第221話エレーナのドラキュラ公説明

華音、シルビア、春香、雨宮瞳と、そしてルーマニア大使館のエレーナが洋館に入った。

外務官僚の高井は、華音とエレーナの面会取次の役だけとのことで、帰宅した。


その洋館の応接室では、連絡通り、立花管理人がエレーナ指定のルーマニア書籍をテーブルに並べてある。


エレーナは、立花管理人に深く頭を下げ、お礼を述べる。

「本当にありがとうございます」

立花管理人は、静かに頭を下げるのみ。


華音がエレーナに声をかけた。

「ドラキュラと黒魔術の本、僕の祖父様がルーマニアから持ってきた本ということで・・・」

「エレーナさんの方から、私たちに特別話したいことなどあれば」


エレーナは、華音にも頭を下げ、話を始める。

「まず、世界一般に知られているドラキュラのイメージと言いますと、美女の生き血を啜る紳士、黒マントにタキシード、真っ白なシャツ、首筋の歯型、牙、十字架やニンニク、太陽光に弱いこと、黒蝙蝠、棺桶に入ったモンスターなどと思われます」


エレーナの説明で、聞いている全員が頷く。


エレーナは説明を続ける。

「ただ、このイメージは1世紀以上前の、英国人作家ブラム・ストーカーが著した『吸血鬼ドラキュラ』と言う、エンターテイメントのホラー小説によって作られたもの」

「あくまでも、そのモデルとされたヴラド・ツェペシュとは、別人のようなイメージ」

「しいて言えば、共通するイメージは、残酷さだけ」

「しかし、モデル以上に、作り上げられた虚像のイメージだけが拡散してしまった」


エレーナはここで一呼吸置いた。

そのエレーナに全員の注目が集まると、説明を続ける。

「本物の、リアルのブラド公は、確かに残虐の限りを尽くしたような面も多々あります」

「しかし、あの当時世界最強だったオスマン・トルコの侵攻を押し返したような軍略の才があったのです」

「しかも他の周辺ヨーロッパ諸国や地主貴族が尻込みする中、ほぼ独力で軍を立ち上げて」

「もし、あの時のトルコの侵攻を止めていなければ、特にヨーロッパ世界はどうなったのか」

「完全にイスラムの支配下になってしまっていたと述べる学者も多くいるのです」


華音が、エレーナの顔を見た。

「いわゆるヨーロッパのホラー系のエンターテイメント小説のモンスターと言えば、ドラキュラ、狼男、フランケンシュタインになりますが」

「真実の歴史的な価値を考えれば・・・」

「それらのモンスターと同列に加えて欲しくないということなのでしょうか」


エレーナは華音の言葉に、満足そうに頷く。


そのエレーナにシルビアが質問。

「そのドラキュラ公関連の書籍で確認したいことと、黒魔術の関係は?」

「もし言える範囲であれば、教えて欲しいのですが」


春香も続く。

「あくまでも、ルーマニア大使館という御立場もあるので、無理と言うことであれば、それはかまいません」


シルビアと春香の質問で、エレーナは再び真顔に戻った。

「いえ、無理ではありません」

「それよりは・・・」

エレーナは、華音、シルビア、春香、立花管理人に頭を下げ、雨宮瞳をまずじっと見る。

そして驚いたような顔で瞳に話しかける。

「はい、瞳さんも、実は、すごい御力の持ち主」


瞳が意味不明のような表情を見せるけれど、エレーナは安心した顔。

「ぜひ、皆様の御力をお貸しください」


また厳しい顔に戻って、震える声。

「とても危険なことが起こりそうなのです」

エレーナの顔が蒼ざめている。

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