第303話華音はよく食べる、藤原美里が困る質問をする。
華音は、本当に美味しそうに食べる。
「この牛の頬肉の柔らか赤ワイン煮は絶品ですね」
「赤ワインがほどよく染みて、コクがでています」
「付け合わせのロースト ベーコンのタイムの香がします」
「ほうれん草のソテーも添えてあって食が進みます」
官房長官は、うれしそうに華音を見る。
「一時は、すごく心配したけれど、実によかった」
「その食欲なら、安心する」
藤原美里も華音の食欲に驚いている。
「作法も、私が恥かしくなるほど美しいのに、その食欲には感動してしまいます」
尚、藤原美里は緊張のためか、あまり食が進んでいない。
ほめられた華音は、恥ずかしそうな顔。
「いえ、全てのお料理は、いろんな材料の命と命を育てた人々の思いと努力、それを大切に運ぶ人たちの思いと苦労」
「食材をここまで美味しくしてくれるシェフや席まで運んでくれる人々の思いと努力」
「それを考えれば、おろそかには食べられません」
「そして、心して無駄にしないように、食べさせてもらう、そんなことを考えています」
官房長官は、深く頷く。
「つまり様々な御縁を大切にと言うことだね」
「様々な御縁であり、また一期一会の連続でもある」
藤原美里は、ますます感動。
「なんか、ホッとします、そういう話」
「心の膿みたいなのが流されて、背筋もしっかりしないとって、思うんです」
デザートは、白チョコレートのババロアとイチゴのコンフィチュール カクテル。
華音は目を細めて、これも実に美味しそうに食べる。
「チョコレートのババロアとは・・・好きだなあ」
官房長官も、ペロリと食べる。
「いや、実は甘党でね、酒よりはこっちがいいかなあ」
「昔の政治家は、酒好きが多かったけれど」
華音も、思い当たることがあるようだ。
「子供の頃でしたか、奈良から東京の今のお屋敷に泊まりに来たんです」
「そうしたら・・・お屋敷の料亭で、当時の財務大臣と与党の政治家かな、お酒を飲んで盛り上がり過ぎて、東京のお祖父さんに相当叱られていました」
官房長官は苦笑。
「そうだねえ、華音君の東京のお祖父さんも怖かったねえ」
「怖いけれど、筋が通っているから、誰も反論できない」
「選挙でも、かなりお世話になった」
藤原美里は、ますます華音に興味が強くなるらしい。
「一度、華音君と、二人きりで、ゆっくりお話したいな」
言い終えて、実にドキドキしたのか、その胸を抑えている。
華音は、柔らかく、その言葉を受ける。
「はい、ありがたいことです、また、いずれ」
ただ、少し困っている様子でもある。
官房長官が、クスッと笑い、藤原美里を制する。
「あのね、華音君には、既に素晴らしい彼女がいるんだよ」
「まあ、切っても切れないような彼女がね」
「だから・・・二人きりは、なかなか難しい」
藤原美里が、かなり落胆して下を向いたのを懸念したのか、華音が声をかけた。
「ところで、藤原さん、かなり厚い眼鏡ですが、視力でご苦労されていませんか?」
いきなりの質問なので、藤原美里はあ然。
「確かに・・・相当な近眼なんですけれど・・・それが何か?」
自分でも気にしている黒丸厚眼鏡のことを言われたと思い、少々ムッとなっている。
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