第120話華音に密着する瞳 華音は冷静に奈良案内の話

華音と、その「一行」が、それでもようやく最寄りの駅についた。

そして、華音が、帰りの井の頭線に乗り込む時を、雨宮瞳は、見逃さなかった。

「同じ駅でおりる特権」を思い、スッと華音に隣位置をゲットしたのである。


同じ井の頭線に乗る女子生徒などもいて、「ムッとした顔」で瞳を見るけれど、瞳は「かまっていられないわよ、早い者勝ち」と、気にしない。


さて、華音は、隣に瞳が来たので、恥ずかしそうな、うれしそうな顔。

「ありがとうございました」

お礼まで言っている。


「うん、事件もそうだけど、周りが大変ね、人気者になっちゃった」


華音

「よく顔も知らない人ばかりなので、どう答えていいのか、わからないんです」


瞳は頷く。

「そうね、華音君は人気者、有名人だけど」

「取り囲む人は、華音君を知っているけれど、華音君は取り巻く人を知らない者ね、それは気を使う」


華音の顔が和らいだ。

「瞳さんが来てくれて助かりました」


瞳は、ドキンとなった。

「え・・・あ・・・そう?」

「うれしい・・・あはは・・・」

途端に、出て来る言葉が、ぎこちない。


華音は、電車からの風景を見ている。

「何か、住宅地の中を走っていくので」

「奈良の田舎とは違うなあって」


瞳は、少し心が落ち着いた。

「一度、行ってみたいなあ、奈良にも」


華音が瞳の顔を見た。

「お連れしましょうか?」

「ご案内します」


瞳の顔が、また真っ赤。

「えーっと・・・はい!」

声が裏返った。

恥ずかしいけれど、裏返ってしまうほど、またドキドキしてしまった。


しかし、華音は冷静。

「そうだなあ、僕が案内するとならば、まずは奈良公園界隈」

「大仏様のおられる東大寺、阿修羅で有名な興福寺」

「日本最古の寺の伝統を持つ奈良町の元興寺」

「もちろん、春日大社は、最初に御参拝」


瞳は、もうドキドキして、華音の話を聞くばかり。


華音は、奈良歩きの話を続ける。

「あとは、橿原神宮、万葉の里の明日香村探訪」

「斑鳩の法隆寺」

「長谷寺も外せないなあ」


雨宮瞳は、ドキドキ感にうれしさも、加わった。

「華音君みたいなすごい人が、私だけに話してくれている」

「私、華音君に認められているのかな」

そう思うと、ためらってはいけないと思った。

ほぼ、腕が密着するぐらいに華音に接近した。


華音は、それでも冷静。

「最後に、僕の実家」

「西の京、薬師寺の近くですが、ご案内します」


そして、驚くしかないことを、瞳にささやいている。


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