第225話赤い死の血の湖(4)祖父の秘密保持手段
エレーナは、再び話しだす。
「華音君のお祖父様がワインの買い付けで、ルーマニアのワイン業者と関係があったのは、1990年代」
「ちょうど赤い死の血の湖が拡大しつつある頃」
「今だから言えるけれど、お祖父様はワイン業者から、その情報を聞いてルーマニア政府の某役人に懸念を伝えたの」
「もちろん、頭のいいお祖父様だから間違っても捕縛などされない範囲でね」
華音はエレーナに質問する。
「エレーナさん、その某役人というお方は、御健在なのですか?」
エレーナは複雑な顔。
「確かに健在と言いましょうか、生きていることは生きています」
「ただ、歩くことはできない」
エレーナは少し声を落とした。
「何らかの薬物を注射されて以来・・・」
シルビアがエレーナに尋ねる。
「その何らかの注射をした人物と言うのは判明しているのですか?」
エレーナは、厳しい顔。
「それが、おそらく闇組織に関係する人物らしい」
「赤い死の血の湖に反対する役人全てに、そのような犯罪行為、同じ手口で行っているから、おそらく同一人物あるいは同じ組織に属する者」
春香が「赤い死の血の湖」の付箋が付けられた書物を、パラパラとめくり、最終頁に手書きの二人の署名と日付を確認。
「エレーナさん、一つの署名はルーマニア語なので読めないけれど、もう一つはお祖父さんの日本語書名、日付は1991年12月24日になっている」
「そうなると・・・もう一つのルーマニア語の署名は?」
エレーナは、深く頷く。
「はい、その署名がお祖父様にこの書籍を譲り渡した役人」
「もちろん、その書籍を著した人ではありません」
「書籍を著した人は、その時点では闇組織に殺害されているので」
ずっと黙って聞いていた立花管理人が口を開いた。
「おそらく、ドラキュラ伯爵関連の書籍、黒魔術関連の書籍、そして現在春香様が開かれているチャウシェスク政権の問題案件を暴いた書籍の中に、闇組織に関係する情報が含まれているとは思うのですが」
全員が立花管理人の次の言葉に注目すると、立花管理人は話を続ける。
「先々代様の性格は、慎重なのです」
「万が一にも発覚されない手段で、特に秘密を要する事項については、慎重に記録を残します」
華音は、何かに気が付いたようだ。
「あ、そうか・・・その本だけを見てもわからない」
「単に下線を引いたり、点をつけるぐらい」
「日記・・・それも・・・普通の人には読めない字を使う」
「その字と、本を照合できないと、わからない」
華音の目が、そこまで言って輝く。
「うん、そうなると、まかり間違っても、ルーマニア人とか外国人には理解しづらいかも」
「日本人だって、読める人は・・・相当限られてくる」
「でも、その日本語が読めたとしても、日本人には、ほとんど知られていなかった赤い死の血の湖の情報とは、リンクしない」
さて、華音の口から出て来る話は、エレーナ、シルビア、春香、今西圭子、松田明美、雨宮瞳にはサッパリわからない。
ただ、立花管理人だけが、満足そうに頷くのみ。
そして、とうとうシルビアと春香が切れた。
シルビアは華音のお尻を平手でバシン。
「華音!意味わかんない!」
春香は、そのまま回し蹴り。
「どうして、他の人にわかるように説明できへんの?!このボケ!」
華音は、平手打ちと回し蹴りで、マジに痛そうな顔になっている。
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