第110話吉村学園長VS篠山の父

吉村学園長の対応は、早い。

篠山を別室に待機させ、篠山の父に連絡を取った。

吉村学園長

「篠山様、お忙しいとは存じますが、ご子息の件で、いささか問題が発生いたしました」


篠山の父は、学園長の連絡を受けて、すこぶる不機嫌。

「仕事も忙しいし」

「区議会議員としての職務もある」

「だいたい、家の息子が何をしたっていうんですか?」

「多少何かをしたにしても、私はPTAの役員をやっているんだ」

「少々は、大目に見ておさめてくれるのが、学園の責任なのでは?」

最初は、「かまってはいられない、学園で何とかしろ」というような態度。


吉村学園長は、言葉を補足した。

「そうですか、それでは、もう少し具体的に申しましょう」

「ご子息が、教室内で暴言と暴行行為を行ったのです」

「現在の段階では、今後のことも考慮して、警察当局に連絡、それなりの処置をと考えておりますが」


篠山の父は、それで少し慌てた。

「何だって?暴言と暴行行為?」

「警察?」

それでも、抵抗を見せる。


そして、逆切れをはじめた。

「そういうことのないように、学園で責任を持って教育しろよ!」

「俺を誰だと思っているんだ!」

「PTA役員で区議だぞ!」

「息子が、そこらへんの平民のガキに何かしたってな!」

「身分が違うんだ!」


しかし、やはり「警察当局」という言葉が気になったらしい。

「おい!学園長!」

「今から行く!」

「だから、警察には言うな!」

「それから、示談にする!」

「いくら持って行けばいい!」

最後は、「金」を持ち出してくる。


吉村学園長は、呆れながら、篠山の父に応えた。

「警察当局を呼ぶ、呼ばないは、あくまでも被害者と当学園の判断になります」

「あなたに指図される理由はありません」

「それから区議とかPTA役員とか、平民の区別も当学園内では存在しません」

「示談もなにも、その金額を含めて、お答えする義務も、理由もありません」

「それに、あなたのご子息の暴言と暴行は、教室内でたくさんの生徒が見ている状態で発生しました」

「すでに、学園内に知れ渡っています」

「もみ消すも何も、そんな不自然なことは、教育機関ではできません」

「そんなことをしたら、生徒たちの心に、一生不信感が残ります」


「ウッ」となってしまった篠山の父に、吉村学園長は、もう一言。

「その身分ということで言うならば、あなたのご子息が暴言をはいた相手は、とんでもない人になりますよ」



さて、篠山の父に連絡を終えた吉村学園長は、別室にいる篠山のところに。

吉村学園長

「今、あなたのお父様に、連絡を取りました」

「少ししたら駆けつけて来るはず」


篠山は、本当にガタガタと震えている。

「・・・あの・・・退学処分ですか?」

「親父に怒られる・・・・」


その篠山に、吉村学園長は、また呆れた。

「あのね、篠山君、どうして自分のことしか考えないの?」

「ずっと黙っていたけれど、あなたの口から、剛君への謝罪の気持ちも言葉も何もない」

「こうなると、警察かなあ・・・」

篠山は、顔をおおって泣き出してしまった。

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