第435話華音とテニス大会(3)

さすがの華音も、オリンピック選手森祐子に「ブチュ」寸前まで迫られては仕方がなかった。

それと二人の周囲は、華音の学園のテニス部を含め、数多くの高校生テニス選手や都のテニス関係者たちに、取り囲まれている。


「わかりました、とりあえず僕と一緒に」

「今日はともかく」

と華音がようやく答えると、森祐子も華音の両頬から手を離して、また迫る。

「それでいつ?これから?」


華音は、ようやくキッパリとした言い方になる。

「今から学園テニス部の祝勝会に行くんです」

「ですから祝勝会が終わったら、祐子さんに連絡します」


森祐子は、その返事に浮かない顔。

「そう言って、いつも忙しいとかで、ほったらかしにするでしょ?」

「祝勝会は仕方ないけどさ」


そんな問答が気になったのか、沢田文美が森祐子に声をかけた。

「森選手、もしよろしかったら、私たちの祝勝会にご一緒はどうですか?」

「私たちも森選手のお話を聞きたいです」

「それと華音君とのお話も」


すると森佑子は、途端にニンマリ。

「あらーーー!いいの?お邪魔虫じゃない?」

「うーん・・・いいかなあ・・・たまには」

と、早速祝勝会ご相伴の意を示す。


華音はこの展開では仕方がなかった。

「はぁ・・・面倒」と思うけれど、「一試合くらいは祐子さんとお付き合いするかな」とも思う。

「祐子さん、祝勝会に行きましょう」

「その時に少し打ち合わせを」

と声をかけると、森祐子もうれしそうに歩き出す。

そして華音も一緒に歩き出した時だった。


テニス部顧問の高田が、華音を手招きする。

「華音君、申し訳ないけれど、少し」

華音が高田顧問の前に行くと、周囲には制服を着た、おそらく都大会運営本部の委員たちが立っている。


テニス部顧問高田が華音に申し訳なさそうな顔。

「この人たちが、華音君に質問があると言うんだ」

「つまり、何故、華音君がテニス部員ではなく、大会に出場しないかということ」

「僕からも説明をしたけれど、全く納得しない」


その高田顧問の言葉を受けて、都大会運営本部の委員長のプレートをつけた男性が華音に質問をする。

尚、そのプレートには鈴木と書かれている。

「君が華音君?」

「少し質問をしたいのだけど」


華音は、少し頭を下げる。


都大会運営本部の鈴木は、怪訝な顔。

「話を聞く限り、オリンピック選手の森選手を打ち負かせるほどの実力」

「そして君がスタッフとして指導をした、君の学園のテニス部は、以前に比して格段の実績を示した」

「君は、それほどの実力を持つのだと思うよ、それがテニスの選手として出場しない、それを聞いたら、誰でもその理由を聞きたくなる」


華音は、その質問に首を傾げた。

「僕としては、その質問の意図がわかりません」

「僕はテニス部員ではありませんし、そもそも出場資格はありません」

「テニス部に入る意思そのものが、ありません」

「あくまでも、学園の練習補助なんです」

「強い弱いとか、実力の有無ではなくて、それ以前のことなんです」

「大会規定に何か反することでも?」


都大会運営本部の鈴木は、少しずつ苛立っている。

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