第369話瞳の不安、母好子の提案とは?

雨宮瞳は街中華から戻り、食べていた時とは異なる微妙な顔、やや不安気な顔にも見える。

その瞳に、母好子が声をかけた。

「瞳、お腹一杯に街中華を食べて、どうして浮かない顔をしているの?」

「食べること大好き娘でしょ?瞳は」


瞳は、ため息をつく。

「もう、私にも微妙な乙女心があるの」

「いつまでも食べることと健康だけが取り柄ってことではないの」


好子は、フフンと笑う。

「もしかして・・・華音ちゃんの前で失態?」

「大口開けて食べ過ぎた?」

「まあ、あの店は美味しいし、量も多いしねえ」


瞳は、ムッとした。

なんと、無慈悲な言い方をする鬼母と思う。

「違うって!マジ違う!」

「男の子は華音君だけ、ほぼ女子会だもの」

「食べることは食べるけれど、お互いにけん制も、どことなくあるの」


好子は、焦れた。

「だから何なの?健康優良児の瞳さん」

そして、感づいた。

「もしかして・・・強力な新ライバル?」

「例の藤原美里さんって、お嬢様?」


瞳は、実に素直な性格。

さっと顔が青ざめてしまった。

「うん・・・マジに、頭が切れる」

「街中華をお洒落した女子でも入れるようにとか」

「その後もポンポン話が弾んで、圧倒された」


好子は、呆れ顔。

「なっさけないねえ・・・まったく・・・」

「ほんと、おっとり娘だねえ」

「華音ちゃんだって、瞳のことが好きだから、わざわざ誘ってくれるのに」


瞳は、不安な顔が増す。

「華音君、フランス語とドイツ語とイタリア語も、藤原美里さんと一緒に勉強するんだって、政府からの指示で」

「また遠くなるもの」


好子は、その瞳の不安顔が面倒で焦れったい。

「あのさ、瞳、少しでも華音ちゃんに近づくような努力を増やしてみたら?」

「お誘いを待つだけでなくてさ」


瞳は、「うん」と答えるけれど、具体策が思い浮かばない。

「だって、私はテニス部で華音君は文学研究会だしさ」

「授業中と通学は隣だけど」


好子は、瞳の「おっとり」が面倒になった。

いきなり書棚に歩いて、数冊の本をテーブルの上に。


瞳は目を丸くする。

「源氏物語」の現代語訳が全冊置かれている。


好子

「せめて、これを読みなさい、日本人女性としても必須です」

「これを読んだら、また次を示します」

「わからないことがあれば、華音君に聞くとか」

「共通の趣味を持つことも大切では?」


瞳は、素直だった。

「あ・・・そうか・・・」

「いつかは、と思っていたけれど」

と、すぐさま全冊を持って、自分の部屋に閉じこもる。


好子はため息。

「せめて、一言、ありがとうがあってもいいのに」

「ただ、源氏は読み始めると・・・取りつかれるかなあ」

と、今度は好子が不安を感じている。

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