第15話全員がお辞儀で仲直り?華音と握手

沢田文美が、自分を見ずに頭を下げる三人に、声を、しかも元気な声をかけた。


「顧問、部長、恵美ちゃん!」

「治っちゃった!」

「華音君に右足を支えてもらっていたら、治っちゃった!」


その沢田文美の、あまりの元気な声で、テニス部顧問高田、部長南村、ペアの恵美が、思わず顔をあげると、信じられないことに沢田文美は笑顔で立っている。

そのうえ、全く状態がいいのか、ピョンピョン跳ねたり屈伸運動をしたりする。


テニス部顧問高田

「え・・・信じられない・・・重症かと・・・」

部長南村

「とても動かせない状態かと・・・」

ペアの恵美

「華音君?え?どうしたの?」

三人は、茫然となってしまった。

今の沢田文美の状態が、全く予想外なのである。


吉村学園長が、その三人に声をかけた。

「まあ、要約して言えば、華音君の痛んでいる人を、まず救いたいという気持ちが、沢田さんを楽にしたの」

「何故、華音君に、現実に、そんなことが出来るのかということは、また、いずれ」


吉村学園長の言葉を聞いて、遅れて入ってきたテニス部三人の視線は、今度は三田華音に。


ただ、華音は注目されて恥ずかしそうな顔で、微笑んでいるのみ。


吉村学園長は、さらに言葉を続けた。

「華音君は、さっきね、自分が転校生初日で、面識もほどんどない人に、出すぎたことをしたとか」

「確かに、沢田さんに痛みをやわらげたかったのが第一だけど」

「テニス部の人たちには、失礼だったかもしれないって」

「後で、謝りに行くなんて、言っていたほどなの」


その吉村学園長の言葉で、まずテニス部顧問高田の顔色が変わった。

「いや、華音君、そんな必要はないよ、謝るのは僕たちのほうだよ」


テニス部部長南村も、激しく首を横に振る。

「そんなことしないでいいよ、恥ずかしいことをしたのは、僕たちのほうなんだから」


ペアの小川恵美は、動揺している。

「華音君、そんなに思わないで、感謝こそすれ、謝られたら・・・どう返していいのかわからない」


華音は、その三人の答えを聞いて、ようやくホッとした様子。

「ありがとうございます、助かりました」

「何より、沢田さんが、よくなってうれしいです」

「それと、他のテニス部員様たちにも、よろしくとお伝えください」

またしても、慎重かつ丁寧な言葉。

そのうえ、しっかりとお辞儀までする。


すると・・・また・・・保健室全体に異変が起きた。


何と、華音のお辞儀に合わせて、全員がお辞儀をしているのである。


そして全員が、身体を起こすと、華音は恥ずかしそうな顔。

「あの、全員でなんて恥ずかしいです」


テニス部部長南村が、華音の手を握った。

「華音君、本当にありがとう、なんか、うれしい、涙が出て来る」

確かに、涙ぐんでいる。


ペアの小川恵美も、華音の手を握った。

「さっきから、すごくモヤモヤしていたけれど、スッとしたよ」

恵美も泣き出している。


南村と恵美が、華音から手を離すと、今度はテニス部顧問高田が、華音に握手を求めた。

華音も、うれしそうにテニス部顧問高田の手を握り返すけれど、その瞬間、少し首を傾げた。

そして、高田顧問の耳元でささやく。


「高田先生・・・腰が痛くありませんか?」

高田顧問は、その言葉で目を丸くしている。

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