第115話篠山事件の後始末(3)分析と今後の対策

柳生隆は、華音の痛そうな顔を見て、少し笑っていたけれど、次の瞬間、全身の力が抜けた。

「うわ!」

その柳生隆を見て、今度は華音が笑う。

「まったく、いたずら好きだなあ」


そんな華音と柳生隆の握手の攻防戦を見ていた吉村学園長が、萩原担任に解説をする。

「隆君と華音君の、挨拶はあれなの」

「握手をして、指を極め合ったり」

「またいろんな小技を仕掛け合って、遊ぶの」

「二人とも、格闘の猛者なの」


あっけに取られてしまう萩原担任を横目に、吉村学園長が柳生隆と華音に声をかけた。

「いつまでも遊んでいないで」

「本題に入りましょう」


柳生隆

「あはは、そうだね、またやられた」

華音

「これで、99勝、86敗」

柳生隆と華音は、そんなことを言い合って、ようやくソファに座った。


吉村学園長が華音に声をかけた。

「ねえ、華音君、何か気づいたことある?」


華音の顔は、真顔に戻った。

「はい、篠山さんのお父さんと、篠山さんの件ですよね」


華音は、少し間を置いた。

そしてゆっくりと話しだす。

「篠山さんのお父さんの日常の仕事は土建業」

「クラスの人から聞いたけれど」

「その篠山さんのお父さんの会社の人の、トラックの運転が相当荒っぽいとか」

「自転車に幅寄せしたり、大きなクラクション鳴らして脅かしたり」

「どけどけーとか言って、脅かしたり」


萩原担任の顔が、厳しくなる。


華音は話を続けた。

「そんなことをされても、相手の顔が怖いので文句も言えず」

「篠山さんのお父さんが区議とか、PTA役員とか、いつも暴行とか恐喝をしかかてくる篠山さんが、学園内にいるとかで、泣き寝入りみたいで」


柳生隆の顔も厳しくなっている。


華音の顔が曇った。

「それで、篠山さんは、そういうことをする土建屋さんの中で育ってきている」

「つまり他人に迷惑を故意にしかけて喜ぶような人々の中で」

「普通であれば、卑しい考えとか、行為なんだけれど、育った環境が、そうだったのではないかと」

「今さら、仕方が無いですけれど」


吉村学園長の顔も曇った。

「そうね、篠山君のお父さんも、とにかく強引で我がまま」

「どうしてもって言うから、学園内の補修工事をお願いするけれど、手抜きが多いから、結局内密に他の業者に頼むことになる」

「ただ、地域に根を張っているというのかな、裏でいろいろ動くのかな」

「選挙では当選する、今は三期目かな」


しばらく話を聞いていた柳生隆が口を開いた。

「そういうことになると、今回の報復、意趣返しも考えられます」

「息子は逮捕、区議も辞任するしかないような恥をかかされた、といっても自らたちが招いたことだけど」

「えてして、そういう種類の人は、完全には自分を反省しない」

柳生隆の表情が、本当に厳しくなった。

「私の事務所で、完全対応します」

「この学園を守ります」


吉村学園長の顔は、にっこり。

華音は、「え?」という顔になっている。

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