第163話フロントには危険なスカウトと震える美少女

根津ホテルマンがフロントまで戻ると、井岡スタッフがスッと寄って来た。

井岡スタッフは根津ホテルマンに、耳元でささやく。

「おそらく、あそこに座っている二人です」


根津ホテルマンが、井岡スタッフの視線の先を見ると、大柄でスーツを着込んだ角刈りの男と、15歳から16歳ぐらいの少女、それも相当可愛らしい美少女が対面している。


根津ホテルマンがつぶやいた。

「男の方は、いかにも、その筋ですね」

井岡スタッフもつぶやく。

「おそらく芸能スカウト、それもグラビア系、歌ではない、身体系か」

「これは、柳生事務所の情報網を使って先程調べました」



大柄の男が、突然テーブルをドンと叩いた。

それに怯えたのか、少女の身体が、一瞬こわばる。


大柄の男は低い声。

しかし、周囲にも聞こえている。

「何だって?断るって?」


少女は震えながら、声を出す。

「嫌です、そんな仕事・・・」

「さっきの約束と違います」


大柄の男は、せせら笑う。

「は?約束だと?」

「そんなの、あってもないが当然」

「どんなアイドルだって、みな同じ」

「みーんな、同じことをやって、それでビッグになる」


少女は、それでも抵抗を見せる。

「嫌です、帰らせてください」

「両親も心配していますので」


大柄の男の表情が変わった。

「おい!何だと?」

かなり怖い顔になった。

「お前、親に言ったのか?」


少女は、ますます震えた。

「さっき、トイレでメールを」

「・・・はい・・・言ってはいけないんですか?」


大柄の男の表情は、ますます厳しい。

そして脅しをかける。

「おい!お前の両親の身元なんぞな、すぐに調べられるんだぞ」

「親が、どうなってもいいのか?」


少女は震えた。

「どういうこと?」


大柄の男は、冷酷な笑み。

「ふ・・・お前がな、お父さーん、お母さーんって泣いて家のドアを開けるだろ?」

「するとな・・・」


少女の身体が、ビクッと震えた。


大柄の男は、また低い声。

「そしたらな、台所でお前の大好きな母さんが死んでいる、首を切られて血の海になって」

「お前の親父もな、額の真ん中に穴が開いてな、一緒に仲良く死んでいるのさ」


震えて声が出せない少女に、大柄の男は、声を大きくした。

「さあ、このまま事務所に来るか、それとも、大好きなご両親の惨たらしい死体を見るのか?」

「俺は、素直について来たほうがいいと思うなあ」


少女は、その言葉で、ますます震え、ガックリと肩を落としている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る