第399話合同イベント「万葉集 笠女郎の恋」(4)
鈴村律が再び司会。
「今までの五首が、笠女郎の大伴家持に対する、恋の初めの時期と言われております」
「続きまして、本格的な恋の時期と言われている十首に入ります」と語ると、春香と長谷川直美が舞台中央に出た。
詠唱は春香。
「闇の夜に 鳴くなる鶴の 外のみに 聞きつつかあらむ 逢ふとはなしに」
現代語訳は長谷川直美。
「闇夜に鳴く鶴のように、遠く離れて貴方の噂だけを聞くことになるのでしょうか、貴方に逢うこともできないままに」
解説は鈴村律。
「家持の噂は聞こえて来るけれど、つまりあちこちの女性の家に通っているらしいとは聞こえて来るけれど、私のところには来ない、真っ暗闇の孤独な夜が続いていると嘆きます」
本格的な恋の時期の二首目に移る。
詠唱は、志田真由美。
「君に恋ひ いたもすべ無み 奈良山の 小松が下に 立ち嘆くかも」
現代語訳は深沢知花。
「貴方が恋しくて、どうしようもなくて、奈良山の松の木の下に立って泣き嘆いています」
解説は長谷川直美。
「訪れがなくなった家持を待ちきれなくて、笠女郎は家の外に飛び出します」
「気がつけば、奈良山から家持の屋敷を見ています」
「しかし、それでも家持の姿も見えず、松の木の下に立って、泣き嘆くのみ」
三首目の詠唱は、沢口京子。
「我が屋戸の 夕影草の 白露の 消ぬがにもとな 思ほゆるかも」
現代語訳は花井芳香
「我が家の庭の夕日を浴びた草の上の露がはなかく消えてしまうように、私もあっさりと貴方の心から消えてしまうのかと、心配でなりません」
解説は鈴村律。
「夕方という時間帯は、妻問いをされる立場の女には、期待と絶望が交錯する実に複雑な思いの時間」
「その思いの中で、あっけなく消えて行く草の上の白露、それと同じように、貴方の心から私もあっけなく消えるの?訪れもないのだからと嘆きます」
四首目の詠唱は佐藤美紀。
「我が命の 全けむ限り 忘れめや いや日に異に 思ひ増すとも」
現代語訳は鈴村律。
「私の命がある限り、貴方のことを忘れることなど、ありません」
「日に日に、貴方への思いは、増すばかりなのです」
解説は佐藤美紀。
「実に恋に一途に突き進む感情を詠んでいます、これも女性の覚悟、女の意地なのでしょうか」
この時点で、涙する聴衆も多くなる、特に女子生徒が多い。
やはり、笠女郎の恋歌の世界に、完全にとりこまれてしまったようだ。
五首目の詠唱は、シルビア。
「八百日行く 浜の沙も 我が恋に あに勝らじか 沖つ島守」
現代語訳を志田真由美。
「気が遠くなるような長い浜辺の真砂の粒でも、私の恋心には敵ではありませんよ、沖の島守さん」
解説は春香。
「八百日は気が遠くなるような長い距離、そこの数えきれないほどの砂粒の数であっても、私が家持様への恋心にはかないません」
「沖つ島守は、遥かな遠いところにいる、つまり訪れのない家持と思われます」
「家持に対する皮肉のような意味も込めたのでしょう、でも、私は何があっても、どれほど困難があっても、家持様を諦めませんと、熱烈に恋の歌を贈るのです」
女子生徒たちによる笠女郎の恋歌の紹介が続く中、舞台裏の華音は、ホッとした顔。
「まさか、ここまで熱心に聴いてくれるとは思わなかった」
「1300年も前の恋歌なのに」
その華音の河合学園長が声をかける。
「女子生徒たちも生き生きとしています」
「聴衆もますます、笠女郎の恋歌に引き付けられています」
「素晴らしい企画をありがとう」
華音は、「いえ、まだまだ・・・終わりではないので」と、あくまでも謙虚な姿勢を崩さない。
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