第114話篠山事件の後始末(2)腕利き弁護士と華音の関係
柔道部副主将篠山は、結局学園に残ることはできなかった。
緊急の学園理事会、緊急PTA役員会において、犯罪事実と原因の徹底した追及と被害者への謝罪と補償、及び警察当局に篠山の身柄を引き渡すことが決議されたためである。
そして、篠山の父も、PTA役員は辞任、その席で自ら申し出て、そのまま認められた。
また、区議としての職務も、辞任する以外にはなかった。
息子の犯罪が、区議の親の身分を後ろ盾にしていたことが批判されたこと。
また吉村学園長に、学園での教育に問題があるとか、被害の事実を確かめる前に、まず示談金を持ち出すなどの言動も、厳しく非難をされたためである。
尚、被害者救済策の一環として、学園で刑事事件専門の弁護士を一定期間雇い、被害生徒が不安を感じながら直接交渉することのないような、措置が定められた。
放課後、華音は萩原担任と学園長室に呼ばれた。
華音が、萩原担任と学園長室に入っていくと、
吉村学園長が華音に頭を下げた。
「華音君、ありがとう、一定の解決を得ました」
華音は、難しい顔。
「すごく、大事になりましたね」
吉村学園長の顔が、沈んだ。
「私も、まさかここまで、犯罪事実がはっきりするとは思っていませんでした」
「学園長として、責任を痛感します」
「理事会で、報酬の自主返納を申し出ました」
萩原担任も、神妙な顔。
「私たち教師も、何も言えなくて泣いていた生徒のことを思うと、本当に申し訳なく思います」
華音は、難しい顔のまま。
「余罪とか、ありそうですね」
吉村学園長は深く頷く。
「そういうことも心配して、弁護士を雇いました」
「相当な腕利きで・・・」
そこまで言って、華音の顔をじっと見る。
「華音君のよく知っている人」
華音が首を傾げると、吉村学園長の厳しい顔が、少しだけ和らいだ。
「もうすぐ来るかな」
華音が、また首を傾げていると、学園長室のドアにノック音。
吉村学園長が席を立って、ドアを開ける。
そして、一人の若い男性が入って来た。
年齢は、25,6歳ぐらいだろうか。
華音は、その顔を見て、びっくり。
いきなり立ち上がって
「柳生のお兄さん!」
その後の声が出ない。
華音に「柳生のお兄さん」と呼ばれた若い男性は、にっこり。
「あはは、華音君!」
「転校するなり、いろいろやっているみたいだね」
そして、そのまま華音と握手する。
吉村学園長が、目を丸くする萩原担任に、説明をする。
「この弁護士さんは、柳生隆さん」
「華音君の剣道の師匠の柳生霧冬さんのお孫さん」
「華音君の兄弟子かなあ」
「かなりな腕利き、弁護もそうだけれど、格闘もね」
さて、華音は柳生隆と握手をして、笑っている。
「隆さん、指を極めようとしたんでしょ?」
柳生隆が笑うと華音。
「そんな簡単には極めさせません、僕も成長しました」
すると柳生隆が笑い、少し指を動かす。
「へえ・・・そう?」
華音は、途端に痛そうな顔になっている。
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