」
もう僕しか、もう僕しか残っていない。でも僕にはこの場で死の瞬間まで涙を流す事しか許されない。
「僕も、もっと生きたかった。カインさんたちと一緒に行けばよかったんだ。彼らと逃げればよかったんだ」
「違う――」
バロンの目はもう何も見えず、ただ、見開かれているだけだった。それでも何かを伝えようと最後の力を振り絞っていた。
「アール、それは違う。カインたちは逃げたのでは無い。カインたちは、――囮になったのじゃ……」
「囮?」
「……既に彼らは限界だった。あのまま進めば此処に到着する前に死するしかなかった。だから魔物共の注意を逸らす為に、彼らは敵の多く居る方向へと向かい、魔物どもを引き付けワシらの為に時間を稼いだのじゃ。彼らはアール、お前を生かす為に死を選んだ……」
無抵抗なバロンにトドメを刺そうと魔王が意識を向けた瞬間、未だ煙を上げながら立ち尽くしていたアンドロイドが突然、左の拳を振り下ろした。しかしその拳が魔王に届くことは無かった。アンドロイドの動きを素早く察知した魔王は、瞬時に意識をアンドロイドへと向けると、その丸い大きな瞳を持つ頭を吹き飛ばした。
まるで勝ち誇るように、からだを伸ばした魔王は、倒れたアンドロイドの巨体を見下ろした。
皆死んだ! 死んでしまった。もう僕しか残っていない。次は僕だ。僕も、もう直ぐ死ぬんだ。
「もう僕がやるしかない」
無垢な心とはなんだったのか。アールにもわからない。もしかすると殺気さえ存在しない無の心だったのかも知れない。
アールは何もわからず、何も考えられず、ただ皆の導いてくれた剣を禍々しい憎悪の塊、魔王へと突き立てていた。
魔王は黒いからだを目一杯に伸ばして、天に向け手を伸ばした。叫びの様な風の音を残し消えていった。
魔王の消滅した痕には不可思議にも小さな花が咲いている。この花が大地を覆い尽くし、失われたものを再生するのかも知れない。もしかすると新たな魔王を生み出すのかもしれない。しかしそんなことは、アールにはわからない。
「ア、アール。やったのか?」
バロンが土にまみれた口から声をあげた。息で舞い上がった埃が荒地を風に流されてゆく。
「やりました! よかった。生きてたなんて」
「ワシはもう駄目じゃ、お前にひとつ頼みがある。息子と孫達にワシは立派に役目を果して死んだと伝えて欲しい。何ひとつ親らしい事をしてやれなかったワシの……」
死んだ。呼吸が止まったバロンの口はもう土に埋もれたままだ。
「何故死ぬんです。あなたによって多くの人達が救われたというのに。あなたが僕を励まし導いてくれたというのに……」
ゴゴ、ガガッ。
倒れていたアンドロイドが拳を無くした腕を空に突き出し、立ち上がろうと必死にもがいている。
「大丈夫? 歩けるかい?」
「駄目です。もう迷走電流が回路をズタズタに焼いて、補助回路も使いきって、しま――ガガッ」
「さぁ、頑張って! 何時も僕を励ましてくれたのは君じゃないか!」
辛くも生き残ったアールとアンドロイドは、破壊され尽くした荒野を家路へついた。
*
あの戦いから何年かの時がすぎ、世界にはまた自然が力強く根を張り始めている。
アールも大人へ成長していた。村の気立てのよい娘と恋に落ち結婚して、今では両親の残してくれた家で、三人の子供達に囲まれた幸せな暮しをおくっている。
今日もまた、アールは日課にしている散歩へ出かけた。子供達が仲良くアールの後を付いて来る。日の沈む丘のモニュメントまで登ると、アールは夕闇迫る世界の、すがすがしい空気を胸いっぱいに吸い込み、生きていることに感謝する。
子供がモニュメントへ登ろうとして、先に登った大きな子が小さな子の腕を掴み引っ張り上げようとしている。アールはそっと手を貸し、押し上げてやる。
アールはこの場所を訪れると思い出す。あの日、六人が出発した道をアールとアンドロイドが数週間掛けて戻ってきた日を。
「ごめんなさい。アール、もう動けないガガッ」
「しっかりして! いつもの元気を見せてよ。どんなに辛い時でも頑張ろうって励ましてくれたのは君じゃないか」
「もう、回路がズタズタで、迂回させる経路もないんです。不可能です」
「なら、医者に診てもらおう」
「駄目です。人間の医者にワタシは治せない。壊してしまうだけです」
「なら、魔法医なら大丈夫さ。君の回路も魔法システムなんだろ?」
「ごめんなさい。魔法でも直せない……」
「じゃあ、どうすればいいんだ? ねぇ、しっかりして、死なないで!」
「ごめん、なさい。もう動力が不安定で上手く言えないけれど、ワタシはこの世界を訪れて……幸せ……だったと……論理、回路が……」
赤く丸いランプがチカチカと点滅し、光が次第に暗くなってゆく、弱々しい点滅の脈動はやがて、停まった。
アールは泣いた。涙などとうに枯れ果ててしまっていた筈なのに泣いていた。
アールを出迎えに集まってくれた人たちも泣いていた。どんなに辛い時にも、先頭に立ち戦い続けたアンドロイドは天へ召された。
アンドロイドの亡骸は彼が観たいと言っていた地平の彼方まで見渡せる丘の上まで運ばれ座らせた。彼が観たがっていた景色が観えるように。景色に溶け込むように。
この世界には、奇妙なモニュメントがある。時折、誰かがその場所を訪れ花を供えている。この世界を訪れた者は、その像に対面する時、驚きと感嘆を隠せないという。
異世界の果てに佇む、朽ち果て石と化したアンドロイドの像に。
〈了〉
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