ファッキンペパーミント!

jack1200

第1話 え、出るの?!

Coll of DutyやBattle field、World of TanksやWar Thunder、PUBGや荒野行動。

どれも一斉を風靡した戦争ゲームだ。

リアルな戦場や血湧き肉躍るバトルを展開し、世界大会ともなれば何千万もの大金が動く。

現代人が忘れてしまったスリルと戦争の空気を肌で感じられるゲームだった。

そう、かつては。


『戦争ゲームは子供に悪影響。戦争ゲームは社会の膿。FPSプレイヤーはキチガイ。』

そういう声は昔からあり、一部の人たちから白い目で見られたこともあった。

でも、今ほどは酷くなかった。


2025年、今は肩身が狭いなんてものじゃない。

戦争ゲームは迫害され、負の文化などと揶揄され、FPS,TPSプレイヤー達はいじめにあいその数を漸減させて行く。

当然の如く戦争ゲーム市場は衰退し、国が販売する反戦教育用戦争シミュレーションゲームがプレイヤー層の9割以上を占める。


ただ、少なくはなったものの戦争ゲームは今もプレイされている。

生き残った古参兵と僅かな新兵によって。

代表的なものは『World war Max』で、近未来型のVRFPSゲームでありFPSプレイヤーであれば1度はプレイしたことある作品だ。

他にも『Phantom Crysis』というバトルロワイヤルゲームや、『World of Tanks』といった昔ながらの名作は先細りながらも続いている。


「あぁっ、くっそ!角待ちショットガンかよ!」

今日何度目か分からないショットガンによるワンショットワンキルにイライラした俺は、SMGコントローラーを壁に投げつけ……ようとしたのをなんとか踏みとどまった。

戦争ゲームだけでなく、ゲーム業界自体が緩やかに衰退しつつある現代、需要の問題でコントローラーも昔より高くなっているのだ。

FPSで使われるような銃型のガンタイプなら尚更である。

このくらいでコントローラーを壊していたら、少ない小遣いはすぐに尽きてしまう。


俺がやっているのは、戦争ゲームの生き残り最王手『World war Max』だ。

Call of DutyをVRにして、よりリアルな戦場を再現をした感じと言えば分かるだろうか。

プレイヤーは100を超える兵科と師団を選択、そこからさらに数百種類の装備品を自分の好みで装備していく。

リアル系FPSは軒並み叩かれ炎上し、消えていってしまう。

そんな中で、このゲームは文字通り俺たちの最後の砦という訳だ。


「疲れた……」

コントローラーを置き、本体の電源を切り椅子から立ち上がる。

正直飽きた。もちろんWWMは好きだが、いかんせん長すぎる。

新作が出てもすぐ消えていくなか、もう何年も同じことの繰り返し。

大会も大々的には行えない以上、モチベも上がり辛い。


悶々としたまま部屋にいても仕方がないし、外にでも出てみるとするか。

「どこ行くのー?」

戸口ですれ違った母親からの質問に、遅くはならないとだけ言って家を出る。

玄関のドアノブを握った時に改めて気付いたが、やはり今日は大分冷え込んでいる。

まだ12月だと言うのに、今年1番の寒さだそうだ。

今日が学校が休みの日でほんとに良かった。

こんな寒い日に、暖房もろくに点かない教室で勉強なんて御免だ。


そんなことを思いながら通りを当てもなく歩いていると、俺はいつの間にか馴染みのゲームショップの前まで来ていた。

家からここまでは歩いて15分ほどかかるから、いつの間にかそこそこ歩いていた事になる。

別段行くところもないので、温もりを頂戴しに中に入ってみる。


「こんちわー」

冷気に遮られた声の代わりに、扉の鈴が客の来店を伝える。

が、肝心の店主は出てこず客もいないため静寂が澱んでいる。

勝手知ったる場所だから、ずかずかと奥へ入っていく。


スタッフルームを通り、さらに隣の部屋へ。

ドアを開ける音にも気付かず、暗い部屋でトリガーハッピーしている少女の後頭部にチョップを喰らわす。

「あいたっ!」

「よう心音ここね、毎日飽きないねぇ」

「もぉ鬼一きいち!いきなり攻撃するのやめてって言ってるじゃん!裏取り禁止!」

長めなボブを浮かせながら振り返って、上目遣いで睨んでくる。

やっているゲームはWWMだが、Z区分のこのゲームをするには些か幼すぎるように見える。

140後半ほどの身長に中学生のような童顔。

高校のクラスメイトで、この店の店長の一人娘だ。

名前は泉心音で、歳は俺と同じ17歳。

ここだけの話だが、俺はこの子のことが気になっている。

「ねぇ鬼一ったら!ちゃんと聞いてるの?」

「聞いてる聞いてる、ナイス裏取りだろ」

「全然聞いてないジャン!裏取りすんな!」

「へいへーい」

「で、今日はどうしたの?」

「暇だったからちょっと寄っただけだよ」

「じゃあ時間はあるんだ?」

「あるけど……どうした?」

「大事な話、あるんだけど……」

「大事な話……?」

心音の頬は紅潮し、少し息が上がっている。

まさか、告白……?

心音も俺のことが好きなのか?

落ち着いて返事が出来るように心の準備を整える。

よし、いつでも来い!

「で、大事な話って?」

「あのね、私と……」

「私と……?」


「大会に出て欲しいの!」

広がるはずだった青い春空は、霹靂によって吹き飛ばされた。


「…………は?」

「だから、大会に出て欲しいの!」

顔を真っ赤にして俯いてしまった。

心音が下を向いてくれていて良かった。多分今、俺は物凄い阿呆な顔してる。

「た、大会……?」

「うん、WWMの大会。2on2の公式大会だよ」

2on2とは、2人対2人で行う試合のことだ。

「ちょっと待ってくれ。公式大会って……そんなの何年も開かれてないし、情報も出回ってないぞ」

「うん。だって今日運営からメールが来たんだもん。正式発表は明日で、今日は小売店や株主だけへの連絡だよ」

「でもこのタイミングで大会なんて、また叩かれるんじゃないか?」

「だろうね。だから、優勝チームにはプロライセンスに加えて、軍がスポンサーになってくれてタレントデビューもするらしいよ」

「はぁ?た、タレント……?」

いよいよ訳が分からない。軍がスポンサーになるのは100歩、いや1000歩譲って分かるとして、タレント?

「タレントに関しては私にもよく分からないんだよね。FPSのイメージ改善と知名度アップのためだとは思うけど、詳しいことはなんにも。」

「そうか……」

「で、やってくれる?」

また上目遣いだ。この目には弱い。

「そもそも、心音はなんで出ようと思ったんだ?」

「そんなの、楽しそうだからに決まってるじゃん!4年ぶりだよ、公式大会なんて!FPSゲーマーとして、出ないなんて選択肢はないでしょ?!」

「確かにな……」

FPSゲームの公式大会なんて、今回を逃せば次がいつあるかなんて分からない。

「でも待ってくれ。WWMのCEROはZ、俺たちはまだ17だぞ?出れないじゃないか」

「大丈夫。大会は来年の秋で、それまでには2人とも18歳でしょ?」

「確かにそれなら……」

「ね?やってくれないかな?」

「……わかった。出よう」

「やった!ありがとう!鬼一大好き!」

ぴょんぴょん飛び跳ねる心音のボブが嬉しそうに踊る。

守りたいこの笑顔。柄にもなく心からそう思ってしまった。


「それで、チーム名はどうするんだよ」

「ふっふっふ。それならもう決めてあるのだよ」

腰に手を当て不敵な笑みを浮かべる心音。

ほんとに楽しそうだ。

「チーム名は、『ペパーミント』だ!!」

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ファッキンペパーミント! jack1200 @Onidaruma

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