第460話香港沖の貨物船 ジャンの不安

香港沖に浮かぶ中型の貨物船内では、4人の男が厳しい顔でPC画面を凝視している。

その4人は、柳生事務所によって既に日本襲撃メンバーと名指しされたジャン、アラン、ボルコフ、カマル。


アランは首を傾げる。

「これは、どうもおかしい」

「日本国内の協力分子の反応が弱い」

ボルコフは、アランを否定する。

「いや、それはないだろう」

「晴海ふ頭に近づくまでは、隠密にとの指示を出してある」

「それを守っているだけだ」

アランもジャンの懸念を気にしない。

「いざとなれば、動くだろう」

「何しろ、日本人は馬鹿がつくほどに指示を守る」

「万が一の失敗もない」

カマルは、うれしくて仕方がない様子。

「まずは銀座を炎上だ」

「虚飾と傲慢に汚された街が神の怒りの炎に包まれる」


ジャンは、一抹の不安を覚えながら、話題を変えた。

「それと、もう一つ、船で移動する以上は、天候を考慮せねばならない」

「この時期、モンスーンもないと思うが」

「予報ではどうなっている?」

ボルコフはカラカラと笑う。

「ジャンは細かなことを気にし過ぎだ」

「そのために、モンスーンの時期を外したんだ」

アランも強気。

「すでに、決行日は連絡してある」

「全ての日本国内の協力分子から、応諾の返信があった」

「とすれば、何を不安視する?」

「ここにきて、おじけづいたのか?」

カマルは、ヘラヘラと笑う。

「おい!不安なら、ここの船を降りろ」

「そんな腰抜けフランス人なんて、見たくない」


そこまで言われて、ジャンは歩き出した。

それは貨物船の中にいる、20人ほどの戦闘部隊を見るため。

そして、歩きながら考える。

「あいつらの言う通りかもしれない」

「確かに、日本人は、真面目だ」

「反応が弱いのも、余計な発言や行動をするなとの命令に従っているだけか」

「脱落者も考えられん」

「何しろ、相当の金を振り込んだ」


戦闘部隊の中で、武器弾薬の調達を命じている男がジャンの前に来た。

「ジャン様、要求してあった武器については、すでに準備完了」

「横須賀沖で、深夜に積み込みませます」


その次に、日本国内の協力分子との一斉連絡を命じてある男も報告。

「我々の動きは、一切気づかれておりません」

「ジャン様の意志伝達も、実にスムーズ」

「あまりにスムーズ過ぎて、逆に日本の警備とか治安維持が、いかに脆弱か心配になります」


ジャンの顔に、ようやく安堵が戻った。

「何しろ平和ボケの日本だ」

「安保だけで日本が守れると、のん気に思っている」

「いきなりの無国籍軍の攻撃など、一切考えていない」


少し戦闘部隊と談笑していたジャンが甲板に出ると、一艘の食料らしきものを積み込んだ小舟が近づいて来る。


アラン

「せっかく香港にいるんだ、中華でも食おうとな」

ボルコフ

「長い船旅だ、たまには新鮮な飯が食いたい」


ジャンは、再び不安を覚えた。

「おい!持ち込む中国人の素性は確かめたのか?」

そのジャンの肩を、カマルがポンと叩く。

「脅えてんのか?大丈夫だ、お前の飯に毒は入れないって」


ジャンは、懸命に「考え過ぎ」と、不安を打ち消している。

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