第305話近眼治療は成就、新たな治療も

華音とシルビア、春香による薬師如来の真言は、10分程度続いて終わった。

藤原美里の両目から、華音は、手のひらを離し、声をかける。

「藤原さん、少しこのままで、目を閉じていてください」


藤原美里は、素直に「はい」と答え、華音の次の言葉を待つ。


5分程経過したところで、華音が藤原美里に声をかけた。

「藤原さん、少しずつ、本当に少しずつ目を開けてください」

「最初は光がきつく感じると思うので」


藤原美里は、華音の言葉通りに、少しずつ目を開ける。

最初は、眩しそうな感じ。

目を閉じたり、開いたりを繰り返す。

それでも、周囲の明るさに慣れて来たらしい。

目がしっかりと開きだす。


藤原美里は、身体がまず震えた。

「え・・・本当?」

「どうして?眼鏡をして、やっとだったのに・・・」

「華音君が・・・しっかり見える・・・」

「お隣は、シルビアさんと春香さんですか?」

「どうして・・・こんなにしっかり・・・はっきり見える?」

藤原美里は、そのまま泣き出してしまった。

その泣き出してしまった藤原美里を、官房長官が支える。


華音は、やさしい声。

「藤原さんの目の奥の、滞っていた流れを、薬師如来様の真言で、溶かして流したのです」


藤原美里は泣き止まない。

「まるで、イエス様のようです、光君」

「奇跡です、これは・・・もう、うれしくて・・・」


華音は、少し明るい声。

「はい、イエス様も、きっとお喜びでしょう」

「イエス様が、藤原さんの悩み、苦しさを聞き届けていただいたと、思われてもかまいません」


藤原美里は、ようやくしっかりと目を開く。

そして、我慢が出来なかったようだ。

思いきり、華音に抱きついて泣きだした。

「ありがとうございます」

「長年の苦しみが消えました」


華音は、赤い顔になりながら、藤原美里の背中の上の部分をトントンとたたき、少し意外なことを言う。

「それでね、藤原さん、背骨のここの部分が、少しズレています」

「それが猫背の原因で、時折呼吸も苦しいのでは?」


藤原美里は、また驚く。

「どうして、それをわかるの?」

「いつもイエス様の前でお祈りする時に、胸が苦しくなって・・・」


華音は、もう一度背骨をトントンとたたく。、

「はい、最初に見た時から、姿勢が気になっていました」

「やはり、背筋が真っ直ぐのほうが、呼吸も楽になります」


シルビアが藤原美里に声をかける。

「藤原さん、華音から離れて、後ろ向きになってごらん」

「今度は簡単だから、華音がすぐに直す」


藤原美里は、華音から腕を離し、その背中を華音に向ける。

華音は藤原美里の背骨の上部に右手のひらを当て、藤原美里の両肩を春香が前から支える。

「それでは・・・今度は真言もいりません」

その華音の右手のひらが、少しだけの範囲、超高速で上下に動いた。

本当にわずかな、骨の鳴る音と同時に、華音は右手のひらを離す。


藤原美里は、またしても驚いた。

「え・・・すごい・・・スッとした・・・息が思いきり吸える」


華音、シルビア、春香は、満足そうに、背筋が真っ直ぐになった藤原美里を見つめている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る