第434話華音とテニス大会(2)

高校テニスの都大会において、華音の学園のテニス部は、男女シングル、ダブルス、新人全ての出場者が上位三位以内にに入賞し、会場から大きな拍手を受けた。

そして特に、沢田文美と小川恵美は、相手を寄せ付けない試合運びで圧倒的な優勝を遂げた。

しかし、以前と比べて、あまりの躍進に疑問を持つものもいる。

それは、競合ライバル校の選手、監督や大会本部の運営委員たち。


「何か、特別のラケットやシューズを使っているのか」

「あまりにも短期間で強くなり、実に不自然」」


そんな声を受けて、大会運営本部がラケットやシューズの点検をするけれど、そもそも特別な工作などはしていないのだから、結局文句はつけようがなかった。


さて、祝勝会を行うことになり、学園テニス部から華音も招待され、競技場を出る時のことだった。

華音は、突然、後ろから声をかけられた。

「ねえ、あなた、もしかして華音ちゃん?」


華音が振り向くと、20代前半の女性が立っている。

華音も、その女性に気がついた。

「え?祐子さん?お久しぶりです」


そして華音が頭を下げると、「祐子さん?」と言われた若い女性は、大喜び。

「あらーーー!華音ちゃん!」

「おひさーーー!」

「逢いたかったーーー!」

と、本当に大きな声、そして思いっきりのハグ。


その大騒ぎに驚いたのは、まず沢田文美と小川恵美。

沢田文美

「え?祐子さん?もしかして・・・オリンピック選手の森祐子?」

小川恵美

「えーーー!華音君をハグして、めり込ませてる!」

沢田文美

「知り合い?いやあんなハグするんだから当たり前か・・・」

小川恵美

「華音君、無防備過ぎ、年増趣味?」

そんな状態で焦っているけれど、やはり森祐子は有名なオリンピック選手。

他校の選手や監督たち、大会本部まで華音と森祐子の周りに集まって来てしまった。


その様子に不安を感じたのか、テニス部顧問の高田が森祐子に声をかけた。

「森選手、華音君とは?」


すると、森祐子は華音をハグしたまま、満面の笑顔。

「はい、華音君、いや華音ちゃんでいいけれど、小さな頃から知っていて」

「華音ちゃんが5歳の時からのテニス仲間なんです」

「ついこの間の夏休みには、一緒に練習して」

「すごく強いし、上手」

「ねえ、華音ちゃん」


その言葉で、ようやくハグから解放された華音は、焦っている。

「祐子さん、余計なことは言わないで」

「テニス選手ではないです、僕は」


しかし、森祐子は、首を横に振る。

「何言ってんの?この間、私を散々な目にあわせておいて」

「一か月は自信喪失したもの」

そして、そのまま両手で、華音の両頬を挟んでしまう。

「ねえ、もう一度勝負しようよ」

「私、ストレート負けしたままでは、オリンピック出られないもの」


華音は必死に抵抗する。

「だめです、僕にも都合があります」

「僕のテニスは、あくまでも鍛錬の一環、競技のためのものではありません」


森祐子は、ますます華音を引き寄せる。

「女に恥をかかせる気?」

「このまま、ブチュってしてもいいよ」


華音は硬直、取り囲むテニス選手や監督、大会本部もあまりの展開に、あ然とするばかりになっている。

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