第166話証拠があっても、ヤクザとの関係を否定し続ける政治家

いつの間に連絡を取ってあったのだろうか。

ホテルのフロントに地域の警察官が三人入って来た。

そして井岡スタッフと根津ホテルマンに、少し頭を下げ、倒れたままの政治家と、警察官を見て少し引き気味のヤクザ男、床に転がった短刀を確認する。


警察官の一人で、松本というネームプレートを付けている若い警察官が、政治家に声をかける。

「ホテルからの通報がありました」

「大丈夫ですか?立ち上がれますか?」


政治家は、警察官の問いで、ようやく顔を少し上にする。

ただ、まだ立ち上がるまではいかない。

声もはっきり出せない様子。


もう一人の年輩の警察官、ネームプレートに田中とある。

少し引き気味の大柄のヤクザ男を見て、床に転がった短刀を見る。

そして、大柄のヤクザ男に質問する。

「ところで、この床に転がっている短刀は、お前のものだな」

「どうしてホテル内に、こんな物騒なものを持ち込む?」


大柄のヤクザ男は、ますます引き気味になる。

「いえ・・・よくわかりません、俺のものかどうか・・・」

とにかく、ごまかしたいらしい。

倒れている政治家、そして、その直近にいた自分、床に転がった短刀、その因果関係を聞かれたら、どうにも抗弁が難しい。

そして、こんな人の多いところで逮捕でもされたら、組にも迷惑がかかるし、政治家先生にも、叱られてしまうと思っている。


田中警察官は、フッと笑う。

「お前の胸のバッジ、指定暴力団のバッジじゃないか」

「そして床に転がった短刀にも、同じ指定暴力団の紋がしっかり刻まれている」

「この状況で、どう考えても、お前のものとしか考えられない」


大柄のヤクザ男が震えあがる中、三人目の警察官、ネームプレートには鈴木。

その鈴木警察官が、取り囲んでいるフロントの客たちに話を聞いている。


鈴木警察官

「どのような状況でした?」


フロントの客たちは、見たままを言う。

「はい、政治家の人と、短刀を持っていた大柄の男性は、知り合いらしいんです」

「お互いに会釈とか、手を振っていましたから」

また、別の情報もあった。

「あの大柄の男の人が、すごく可愛らしい女の子を脅かしていて」

「仕事を断ったら、両親の命を保証しないとか」

「家に戻ったら、血の海に転がっているとか」


根津ホテルマンが、三人の警察官の所に歩み寄った。

そして、タブレットを使い、証拠の動画を見せる。

証拠の動画には、ヤクザ男と政治家が、手を振りあう場面、転ぶ場面、その前にヤクザ男が美少女を恐喝する場面も、しっかり入っている。


松本警察官が、政治家を抱き起こしながら、尋ねた。

「先生は、この指定暴力団の男とは、懇意なのですか?」

「お互いに手を振りあって、会釈」

「それと、この指定暴力団の男の短刀と、少女に対する恐喝事実も確認されたのですが」


抱き起された政治家は、少し意識が戻ったのだろうか。

真っ青な顔で、懸命に「関係」を否定する。


「いや・・・勘違い・・・人違いだ」

「こんな指定暴力団とは、我が党は全く関係がない」


しかし、政治家の「関係否定発言」は、あっさりと否定された。

フロントの客に信じられないという声が大きくなった。

「だって、こんな近距離で笑顔で会釈しあって、どうして無関係?」

「政治家が倒れた時に、真っ先に助け起こそうとしたのは、ヤクザでしょ?」


しかし、この政治家は、客観的に見ていたフロントの客に、ここまで言われても首を横に振る。

「いや、間違いとしか言いようがない、これは我が党を貶めようとする政権の陰謀に間違いない」

政治家は、次第に顔を赤らめて、政権の陰謀として文句を言い始めている。

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