第271話見守る人々の不安の中、華音は復活。食べたい料理は意外なもの。

今西圭子の声も聞こえてきた。

「聞いたことがあるけれど、ほぼ死んでいる人をよみがえらせる御祈祷術は、余程、修行を積んだ術者も、二人が限度、それ以上やると精神をすり減らして術者が危険な状態になる、術者が死んでもおかしくないとか」

「それを華音ちゃんは、10人以上も御祈祷して・・・」

「梶村雄大と手下の集団の捕獲にも精神をすり減らした」


松田明美は、反省しきり。

「華音ちゃんの底知れない体力と気力に頼り過ぎた」

「本当に申し訳ない」


エレーナは、華音の左手を握っている。

「脈拍は正常、さっきとは全然違います」

「回復しつつあります」

その指先では、華音の手のひらをマッサージをしている。



華音の頬に、少しずつ血色がもどり、目もしっかり開くようになってきた。


「華音!」

「華音ちゃん!」


あちこちから、声がかけられる中、華音はゆっくりと身体を起こす。


華音は、少し恥ずかしそうな顔。

「ごめんなさい、ご心配をかけて」

「たいした働きもしていないのに、眠ってしまったようです」

いつもの謙虚な華音の物言いが戻っている。


到着していた立花管理人が、華音に近づき、確認する。

「御気分はいかがでしょうか」


華音は、また恥ずかしそうな顔。

「今は、すごく楽になりました」

「それで、お腹が減りました」

「何か、力のつくものを食べたくて仕方がありません」


その華音の言葉に、不安な顔で見守っていた全員が、安堵。

また、泣き出してしまう人も多い。


松田明美が華音に声を掛けた。

「華音ちゃん、何か食べたいものある?」

「力がつくものって」


華音は、少し考えて、答えた。


「あの、上品な物ではなくて」

「ガツガツ食べるような感じ」

「うーん・・・大盛カツ丼とか」

「大盛レバニラ炒めとか」

「とにかく大盛の天津飯とか中華丼とか」

「スパゲッティナポリタン山盛りとか」

「味付けも、甘辛が強い関東風が」


その華音は言い終えて「ハッ」とした顔。

そして頭を下げる。

「僕だけ食べるわけにはいきませんので、気にかけないで、スルーしてください」


柳生清が、全員を見回す。

「たまにはいいかなあ、女将に頼んで作ってもらおう」

「華音君の復活祝いだ」

「とにかく、みんなでモリモリ食べよう」


全員が大拍手になる中で、雨宮瞳は思った。

「エネルギーが切れたんだね、華音君」

「まず炭水化物をしっかり補給、タンパク質もしっかり取る」

「お上品な華音君も好きだけれど、こういう庶民的な華音君も好き」


その瞳の肩を、母好子がポンとたたく。

「ますます惚れたでしょ?」

瞳が真赤になると、もう一言、

「華音君の手を握っていなさい、握り続けないと、エレーナに負けるよ」


瞳は、もはやためらいもない、まっすぐに腕を伸ばし、華音の右手を握っている。

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