第381話エレーナの怒り

華音は、それ以上は何も言わず、自分の部屋に入ってしまった。

いつもなら、追いかけるシルビア、春香は落胆して座り込んだまま。

華音の「決断」の直接の原因を作ってしまった松田明美は頭を抱えている。

唯一、華音をかばった今西圭子が華音に翻意を促すべくリビングを出て、華音の部屋に向かおうとすると、エレーナが大学から帰って来た。


エレーナもリビングに漂う不穏な雰囲気に気がついた。

「何?何があったの?」


比較的冷静な今西圭子が「かくかくしかじか」を説明すると、エレーナも顔をしかめた。


「それは・・・華音君を傷つけるよ」

「確かにとんでもなく優秀で、格闘が強い」

「良きにつけ悪しきにつけ、人の注目を集める」

「いろんな期待を背負う」

「華音君は、それに懸命に応えて来た」

「私たちも迫っちゃったけど」

「それにも、私たちにも変ないさかいを起こさせないように気を使って」

「それ・・・わかっているよね」


リビングにいる女性たち全てが深く頷くと、エレーナは言葉を続けた。


「でもね、華音君は15歳の男の子なの」

「その15歳の男の子がいろんなことが出来るからって」

「みんなで面白がって、要求ばかり」

「あれをやって、これをやってって、要求ばかり」

「華音君は真面目だから、要求以上に努力して結果を出して、喜ばせる」

「私も反省するけれど、みんな華音君の辛さって考えたことある?」

「もし、自分がそんなことを、あちこちから要求されてできる?」

「華音君が要求を断ったことある?」


エレーナの目は松田明美に向いた。

「そんな真面目な華音君に、自分は危険で迷惑な存在って思わせたんでしょ?」

「いい?危険で迷惑な存在って、化け物とかに通じるの」

「明美さん、15歳の男の子の華音君に、そんな意味のことを言ったの」

「心がピュアな華音君が、どれだけ傷がついたか、わかる?」

「一生懸命、寝る時間も惜しんで、みんなの欲求に答えてきて」

「最後は、化け物扱い?」

「それから、物事を慎重に決めろ?」

「柳生事務所は忙しいけれど、華音の警備をやっている?」

「柳生事務所は、そんな程度の組織なの?」

「そんなの事情を話して、冷静に警備体制を作るだけの話でしょ?」

「それに圭子さんが言った通り、まずは警察で考えるべきでは?」

「それを面倒やら何やらで、華音君に逆恨み?何それ!」


エレーナは、低い声になった。

「華音君は、全て自分が悪いと思って」

「責任を取るとして、自分から奈良に引きこもるってことでしょ?」

「何で、誰も止めないの?」

「まるで華音君は、犯罪者扱いだよね」

「厄介者扱いだよね・・・遊びたいだけ遊んで」

「少し面倒になれば、ポイ捨て?」

「勝手に奈良に帰れ?」

「酷すぎない?可哀想過ぎない?」

「それが人間のすること?」


エレーナの顔が引き締まった。

「もういい!私が奈良についていく」

「あなたたちには、全く期待できない」


エレーナは、そのままリビングを出て、華音の部屋に向かった。


エレーナの言葉に今西圭子も打ちひしがれた。

「正論を言われた、きついけど」

シルビア

「そこまで言う?と思ったけど、全て当たっている」

春香

「何とかならんものやろか・・・でも、華音ちゃんは実は頑固やで」

松田明美は、責められ続けて、テーブルに顔を突っ伏して泣くばかり。


リビングに立花管理人が入って来た。

いつもの柔和な顔ではない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る