第270話華音は御仏のご加護で復活、瞳を抱きしめる。
華音を包んでいた青い霧は、ゆっくりと長谷に降り、華音はそのまま大仏阿弥陀如来のお膝の上に。
華音は、不思議にも、面白くも思う。
「薬師如来様の御真言も何度も聞こえたし、今は阿弥陀如来様のお膝の上に?」
「なかなか、こんなことは珍しい」
お膝の上から見上げると、阿弥陀如来の大きなお顔。
「うん、実に大きい、奈良の大仏も大きいけれど」
「こんな風に膝の上に乗った人はいるのかな」
華音がそんなことを思って阿弥陀如来の顔を見つめていると、異変が起きた。
驚くことに、阿弥陀如来の目と口が動いたのである。
「華音」
おごそかで、滋味あふれる声が、華音の耳に届いた。
「はい!」
華音は、身体全体が緊張する。
「華音には、この人間界で、まだまだやるべき事がある」
言葉一つ一つが、おごそかにして重い。
「はい!」
華音は、その身がまた引き締まる。
「薬師様もそれを願っておられる」
「この阿弥陀も、まだ早いと浄土の門は開かない」
華音の心の内奥にグングン迫る力を感じる。
「はい!」
華音は、涙があふれてきた。
ありがたい、その気持ちも、全身にあふれる。
「そろそろ、戻すよ」
「みんな待ってる」
阿弥陀如来の声が、実にやさしくなった。
「ありがとうございます」
華音は、涙でそれまでしか言えない。
華音を包んでいた青い霧は、少しずつ白く輝く霧に変わった。
そして、阿弥陀如来のお声も聞こえなくなった。
華音は、また意識がぼんやりとなるけれど、梶村雄大を捕獲した時のような重い疲れはない。
むしろ、一呼吸ごとに、身体に力がみなぎって来る感覚。
その華音の耳に、聞きなれた声が響く。
「華音君!」
華音は、声の主がすぐにわかった。
「瞳・・・さん?」
華音の目が開いた。
確かに雨宮瞳の顔が目の前にある。
そして雨宮瞳は、大泣きになっている。
「心配したよ・・・」
雨宮瞳は、そこまで言うのが精一杯。
そのまま華音の胸に顔を埋め、ますます泣くばかり。
「ごめんなさい・・・心配かけて」
華音は、腕を動かし、瞳を抱く。
お姉さんたちの声も聞こえた。
シルビア
「血圧が正常値に」
春香
「うん、顔色も普通の華音に」
そのシルビアと春香の声も、湿っている。
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