第82話道真公つながり、おばあさんは泣き出してしまった。
華音は、黒ベンツの助手席に乗り、後部座席におばあさんとシルビア、そして吉村学園長が乗る。
おばあさんは、かなり緊張した様子で、しきりにお礼を繰り返す。
「ほんのこつ、お金も命も助けてもらったうえに、これほどよくしていただいて」
吉村学園長が、おばあさんの手を握る。
「いえいえ、ご心配なさらず、華音君も私たちも、人助けが大好きなので」
「そんなことよりも、本当に心配な時間を過ごされたでしょう、今日はゆっくりと疲れを癒してください」
シルビアからも、おばあさんに声をかける。
「出来る限りのお世話をさせていただきます」
おばあさんは、また感激のあまり、泣き出してしまった。
黒ベンツが華音のお屋敷に入ると、春香が玄関でお出迎え。
吉村学園長には会釈、おばあさんには深くお辞儀。
「とにかくお疲れでしょう、ゆっくりおくつろぎください」
おばあさんは、屋敷の中を見回し、本当に驚いたようだ。
「なんと・・・大層な旅館のような・・・」
「わざわざ旅館を取っていただいたのですか」
春香は、にっこりと、首を横に振る。
「いえ、私どものお屋敷にございます」
「何も心配はいりません」
吉村学園長は、再びおばあさんの手を握る。
「さあ、お食事の用意が出来ております」
「お口に合うかどうか・・・」
おばあさんは、また驚く。
「いえいえ・・・ほんのこつ、申し訳なかとです」
「ここまでしていただいて」
吉村学園長に手を引かれ、そのまま食堂に進む。
食事の内容は、典型的な和食、魚介類の鍋料理。
おばあさんは、一つ一つの料理に感激しながら食べている。
「この煮物も焼き物も、味付けが柔らかくて」
「椀物も、ふっくらと・・・」
「ご飯も、よほどの炊き方上手でないと、こんなにお米の甘さは出ません」
吉村学園長が、おばあさんに、やさしく声をかける。
「おそらく九州の御出身ですよね」
おばあさんは、深く頷く。
「はい、大宰府近くの、料亭で長らく、仲居をしておりました」
「三年前に定年退職して」
「今は、家で、のんびり過ごしております」
立花管理人が、おばあさんに声をかけた。
「私も大宰府、博多は大好きです」
「万葉集の時代、大伴旅人の時代も好きで」
ずっと黙っていた華音が口を開いた。
「大宰府の天満宮に祀られている菅原道真公は」
吉村学園長とシルビア、春香がクスッと笑う。
華音が言葉を続けた。
「僕の奈良の西の京の実家のすぐ近くが、出身地なんです」
「奈良の西の京近く、菅原の地」
「菅原天満宮という神社があって、道真公の産湯の池も残っています」
「自転車で行けば、5分もかからない」
「僕もよく参拝したり、梅の花を見に行きました」
おばあさんは、また泣き出してしまった。
手を合わせて、華音を見ている。
「ほんのこつ・・・道真さんの御利益」
「毎日、毎日、参拝をして・・・良かった・・・」
震えて言葉が出ないおばあさんの肩を、吉村学園長が抱きかかえている。
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