第10話 本当にあった怖い洋食屋〜人類編〜
えぇ…この中心部、というかこの世界に来てから見たものは全て和で統一されてたのに…
この発展した町へ来て、まず最初に連れてこられたのは「洋」とか…えぇ……。
そりゃあ、この世界の住民は和しか見たことがないだろうし…他の世界を知らないからなんとも言えないけど
洋物はここでは貴重だろうし、「軍人は金を払わなくていい」なんて気前のいい対応がされてるらしい。
そりゃあ、入りたいだろうけども。
その建物の大きさ自体は白の外にある飯屋とは遜色ないくらいだったが、城壁内の建物と比べると少し見劣りするだろうか?
なんでもこの店は一日で建てたらしい。
大工さん頑張りすぎやろ、そのペースだと大工さんが作ったかも怪しいけど。
何人がかりで作ったのだろうか
色々疑問を抱きながら入ると、チリンチリンと鈴の音を鳴らしながらドアが開く。
やっぱり洋物の造りなんだけど…
なんか見覚えがある…なんか……この造り…
ハッ?!
サ○ゼだこれ!
まんまイタリアンな雰囲気とそれらしい絵画というか、そんな大層なものじゃないけど天井にくぼみがあって、そこに絵が飾られてる。
ソファに見立てたお座敷みたいなのが綺麗に並び、それぞれメニュー表が置いてある。
あとなんか間違い探しみたいなのもある。
サ○ゼかこれ?!
違う点があるとすれば、ひとつカウンター席があって目の前で料理を堪能できるらしい。
カウンターの目の前では女性が一人で料理をしていた。
その後ろに見えるのは棚…と、酒だろうか?
いくつかの酒瓶らしきものが見事に並んでる。
ワコウ酒、と言うらしい。
まぁ前世で言う日本酒に相当するものだろう。
メニューにはアルコールらしきものは…あれ、ワインくらいだ。
それもどうやって仕入れてるか知らないけど、まぁさすがにドリンクバーはなかった。
これ無償でやってるって聞くと…首を傾げたくなる。
きっと他に収入源があるのだろう。
でなきゃこんな立派な作りと酒の棚なんか作れるはずがない。
そして、カウンターはあれどそこで飯を食ってる人はいなかった。
まぁ確かにそこだけ見るとそこら辺の飲み屋と変わらないもん。
でも、なんでそこだけ和が残してあんねん。
子供二人が(それぞれ理由は違えど)口を広げ、驚いているのを見てリョウマさんは
「あんまり慣れないところだしな、今日はどっちかと言うと慣れてるカウンターの方で食うか」
とニンマリ笑った。
まぁ、食えればどっちでも良いし…こっちの世界でカウンターの飯なんて言うと寿司屋みたいな、高級感溢れる所くらいしかないサービスだったし。
うちの村にはそんな店一件しかなかった。
席につくとカウンターの女性は
「っしゃーせー」と気だるな声を出した。
言うの遅いやろ。
「お客様何名様で」
カウンターについた人数を見ながら聞いてくる。
「え…4人です…」
なんで見れば分かることを聞くのかわからず、咄嗟に答えたせいか…何かキョドり気味に喋ってしまった。
「おタバコはお吸いに?」
「なりません。未成年です。」
今度は自分が答えんとばかりにサユが答える。
こっちは早く料理を食べたいからか、ちょっと怒り気味。
「そいじゃごゆっくりどうぞー」
そう言い残してカウンターの女性はチリンチリンと鳴るドアを開けて店の外へ消えた。
何でや。お前が料理するんと違うんかい。
そう思っていると、リョウマさんが
「急げ!」とヨシノブに、あろう事か命令しながらメニューを渡す。
しかし、貴族であるにも関わらず命令されたことについて何も咎めず『はい!』の二つ返事でメニューを受け取る。
「え?何…?」
流石のサユもびっくりしてる。
俺もびっくりしてる。
何か、鬼気迫るものを感じて二人して硬直した。
蛇に睨まれたカエルのそれが如く固まって動けない。
さっきと一転して、そんな子供二人に目もくれず料理を選ぶリョウマさんとヨシノブ。
チラホラ後ろから「隊長またやってるよ」だの、
「もう敵わねえって分かってんのにな 」だの聞えてくる。
そして2人はメニューを見て30秒もせず、しかし、全てのメニューに目を通して
「アラビアータ一つ!」
「あっ!アラビアータもう一つ!」と叫んだ。
ちなみにこの時後ろの客らは
「おっ、そう来たか」だの
「でも被ったろ?」と聞こえる。
場所によっては
「カナデさんに100円」
「いや、隊長に50円」
なんて聞こえる。
軍の隊長が賭けの対象になるとはこりゃ如何に。
しかも隊長の方が賭け金低いし。
すると何故かカウンターの下から、さっきの女性がヌッと出てきた。
よく見ると下に扉がある。
多分あそこから料理の材料取ってんのかな?
店の構造どうなってるか知らんけども。
なんて考えてると、
「はいアラビアータ二つ。もう二人は?」
と、料理を出したあとこちらに振り向きめっちゃ笑顔で聞いてくる。
この時、リョウマさんもヨシノブも頭を手で抑え机に突っ伏し、『うぐぉおお』なんて唸ってる。
後ろの客の方は歓声を上げてる
『『オオオオオ!!』』
「50円頂き!」
「やっぱすげぇな!」
って声も聞こえる。
まるで予知したように料理を出してきた。
他の席はウェイトレスらしき、黒くて長い髪を後ろで一つ結びにした女性が料理を運んでる。
この歓声、賭け、予知。
おそらくこのカウンターへ誘導したのは子供への配慮なんかじゃない。
このカウンター限定でこの『カナデ』さんから料理を受け取れるのだろう。
そして、このカナデさんは何故か料理を予知して出している。
いかに予知されず料理を頼むか、それがこの賭けの見所だろう。
(気付いてるかサユ…ッ!)
と見ると、いや絶対気付いてないな。
めっちゃ真剣に料理を選んでる。
もうそっちの世界に没頭し、『何この料理美味しそう』なんて口を漏らしてる。
歓声の中、サユは「決めた!」と声を立てる。
そして、メニューを指さしている。
ちなみにその指の先には『マルゲリータ』と書いてあった。
これじゃあ賭けてもしょうがない
と言わんばかりに後ろの客達は席に着くが、
しかしその行方を見守っている。
いや、一つの席では『どういう驚き方をするか』『いや、驚かないだろう』なんて賭けも始まっている。
そんな中サユが出した言葉は
「イタリアンハンバーグ一つ」
(何ッ?!指しているメニューと別のものを?!気付いていたのか!)
後ろでは先程よりも大きい歓声が巻き起こってる。
「やるな嬢ちゃん!」
「初勝利か?!」
「天才だ!あれは!」
俺も騙された。
リョウマさんとヨシノブはその手があったかと言わんばかりの顔。
いやそれくらい思いつけよ。
まぁ、初見でこのテクニックを使う子供なんてそう居ないし、ここにいる全員が驚いたことだろう。
現に、カナデさんも指さした方向を一瞥すると、すぐさまカウンター下からなにか取り出そうとしていた。
「さぁ、その手に持った料理はなんだったの?」
とサユは自信満々に言い放つ。
これには俺も歓声をあげたくなる。
しかし
次の瞬間カウンター下からでた料理は
『イタリアンハンバーグ』
さらにセットで『ライス』までついてる。
「何でご飯までバレてるの?!」
とサユは叫び、それ以上に歓声は大きくなる。
ここまで来るとちょっと煩い。
「やだなぁ、お客さんの好きな物くらい覚えてますってぇ。」
カナデさんは照れながら笑顔で答える。
あれ?初めて来たんだよね?
「ここに来たのは初めてよ?」
「やだなぁ知ってますよ。初めまして」
トンチンカンな回答にサユは目を丸くするも、カナデさんは笑顔で握手を求める。
サイコか何かかな?
「ほんでそっちのお客様は」
次は俺の番か…!
「あっちの嬢ちゃんがあれだし、あの坊主も期待できるか?」
「いやぁ、あの嬢ちゃん以上の手は出ねぇだろ。」
「いや、子供の可能性に賭ける。100円だ」
なんて聞こえる。
どうしてサユがバレたのか。
どうやって店主は予知してるか。
それは全くわからない。
しかし、ここがサ○ゼと全く同じならこの勝負、俺に圧倒的アドバンテージがあるには違いない。
俺はまだメニューを手に取らない。
ただ、このカナデさんという女性の目を見つめ、この人のあらゆる予知を上回る動きをする。
カナデさんは短めの黒髪をかきあげ、その勇姿を真っ向から受け止めるが如く見つめ返してくる。
ちょっとジト目というか、なんかごめんなさい。そんなに綺麗な瞳で見つめ返されるとドキドキします。
「ハハハ、坊主が固まってら」
「惚れちまったかー!」
「お前にはまだ早いぞ!」
「早くメニューを取れ!」
なんて聞こえてくる。
やかましい、なぜ俺の時は毎回野次が入るのか
しかし、今回こそ、全て歓声に変えてみせる。
皆の遺志はッ!俺が継ぐぞッ!
「辛味チキン、チーズフォッカチオで。」
そう、俺はメニューを覚えている。
こんなメニューなんて見ずとも、どんな料理を食べたいかは頭の中のメニュー表を見ればわかるのだ!
カナデさん、あなたがどんな方法で三人を討ち取ったか。
癖、傾向、何秒見ていたか、どこを見ているか。
そんな所だろう。
貴女の予知のタネは視線だと、そう思っただから!
俺はメニューを見ない。
再び歓声は巻き起こる
『『オオオオオ!!』』
「アイツも予知を?!」
「坊主に200円だ!」
「俺はこのピザ、2ピース賭けるぜ!」
「それでもカエデさんは負けない!」
「きっとカナデさんは予知能力者だ!これも予知してる!」
様々な意見や金が飛ぶ。
さぁ、どうだ!
「ご注文は以上で?」
カナデさんはそれでもこの態度を崩さない。
いつもならここで動揺するだろう、しかし、俺は負けない。
負けられないんだ!
「……えぇ!」
確固たる意思を持って答える。
すると、カエデさんはカウンターから外れ、またドアの前へ立った。
「ごゆっくりどーぞー」
チリンチリンと、音を立てて外へ出て行った。
「あのカエデさんが…逃げた?」
「あの坊主、勝ちやがったぞオイ!」
『『人類は勝ったんだああ!!!』』
と客は勝手に騒ぐ。
「ありがとよ!」「200円、初勝利の金だ!」「真の予知王よ!」
などと騒いでいる。
そう、『勝手に騒いでいる』。
逆にカウンターにいる、俺を含めた客4人は静かに着席した。
「お、おいあれ!」
客の一人が気付いたようだ。
「あぁっ!」
何人かが気付き、そして席へ着く。
辛味チキン、チーズフォッカチオは、
カエデさんが外へ出る時には既に置かれていたんだ。
母さん、ごめん。
俺は…人類は……負けたんだ。
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