第380話松田明美の厳しい指摘 今西圭子の反論 華音の気持

松田明美の厳しい指摘は続いた。


「格闘技をやっている人たちだって、やがては華音ちゃんに気がつくの」

「源氏の解説動画だけど、三田華音の名前は出ている」

「万が一格闘やっている連中に気づかれたら、あっと言う間に広まるよ」


「少々の付け狙う相手は撃退したけれど、まだまだ多いはず」

「実力差を見せつけたり、因果を含めて、素直に引いた相手はいいけどね」

「世の中には理屈では納得しない連中も多いの」

「ただその場で感情に任せて動く輩もある」


「いきなりのテロみたいなのもあるの」

「警察だって、対応しきれないこともある」

「事件が起こってからでは、被害が発生してからでは、遅いの」

「しかも他校、女子高でしょ?」

「より一層の不安もある」


シュンと下を向いた華音を見て、松田明美は話を続ける。

「まあ、華音ちゃんが悪いってことではないけどさ」

「もう少し、慎重に物事を決めて欲しいの」

「何のために、忙しい柳生事務所が、華音ちゃんの警備についているかも、よく考えて欲しい」


いつもは元気ハツラツのシルビアと春香も、松田明美の厳しい指摘には、全く反論できない。

そんな深刻な状態のリビングに今西圭子が入って来た。


シルビアと春香が、今西圭子に現在の状況と松田明美の指摘やら懸念を説明すると、今西圭子はムッとした顔で松田明美に怒り出す。


「あのな、明美!それはおかしい」

「そんな華音ちゃんを怒ってどうしたい?」

「華音ちゃんが何の悪いことをした?」

「そんな言い方やと、華音ちゃんは警察の迷惑の元凶みたいや」

「どれだけ大きな事件を防いでくれたか、命がけで!何の恩義も感じないんか!」

「恩義だけは受け取って、感謝状を渡して、はい、おしまい?」

「あとは知らんぷり?」

「えらい楽な仕事やな」

「市民生活の平穏を護るのが警察の職務やろ?」

「それを面倒やって、放棄するんか?」

「呆れるわ、それ」

「華音ちゃんが可哀想や」

「何の悪いこともしていないのに、叱られて」


今西圭子に厳しく怒られ、松田明美はうろたえ始めた。

何とも反論ができない。

また、シルビアと春香も、自分たちが華音を誘ってしまったという負い目を感じて、黙り込むのみ。


シュンとなっていた華音が口を開いた。

そして、意を決した顔になっている。

「やはり、他校でのスピーチについては、確かに分を越えた行為です」

「つい、調子に乗って、出るなんて言ってしまって、シルビアと春香には悪いことをしました」

「古代史研究会の鈴村律さんと、僕の学園の長谷川直美さんには、事情を説明してスピーチはしないことにします」

「そのうえで、原稿を求められれば、僕の名前を出さないことを条件でしたら書きます」


松田明美は「え?そこまで?」との困ったような顔。

今西圭子は苦虫を噛み潰したような顔。

シルビアと春香は、華音の心の中を読んで、恐れるような顔。


華音は、「ふぅ」と息を吐いて、話を続けた。


「それほど、結果として、僕の存在が危険で迷惑であるならば」

「ここの東京の学園には残れません」

「しばらく大人しくして、何もせず」

「次の学期から、奈良に戻ります」

「これ以上は、迷惑をかけられません」


華音の言葉に、松田明美は崩れ落ちている。

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