第81話感謝状とマスコミ報道の問題点 お迎えの黒ベンツ

華音は、それでも「警察の謝意」を断り続けることはできなかった。

「僕ではなくて、学園に対しての感謝状にして欲しい」と条件をつけ、感謝状を受けとる形になった。

また、警察署長から、華音に手渡す形で、マスコミも一部入れて感謝状贈呈式を行うとの申し出もなされたけれど、華音は「僕は学園全体の中の一生徒として、お話を聞く程度に」と、断ってしまった。


吉村学園長が、少々困惑顔の警察署長に声をかけた。

「華音君は、派手を嫌うの」

「私の学園としても、特に必要はありません」

「華音君の言う通り、当然のことをしたに過ぎないのですから」


ますます困惑顔の警察署長に吉村学園長が、説明をする。


「こんなことがマスコミ報道されたら、もっと大変な事態になるかもしれない」

「華音君の名前は、格闘界では、少々知られた名前」

「その華音君が奈良にいる場合は、まだいいけれど、ここ都内にいるとわかれば、他の学園の格闘部関係が必ず興味を持って学園に来る」

「それで華音君が格闘系の部活に属していれば、まだ相手になるけれど、華音君は文学研究会なの、相手はしない」

「そこで、トラブルが華音君にも、他の学生にも発生する場合がある」

「そういうのは、学園長としても避けたい」


神妙な顔になってしまった警察署長に、吉村学園長は続けた。

「それにヤクザ者でしょ?下手に報道されて、報復行為をされても面倒なの」

「とにかく一人でも犠牲者は出したくないので」

そこまで言って、学園長は声を少し落とした。

「警察の人が、しっかり守ってくれるっていうなら別なんだけどね」


警察署長は、難しい顔。

「いえ・・・地域の警察署には、様々な業務があるのでして・・・」

「全ての犯罪行為を取り締まることなど、全く不可能で・・・」


警察署長と吉村学園長が、そんなやり取りをしている間、華音はおばあさんに声をかけている。

「もうすぐ、お迎えの車が来るので、それに乗ってください」


おばあさんは、調書の作成に疲れた様子だったけれど、華音に深く頭を下げる。

「ほんのこつ、申し訳なかとです」

「何から何まで、お世話になってしまいまして」


その華音に雨宮瞳が声をかけた。

「華音君、私も付き添おうか?家も近いから」

華音は、少し考えた。

「うーん、シルビアが来るよ、運転手は立花さん」

「雨宮さんは、特にいいかな、大変だもの」


長谷川直美も心配そうな顔。

「私たちもついて行きたいんだけど」

他の文学研究会のメンバーも同じような心配顔。


吉村学園長が警察署長との話し合いを終えて、出て来た。

「私が行くよ、あなたたちは、帰りなさい」

と、女子生徒に声をかける。


華音は、驚いたような、安心したような顔。

「ありがとうございます、今、大人の女性がいないので」


吉村学園長は、微笑む。

「いや、たまには、私も立花さんの顔も見たいし、お屋敷も見たい」

「シルビアちゃんも、春香ちゃんも見たい」


そんな話をしていると、黒塗りの大きなベンツが警察署に入って来た。

そして立花管理人とシルビアが車からおりて来た。

華音は、おばあさんに声をかけた。

「あの車のに乗ってください」

おばあさんは、目を丸くしている。

「ほんのこつ・・・すごか車・・・」


そんな様子を見る雨宮瞳は、「私もあの車に乗って華音君のお屋敷に行きたい」と思う。

長谷川直美たち文学研究会は「マジ?超リッチ車・・・それからあの金髪美少女は誰?」と、目がまん丸になっている。


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