第398話合同イベント「万葉集 笠女郎の恋」(3)

古代史研究会部長の鈴村律が再び司会。

「それでは、続きまして、当学園古代史研究会と華音君の学園の文学研究会の女子生徒によります万葉集第四巻の笠女郎の二十四首の紹介に移ります」

その司会とともに、天平時代の華やかな衣装に身を包んだ女子生徒が一斉にステージに登場、大きな拍手を受ける。


「可愛い!」

「素敵!私も着てみたい!」

「天女とか女神様みたい!」

などの声援も飛び、ステージに並んだ女子生徒たちは、その顔を赤らめている、


鈴村律がステージに並んだ女子生徒たちに目配りをすると、まず舞台中央に出てきたのは、古代史研究会一年の深沢知花と文学研究会の一年生志田真由美。


深沢知花は、その手を胸の前で組み合わせ、夢見るかのように上を向き、

「我が形見 見つつ偲ばせ あらたまの 年の緒長く 我も思はむ」

と、鈴を転がすような美声にて詠唱。

志田真由美が現代語訳。

「家持様、私が心をこめてプレゼントをした品を、私と思って、いつも愛してください、私はずっと家持様のことを思い愛し続けます」

司会の鈴村律の隣に文学研究会の部長長谷川直美が立った、。

「少し解説します、おそらく懸命に何かを作って、愛しい家持様に贈ったのでしょう、いつも愛してくださいと詠んで、まあ・・・彼氏に編み物を贈った時とか、その気持ちがよくわかります」


聴衆の顔がほころんでいると、次に二年の沢口京子と花井芳香。

詠唱は花井芳香。

「白鳥の 飛羽山松の 待ちつつそ 我が恋ひ渡る この月ごろを」

沢口京子が現代語訳。

「白鳥が空高く飛ぶ飛羽山の松のように、私は家持様のお越しを待ち続け、慕い続けております、このごろずっと」

今度は、鈴村律が解説。

「空高く飛ぶ白鳥は身分の高い家持なのでしょうか。その家持様を空を見上げて、ずっと待ち続ける、恋し続ける、実に可憐な乙女心と思うのです」

古代の恋の表現にうっとりとなる聴衆に女子生徒もホッとしたようだ。


それを見て、シルビアと三年生の佐藤美紀が舞台中央に。

佐藤美紀が詠唱。

「衣手を 打廻の里に ある我を 知らにそ人は 待てど来ずける」

シルビアが現代語訳。

「家持様は、私がこんなにお近くの打廻の里にいることを知らなかったのですね、だから待っていても来てくれなかったのですね」

鈴村律が解説。

「この当時、砧を打つと言う表現は、妻問いを待ち焦がれる女性の気持の表現、砧の音が聞こえるほどの距離、家持がほぼ近所にいることはわかって笠女郎は砧を打った、しかし訪れはなかった、ちょっと寂しいかなと、まだこの時点では可愛らしい皮肉でしょうか」


第四首目の詠唱は志田真由美。

「あらたまの 年の経ぬれば 今しはと ゆめよ我が背子 我が名告らすな」

深沢知花が現代語訳。

「私たち二人の関係は、一年を過ぎました。でも、もう大丈夫などとは思わないでください、家持様、私の名前を絶対に口になさらないでください」

長谷川直美が解説。

「とにかく絶対に他人に知られたくない、それは身分違いの関係だから」

「他人に知られれば確実に、この恋はつぶされる、そんな不安なのでしょう」

「秘密の関係でも仕方がない、とにかく長く愛し合いたい、そんな気持ちが感じ取れます」


第五首目の詠唱は沢口京子。

「我が思ひを 人に知るれや 玉櫛笥 開き明けつと 夢にし見ゆる」

花井芳香が現代語訳。

「私の家持様への想いが、他人に知られてしまったのでしょうか、開けてはならない玉櫛笥の箱を開けてしまった夢を見たのです」

鈴村律が解説。

「玉櫛笥は美しい化粧道具入れ、その櫛笥には女性の秘密の心をしまいます」

「その玉櫛笥が開いてしまうと、女性の秘密の心も他人に見られてしまう」

「しかし、家持との恋は身分違いの恋、それが知られてしまうことは破滅」

「もしかして、人に知られたから、家持が家族に反対されたから、通って来ないのか、少しずつ、笠女郎の不安は増すのです」


笠女郎の不安と悲恋を予感したのか、聴衆は悲し気な複雑な表情になっている。

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