第433話華音とテニス大会(1)

アイドルを引退した結衣は、華音たちの協力もあり、大騒ぎされることもなく、平穏な学園生活が始まっている。

ただ、結衣は平穏ではあるけれど、華音は忙しくなった。

それは、テニス部への対応もするようになったため。

都大会も近く、ほぼ毎日のようにテニス部の沢田文美と小川恵美が、華音を呼びに来て、連れ出す。

沢田文美

「30分でいいから、付き合って」

小川恵美

「都大会が終わるまででいいから」

華音も、面倒とは思ったけれど、頼まれると嫌とは言えない性格。

そのため「都大会まで、1日30分、学園内のみ」で、練習の相手をすることになったのである。


さて、その華音の付き合い方は、沢田文美や小川恵美などのテニス部員と、直接ボールを打ち合うのではない。

あくまでも、サーブを打つ際のフォームのチェックや、リターンの際の足の踏み出し方、打ち返す際の全体のフォームなどのアドバイスが中心。

「小川先輩、右足の角度を鋭角的に」

「沢田先輩、サーブを打つ時の腰の使い方」

「相手の下半身の動かし方でリターンのコースを読んで、一歩目を素早く」

などと、細かなポイントを言う。


そして、そのアドバイスを受けた選手たちは、その効果に驚く。

「サーブが安定した、ダブルフォルトが減った」

「サーブのスピードも上がったし、角度も思った通りに」

「試合後の疲れが減った」

「足の角度を変えたらリターンも追いつくようになった」

「下半身が安定したのかな、動きも速くなった」


テニス部顧問の高田も、華音のアドバイスに満足。

「そのまま都大会の本番でも、スタッフとして連れていきたい」

「本音としては、選手で出てもらいたいけれど」

「文学研究会に所属しているし、政府の親善大使の勉強もあるから無理が言えないのが残念」


また、華音は折に触れて、選手に整体治療をするので、それも大好評。

「マジに気持ちがいい」

「凝りが全部取れる」

「フォームを修正してもらって、身体も修正してもらうなんて、幸せ」

「その上、試合に勝つんだから、ありがたいよね」


そんな日常が続いて、いよいよ明日、テニス部の都大会本番となった。

華音が約束通り、「1日30分のお付き合い」を終えて、文学研究会に行こうとすると、テニス部全員が華音の前に立った。


テニス部顧問高田

「華音君、本当にありがとう、忙しいのに練習に付き合ってもらって」

華音は、いつものやさしい顔。

「いえ、僕も楽しかったです、明日は頑張ってください」

沢田文美が華音に迫った。

「ねえ、華音君、明日は来てくれる?」

小川恵美はそのものズバリ。

「応援して欲しいなあと」


他のテニス部員たちからも、声があがる。

「ここまで一緒にやって来て、本番に華音君がいないと寂しい」

「とにかく、華音君が見てくれている、アドバイスをしてもらうだけで安心感があるの」

「頼むよ、是非」

・・・・・・


結局、「頼まれては嫌と言えない性格」の華音は、テニス部の懇願を拒否することは出来なかった。

「わかりました、明日限定でお付き合いをします」

「専属の整体師程度で、どうでしょうか」

「あくまでも、スタッフで」


この華音の返事は、学園テニス部全員から大感謝となった。

しかし、この華音の判断が、その後のトラブルの一因につながっていく。


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