第199話VS柔道部顧問小川(1)
萩原担任は、柔道部顧問小川の発想が気に入らない。
そして、いろいろと考える。
「そもそも、篠山君の反則攻撃にも注意や指導をロクにしてこなかった」
「ほぼ、見て見ぬフリ」
「それは、篠山君の親の区議会議員に配慮したからでしょ?」
「それもひどいけれど、柔道部に入る気がない華音君を大会のためにと、一時的に誘うって、どういうこと?」
「自分と柔道部の名誉だけを考えて、華音君の都合とか思いを全く考えていない」
「それは華音君は強いから、出場すれば、学園の名誉にはなるのかなあ」
「でもなあ、自分でしっかり育てるのが基本では?」
「勝ちさえすれば、何でもいい、後は何とかなるって発想かな」
「結果至上主義・・・人を育てられない運動部指導者の典型だなあ」
「そんなことを考えているから、篠山君みたいな悪質な子が増長するんだ」
「・・・それとも、そこまでの無理やりって・・・他に何かあるのかなあ・・・」
そこまで考えた萩原担任は、華音に聞いてみた。
「ねえ、華音君、どうします?」
腕を組んでいた華音は、冷静な答え。
「はい、柔道部顧問のお話だけはお聞きします」
「ただ、僕は、文学研究会の所属」
「一時的に、その身分を移すなどは、したくありません」
つまり華音の意志としては「お話は聞く、しかし柔道部に一時的にせよ、移る気はない」ということ。
萩原担任は、そこでまた考えた。
「そう言えば、文学研究会の担当顧問は、国語専門の田中蘭だった」
「もし柔道部顧問が話をしてきても、田中蘭を同席させよう、もちろんクラス担任の私も、華音君を補佐しないといけない」
「それでも困ったら学園長を呼ぶ」
そして考えたことを、心配するクラス全員に伝えた。
華音をはじめ、クラス全員がホッとした顔になっている。
さて、午前中の授業が終わり、華音たちが教室でお弁当を食べていると、噂の主である柔道部顧問小川が、教室に入ってきた。
そして華音に、大きな声をかける。
「おい!華音!ちょっと話がある!」
「すぐに柔道部の部室に来い!」
華音は、驚いたような顔をするけれど、口の中に食べ物が入っているので、すぐには声が出せない。
クラス委員でもある雨宮瞳が、柔道部顧問小川に少し頭を下げた。
「あの、申し訳ありません、まだお弁当の最中で」
しかし、柔道部顧問小川は、雨宮瞳の言葉など聞かない。
とにかく大語で怒鳴り散らす。
「お前の弁当なんて、どうでもいい!」
「教師自ら呼び出しに来たんだ!」
「華音!さっさと立て!」
「失礼だろう!分をわきまえろ!」
ようやく華音は、食べ物を飲み込んだらしい。
そして立ち上がり、柔道部顧問小川に尋ねる
「ところで、何の御用なのですか?」
「僕は柔道部員でもないですし、柔道部に入部する気持ちも全くありません」
それでも、柔道部顧問小川は引かない。
またしても、教室全体どころか、廊下まで響く声で怒鳴り散らす。
「・・・るせえ!」
「いいから来い!」
「教師の指示が聞けないのか!」
その騒ぎを聞きつけたようで、廊下には他のクラスの生徒や、教師たちが詰めかけている。
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