第261話暴走煽り男梶村雄大の家庭事情が届く

華音たちが乗る高速ヘリから、暴走気味のバイクとそれを追う警察車両が見え始めた。


柳生隆がうめいた。

「警察に追われているなんて、全く気にしていない走り方だ」

「ジグザグをしたり、急停止をしたり、一気にスピードをあげたり・・・」


井岡スタッフも顔をしかめる。

「自分の前を走る車両を寸前まで煽るとか」

「う・・・あの幅寄せはひどい」

「幅寄せされた車が壁にぶつかりそうに・・・」


華音は哀し気な顔。

「おそらく事故を誘発させて、追っ手を振り払う考え」

「動く爆弾のようなもの」

「自分より先に進む人、後からの人の命なんて、何とも考えていない」

「ただただ、自分の破壊欲を満たしたいだけ」

「それを邪魔する対象は、何であれ破壊することしか考えていない」

「何度も刑務所に入っても反省がないから、それを繰り返す」


柳生隆のタブレットに、また松田明美からの情報が入った。

「梶村雄大の自宅を強制捜査したところ、地下倉庫に10人を超える白骨死体を発見」

「白骨死体の他に、まだ死後数日、腐乱状態の死体を2体、自宅内で発見」

「鈍器、おそらく鉄アレイで頭部を損傷していて、発見された場所と年齢、身に着けた衣服から梶村雄大の両親らしい」

「損傷によるものなので殺人の容疑」

「鉄アレイには、梶村雄大の指紋が明確に」

「また、梶村雄大の自室からは、大量の大麻、LSDを発見」


そこまでの情報に対して柳生隆は、松田明美にメール質問。

「ところで、梶村には妻がいたと思うが」

「愛人も数多いけれど」

「ますは妻の所在は?」


そのメール質問に対し、松田明美から即返信。

「未確認ですが、白骨死体の中に、紛れている可能性が高いと思われます」

「白骨死体の上に、白のウェディングドレスがかけられていて、それが梶村との結婚式にて着用したもののようです」

「愛人関係も多く、妻とトラブルも多かったようです」


柳生隆は、またメール質問。

「子供が2人いたと思うけれど、所在は?」

松田明美からの返信は、厳しいもの。

「地下倉庫の白骨死体の中、子供と思われる死体が2体」

「ただ、伝聞では正妻との実子ではないようです、おそらく愛人との間に生まれた子を育てていたものと、それが何故、白骨死体になっているのかは未確認です」


井岡スタッフが、またうめく。

「その家庭の中も、すさまじかったようだね」

「愛人の子を引き取ると言っても、愛人とトラブルのない妻などは稀有」

「親殺しもまた、ひどいけれど」

「その他の白骨死体も、調べないと」


華音の目には涙が浮かぶ。

「どうして・・・ひどすぎるよ」

「育ててくれた両親を殴り殺し」

「生まれた子供を育てると言っても、結局死んで、地下倉庫に放り捨てたまま?」

「誰かに殺されたの?」

「梶村って人?奥さん?」

「よくわからないけれど、怒りを通り越して、悲しい」

「地下倉庫に捨てられたままの人も、可哀そうだよ」


そこまで言って、華音はぐっと厳しい顔。

「僕は、許せない、その人」

そして、ヘリの窓から見え始めた鎌倉と江の島の海を見つめる。

「何が何でも、この悪行を止める」

「僕の命を張っても」


華音の目は、再び暴走を続けるバイクに注がれている。

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