第198話恋人風登校も改札口まで。柔道部顧問の勝手な頼み?

華音と雨宮瞳は、少々真っ赤な顔ながら、井の頭線の中では隣に立ち、平穏そのもの。

お姉さまたちも、余計なことは言わなかった。

それでも、井の頭線を降りる際に今西圭子が代表して雨宮瞳に声をかけた。

「いつでも、また遊びに来てね、待っています」

「また、一緒にお風呂入ってマッサージね」

雨宮瞳は、またうれしそうな顔。

「はい!喜んで!」と手を振ってお姉様がたと一時の別れとなる。


ただ、雨宮瞳のうれしそうな顔は、改札口まで。

なにしろ沢田文美がニンマリと華音を待っている。

その上、華音への声掛けが大きい。

「華音くーん!おはよう!」

周囲の通勤客、通学客が振り向くほどの大声。


そして華音が、ビビっていると、無理やり強引に華音の手を握る。

沢田文美の言葉も声も強い。

「華音君に会いたかったの!会えない日々がどれほど辛かったか」

華音は、周囲の目もあり、困った。

「あの・・・土日ぐらいなのでは?」

しかし、沢田文美は首を大きく横に振る。

「いやーー!それが会えないと思うと長いの」


しかし、そんな問答をいつまでも改札口で続けているわけにはいかない。

雨宮瞳も、沢田文美に負けてはいられないと思った。

「沢田さん、周囲の人の邪魔になっても困ります」

「学園に急ぎましょう」


沢田文美は、ムッとした顔になるけれど、華音は「そうですね、沢田さん、登校しましょう」と歩きだす。

沢田文美も、華音の言葉には抵抗しない。

「うんうん、瞳の言葉なんかでは動かない、華音君だから言うこと聞く」

と、スンナリ歩きだす。


今度は雨宮瞳がムッとした顔になっている。


さて、華音と瞳が、教室内に入ると、同じクラスの柔道部員山下が寄ってきた。

山下

「華音君、突然で悪いんだけど、柔道部顧問の小川先生が華音君に話をしたいみたいらしい」

華音は、素直に頷く。

「いいよ、話くらいなら」

ただ、華音の返事を聞いた山下は、少々浮かない顔。


それには瞳も気になった。

「ねえ、山下君、何か問題があるの?」


山下が、少し難しい顔で、話し出す。

「つまりね、篠山さんが退学になって、選手が足りないの」

「大会も近いから、華音君を誘いたいみたいなんだ」

「うん、顧問も華音君に入る意思はないとは思っているけれど・・・」

「大会期間中の一時的でもいいって、思っているみたい」


華音は、首を傾げた。

「意味がわからないなあ、篠山さんの次に強い人を出せばいいのでは?」

「僕は、入る気はないし、そんな時間がない」


そんな話をしていると、教室内の生徒も集まってきた。

「華音君、少し勝手なお願いだよね、そもそも柔道部顧問の監督不足もあるし」

「背に腹は代えられないってことかなあ、でも、無理があるね」

「萩原担任とか、学園長に相談して見たら?」


そんな話で盛り上がっていると、朝のホームルームで、萩原担任が教室に入って来た。

そしてクラスの生徒が「カクカクシカジカ」と、萩原担任に「柔道部顧問の話やら願いやら」を、告げる。


途端に、萩原担任はムッとした顔になっているし、当の華音は腕を組んで考え込んでいる。



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