第14話三田華音の不安と学園長の諭し、ようやくテニス部が

保健室に、吉村学園長と萩原担任が入って来た。

おそらくテニスコートの一件が、学園内にも大きな噂となり、すでに知っている吉村学園長だけではなく、萩原担任にも伝わったらしい。


保健室の三井が学園長に頭を下げ、状況を説明する。

「あの・・・華音君たちに運んでもらって・・・」

「御承知の通り、ひどい捻挫だったのですが・・・」

「沢田さん、今、ご覧の通り、なんです」


沢田文美は、すでに捻挫も痛みも、まったくなくなってしまったようだ。

右足首を自由に動かし、屈伸運動まで行っている。

「本当に痛くて仕方がなかったんですが、華音君に足を支えてもらっていたら、スーッと痛みが引いて、身体がホカホカして」

「いつの間にか、軽くなって・・・」

「・・・今は、怪我する前よりも、右足首・・・だけじゃなくて、左足首も軽いんです」

沢田文美は、本当に感じたままを言っていることが、傍目にもよくわかる。

何より、笑顔にして、屈伸運動の動きも本当になめらかになっている。


吉村学園長は、沢田文美に、うれしそうな顔。

「それはそれは何より、痛みが引いたのが、まずは一番」


その次に、三田華音に声をかけた。

「華音君も、お疲れ様、ありがとう」

「すぐに感じてくれて、動いてくれて助かりました」


華音は、学園長に、頭を下げた。

「いえ、心配でしたので、沢田さんが楽になってよかったと思います」

また、いつもの通りの「普通の答え」になっている。


ただ、それでも、少々心配なこともあるらしい。

再び、保健室にいる全員に頭を下げて

「本当に転校日初日に、出すぎたことを、結果的にしてしまったかもしれません」

「何より、沢田さんの痛みを楽にしてあげたくて、いきなり動いてしまいました」

「テニス部のみなさんとか。顧問の先生には、すごく失礼だったかもしれません」

「それについては、申し訳ないなあと、あとで謝りに行くつもりです」


吉村学園長は、笑って、首を横に振る。

「華音君が頭を下げることは、ありません」

「むしろ、華音君に頭を下げるのは、テニス部顧問とテニス部員たち」

「それについては、私がしっかりと釘をさしておきましたから、心配はいりませんよ」

「そこまで気を使うことは、いらないかな」


華音は、その言葉で、ホッとしたようだ。

久々に、笑顔が戻った。

「ありがとうございます、学園長」

「さっきから、それも気にしていたので」


沢田文美からも、華音に声がかかった。

「華音君に私は救われたの、感謝してもしきれないほど、うれしい」

「だから、そんなに気を使わないで」



さて、ようやくというのか、テニス部顧問の高田と、テニス部キャプテンの南村、沢田文美のペアの小川恵美が、保健室に来たようだ。

テニス部顧問の高田が、本当に「恐る恐る」の状態で、保健室の扉を開けた。


そして、三人が、「まず」、扉の入り口で、頭を下げる。

尚、沢田文美の「状態」を見ていない。


テニス部顧問高田

「沢田さん、すぐに動かなくて悪かった」

テニス部長南村

「沢田さんにも、華音君にも、ひどいことを言ってしまった」

小川恵美

「文美!ごめーん!私も気が動転してしまって!何もしてあげられなくて!」


これには沢田文美、学園長、保健教師、萩原担任、雨宮瞳たちクラスメイトは呆れ顔。


ただ、三田華音だけは、高田顧問をじっと見ている。


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