第436話華音とテニス大会(4)
「そういうことではないんだ」
都大会運営本部の鈴木の声に、明らかに怒気がこもった。
「それ以前に、何故、テニス部に入らない?」
「それを聞いているんだ」
「それほどの実力があるのに、練習補助?」
「君は、テニスの都大会を馬鹿にしているのか?」
この怒気あふれる声には、温厚な華音も苦慮の様子。
「部活動を選ぶのは、生徒の自由ではないのですか?」
「決してテニスの都大会を馬鹿にしているとか、そこまで言われるような」
不穏な雰囲気となる中、オリンピック選手の森祐子が華音の隣に立った。
「鈴木委員長、どう聞いても、華音君が正解です」
「華音君が、どこの部活を選ぼうと、それは華音君の自由」
「それはテニスの実力の有無とは関係ないはず」
「テニス部に入る意思がない華音君をテニス部に無理やり入れて、試合をさせるほうが、よほど問題なのでは?」
「あなたは華音君の人権を認めないの?」
「華音君は、あなたの召使でも奴隷でもないの」
しかし都大会運営本部の鈴木は、苦々しい顔を替えない。
「森選手、我々には都大会の発展と、有望選手の発掘と指導、育成の目的もあるんです」
「それによって、健全な青少年の育成に寄与するんです」
「それを何の理由か知らないが、オリンピック選手に認められるほどの実力を持ちながら、テニス部に入らない、選手として出場しないにも関わらず、練習補助なんて、高校生として全く不健全極まるではないですか」
この都大会運営本部の鈴木の執拗な反論には、周囲も騒ぎ始めた。
「それは言い過ぎ」
「華音君がテニス部に入らないのが、高校生として不健全って・・・」
「とうとう人格攻撃だよ」
「テニス部の都大会運営本部って、そこまで偉いの?」
「スポンサー関連かなあ、例の」
「うん、有望選手が、そのメーカーのラケットとかシューズを使うと、宣伝になるからね」
「運営本部には広告料として、献金が入るらしいよ」
「そうすると委員長の鈴木さんにもかな」
「お金と接待とか?」
「すごい実力がある華音君が出れば、もっと儲かったのにってことかな」
「そうなると私利私欲って感じだよね」
・・・・・・
膠着状態を続ける華音と、都大会運営本部の鈴木の前に、今度はスーツを着込んだ若い男性が立った。
そして、鈴木に名刺を手渡す。
「文部科学省高等教育企画課の藤村と申します」
「今までの鈴木様と華音君、森祐子さんのお話を全て伺っておりました」
都大会運営本部の鈴木は、いきなりの監督官庁の登場に、驚く。
「あ・・・それは、わざわざ」
「お騒がせして、申し訳ありません」
「たいしたトラブルではありません」
「少々、不健全な学生を見かけましたので、注意と指導を施していたところです」
しかし、その言葉を聞いた文部科学省藤村は、厳しい顔。
「全て録画、録音しています」
「これについては、私の判断としては、貴方の発言は華音君の自由を無視したもの、部活動を選ぶ権利は、あくまでも華音君にあります」
「テニスを選ばないからと言って、不当に非難される理由も華音君にはない」
「少なくとも貴方に、華音君を不健全と罵倒するなどの権限はありません」
「ただ、あくまでも私の判断で、当然、上司にも相談することになりますが」
頭を抱えるばかりの華音に、森祐子が声をかけた。
「いいよ、こんな都大会の鈴木さんなんて」
「私、スポンサーのメーカーさんに聞いて見る」
「いろいろ、悪い噂がありそうだから」
「さっさと、祝勝会に行こうよ」
その言葉と同時に、都大会運営本部の鈴木の顔が蒼くなっている。
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