第16話華音は高田顧問の長年の腰痛を治療する

高田顧問は、素直だった。

「うん、確かに、痛みがひどくて、整体治療に通っている」

しかし、疑問を感じた。

「華音君、それがどうしてわかるの?」


華音は、再び冷静な顔に戻った。

「はい、失礼とは思ったのですが、先ほどのテニスコートを歩かれている姿」

「倒れた沢田さんを見ている姿」

「それから、先ほど、保健室に入って来られた先生の足の運び方から、なのですが」

いつもの通り、慎重な話しぶり。


吉村学園長が、華音を補足する。

「華音君は、沢田さんの右足首の捻挫も、遠くから見ていて見抜いたの」

そして華音の顔を見た。

「ねえ、華音君、ついでだから、高田さんの腰も見てあげたら?」


華音は、少し考えている。

「はい・・・高田先生がよろしければ」


しかし、高田顧問のほうから、お願いが早かった。

「頼むよ、華音君、今もかなり痛い」


華音は、保健室の三井教師の顔を見た。

そして三井教師が頷くのを確認して


「わかりました、それでは、高田顧問、ベッドにうつぶせに」

「痛いようでしたら、手伝います」


ただ、ここでも、華音の動きは素早い。

すんなりと高田顧問の背中に手を回し、高田顧問をベッドの上に、うつ伏せにしてしまう。


高田顧問は、全く信じられない様子。

「整体師のところでも、本当に苦労して、うつ伏せになるのに」

「あっと言う間に、何の痛みもなく、うつ伏せになってしまった」

「腰は痛いけれど、うーん・・・」


その高田顧問に華音が声をかけた。

「痛かったら、すぐにおっしゃってください」

「また、違う方法を試します」


高田顧問は「え?」となるけれど、そもそも、腰が痛い。

うつ伏せになれば、華音に振り返るなど、実は困難にして無理、激痛を伴う。


「はじめます」

高田顧問の耳に、華音のやさしい声が聞こえた。


途端に、高田顧問は、不思議な感覚に包まれる。


「あれ・・・腰がひんやりと・・・ほお・・・気持ちがいい」

「はぁ・・・冷湿布でもなく、電気治療でもなく、ガンガンするような強引な整体でもなく・・」

「うん?身体が、ホカホカしてきたなあ・・・」

「足の先が温かい、こんなことは滅多にないな」

「腰?あれ?・・・何か重たいものが、溶けるような感じ」

「ドロドロとしたものが、溶けて・・・サワサワと流れていく」

「涼やかな腰って、感じ・・・太ももも軽い」


高田顧問は、あまりの身体の心地よい変化に、少し太ももを動かそうとする。

すると、華音から、またやさしい声。

「高田先生、まだです、もう少ししたら、OKだします」

「すみません、じっとしていてください」


高田顧問は、不思議で仕方がないけれど、出てくる言葉が自然。

そして恥ずかしく何ともない。


「はい、わかりました、まかせます」

「何より、気持ちがいい、長年の疲れがなくなるような」

「はぁーー・・・楽です・・・感謝です、華音君」


いつもの、高田顧問を知っている、特にテニス部員たちには、信じられない言葉が飛び出している。

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