第260話煽り運転犯人の情報が届く
永田町の柳生事務所ビル屋上から、まず一機のヘリが空中に浮かんだ。
乗っているのは運転手として井岡スタッフ、そして柳生隆と華音である。
井岡スタッフが華音に声をかける。
「さすが華音君だね、道路では渋滞やら信号で、どれだけ時間がかかるかわからない」
華音は、頷いて上空から地上を見ているだけ。
柳生隆も地上を見ながら、華音に声を掛ける。
「平均で速度200キロ、最速では400キロ出る」
華音は、そこまで聞いて口を開く。
「おそらく追いつけます、ただ見失うなうことのないように」
「彼は最速で走っているはず」
そして、考え始める。
「永田町で事故を起こし、次は何故鎌倉なのか」
「鎌倉の次にも、何か計画があるのか」
柳生隆のタブレットに、松田明美からの情報、まず一報が飛んできた。
「永田町でバイクを暴走させて煽り、大事故を誘発した男」
「特に昭和期に大勢力を誇った関東最大の暴走バイク集団のトップで梶村雄大」
「年齢は56歳、何度か交通違反を起こし、死亡事故や事件も誘発したこと何度も」
「刑務所暮らしも多いけれど、2年前に出所」
「免許は取り上げ状態であるから、無免許運転」
柳生隆は、うめいた。
「く・・・伝説の暴走バイク男か・・・」
「ただただ、自分の運転技術をひけらかす、その腕にバイク野郎が心酔するのをいいことに、徒党を組んで市民の迷惑など考えもせず、爆音を鳴らして迷惑行為を続ける」
「安静を必要とする病院の前で、大爆音を響かせ、深夜何時間も走り回るとか」
「苦情を言った市民を、数人で鉄パイプで暴行」
「その家に灯油をかけ、焼いてしまうことも何度も」
井岡スタッフも知識はあるらしい。
「もともとは、鎌倉の資産家の御曹司」
「その縁者の相続資産が数億単位で入ったことをいいことに、闇金もしている」
「一回でも返済が滞れば、手ひどい暴行」
「あるいは家を暴行により占拠してしまう」
「そして、資産家の関連で経済ヤクザでもいるんだろう、やがては占拠した家の売却手続きをしてしまう」
「ますます梶村雄大の懐も潤う、そのほんのオコボレが手下のバイク野郎に落ちる」
華音は、ため息をつく。
「まさに人の苦しみとか哀しみなんて、何も考えない人」
「自分さえよければ、何をしてもいい」
「今回の永田町の事件も、おそらく顕示欲の強さから」
「鎌倉小町炎上も、ただ火をつけて、焼けあがる町を見たい」
「泣き叫ぶたくさんの人を見たいだけなのかな」
柳生隆も厳しい顔。
「梶村雄大にとって、ムショ暮らしは、単なる勲章の一つ」
「何も気にかけない、反省もない」
「ムショでは、打って変わって優等生を貫くから、出所も早い」
「まあ、小さな事件の場合は、保釈金、金は無駄にあり余っているから払ったところで、何の痛みもない」
井岡スタッフは苦々しい顔。
「計画的というよりは、無計画に、行き当たりばったりで」
「ただ、その感情に任せて、事件を起こすタイプ」
華音は、地上を見つめながら考える。
「いったい、どういう育ちをすれば、そのような考え方になるのだろうか」
「そんな生活を続けて・・・人を傷つけ苦しめることが、生き甲斐になるのだろうか」
「そうでないと、自分の心がおさまらないのだろうか」
「その人の心の本当の奥には、何があるのだろうか」
華音の心は、深い哀しみで浸されている。
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