第9話 お願い

『何だとは何だ』って言われても……

意外だろう、むしろ今まで「なんで着いてきてるの?」って思ってたわ。


サユに会いに来た位かと思ってた、

いやそれでも大人しく待っとけって言うか、

いや待つな死ねというか何というか……。


「今回来てもらった理由はもうわかったか?」


リョウマさんは相も変わらずに笑顔で俺たちに問掛ける。


この人は多分あれだ、人の驚く所とか、新しいものを見て表情を変える瞬間が好きなタイプ。

俺もそういうの好き。


「今回の誕生会…もとい魔法適正の?」


「そういう事だ、見込みがないようだったらそのまま帰るつもりだったけどな。

裏を返せば、こうして今二人がここにいるのは…この方に見込まれたからだな。」


うーん、これがヨシノブでなければどれほど嬉しかったか。


チラッとヨシノブを見ると、そちらも同じようなことを考えていたのか目が合った。

二人はしばらくいがみ合うような視線をぶつけ合い、ふんっ、と鼻を鳴らしながらお互い目を逸らした。


「まぁ、見込みがあるとは言え俺以下だがな!今回の魔法創造もそれぞれ欠点がある!」


こいつは、どうしてこうも素直じゃないのか。


ヨシノブは高らかにそう告げ、あたかも「俺が一番」と言いたそうな雰囲気を出す。


いや常にそういう雰囲気を出してるけども、磨きがかかってますね。そのまま頭の磨きもかけてみたらどうですか?


「というと?」


サユは向上心があるのか、もしくは先程の適性試験での負けを認めて次に繋げようと思ったのか、すぐさまヨシノブへ話しかけた。


なぁんか、歩き始めてから俺よりも会話してるんじゃなーい?


「サユちゃんはねぇ、ちょっと魔力が暴走気味だったかなっ!」


甘ったるい猫なで声に吐き気までするね。


「例えば……魔力を一時的に増やす、瞑想の時間がちょっと長すぎたせいかな?

瞑想って一時的にすっごい魔力を高めるから、さっとやればちょうどいい魔力が溜まるんだ!戦場だとあんなに長く待ってくれる敵はそういないからねっ!」


言ってる事はマトモだ。

確かに、あれじゃあ制御もしにくいだろうし…瞑想してる間に殺されたら元も子もない。

一体一の場合を考えると実用的とは言えないのだ。


「あと、放出より留めておく方が良いかも!それは後で教えてあげるからねっ!」


「魔法ってその場に留められるのか!」


俺が思わず大声を上げると、邪険そうな目付きでこちらを見て答える。


するとヨシノブは早口で、雑に答えた。


「あー?そんな事も知らんのか。

例えばー…水魔法を使えば、その水は飲んだり、破裂させたり蒸発させたり…しなきゃだいたいその場に残る。

風魔法だってそう言った留める力を見につければ永遠にその場に残るぞ。お前の魔法はそれに適してる。固形化して、回転させれば速度も威力も上げやすいだろ。終わり。」


そしてもう今はサユのアドバイスしてるよ。

どんだけ俺が気に入らんのだ。


ただ、いい事も聞けた。

この魔法が固形化できるならお願い事も…。


「リョウマさん、そう言えばお願い事いい?」


「あ?…あー………良いぞ。俺に叶えられる範疇ならな。」


名前の割になんと小さい男だ。

絶対面倒ごとは流すつもりだぞこいつ。


しかし、このお願いは却下されちゃ困る。


「この国って、遠距離の武器とかないの?」


「魔法とかか?一応使えるやつもいるけど…実践的じゃねぇな。」

「じゃなくて!遠距離に使う武器!」


リョウマさんは少し考えながら思いをめぐらせている。

そして、あっ、という表情をしてこちらへ向き直った。

「フーラスとかタールみたいな光の武装か?あんなの欲しいって言われても作れねぇぞ。」


そんなもんハナから期待していない。

そこまではもう予測済みなので、俺がお願いするのは…日露戦争でも使われていた銃

三十年式歩兵銃だ。


まぁ、そこまで具体的じゃなくていいけど、対人戦で使えるくらいの銃は欲しいところ。

風魔法などを留めておけるなら尚更だ。


事前に弾を作っておけば魔力を大幅に消費することなく、高威力の魔法が撃てる。

しかも、やはり火薬を使わず、若干の魔力を込めれば撃てる、そうすれば音もなく撃てるだろう。


ボルトアクションのライフルにしては珍しいチューブ式の弾倉だ。

M870のようなショットガンと同じ、銃の下の方に直接弾丸を詰める感じの。

あれならマガジンなんて開発もしなくていいし。


取り敢えず利用価値と有用性だけを語っておけば、まぁ少しは考えてくれるだろう。


「あー…そういうのが作れるなら…国の武器としてもな、そんなに魔力いらないから使えそうだし…でも武器の設計は?」


「ああー…取り敢えず…鍛冶の人に図でも描いてみるよ…描けるか分からないけど…」

「そこ重要だから」


速攻でツッコミが入るも、一応交渉成立ということで。






その後は

俺も身体強化の魔法を教えて貰ったり

魔法を使いながら、ちょっとずつ身体に魔力を浸透させたり


と、まぁなんとも異世界というか、魔法らしい修行をしながら中心部へついた。



とりあえず、目に入るのは

都市(?)を囲う城壁!その城門!

見渡す限りの瓦の建物!和風な城!

いぇあ!ザ・ジャパン!



「飯を食べよう」という事になるも、

リョウマさんもヨシノブも歩みを止める気配がない。

あぁほら、甘味処が一つ二つと通り過ぎていく……


なんか異世界と言うより、タイムスリップした気がするけど……魔法がなかったら間違いなくそう勘違いしてただろうな。うん。

あの転生前の神様もちょっと当てにならなそうだし。

戦争の理由バリバリあるじゃねぇか。


「ねぇ、また飯屋通り過ぎたけど、どこか当てがあるの?」

不安というか焦りも言うか、ちょっとイラつきの篭もった口調でサユが言う。


もー、この子ったら昔から食べ物の事だと意地が出はじめるんだから。

いつも負けても勝ってもサバッとしてるのに。


「まぁそう言うな、お前らに見た事ないもん食わせてやるから。軍の食堂なんだ。」


おぉ、軍。そう、一応軍っていうんだ。

和とは若干離れたような言葉を聞いてちょっと安心。


江戸の人達は侍さんだもんね。将軍様のところの、だもんね。

軍って言うとミスマッチ。

おぉ、カルチャーショック。


『見たこともない』に釣られたサユさんもどうやらご満悦。

なんか、普段はそんなに表情に出さないタイプなのに口元緩めちゃって可愛らしい。


すると、城を囲う城壁にぶち当たった。

この壁を沿っていけば城門に入って、そっから敷地内か。

思ったより大きいし…立派で……なんかちょっと緊張してきた。


多分サユはそんな事ない。

というか口元緩んでるところを見ているとまだ食べ物の事で頭いっぱいなんじゃないかな?


城門にたどり着くも、事情が通ってるのか結構すんなり中へ入れられた。

思えば、軍の隊長と貴族だし、それだけですんなり入れるのかな?よく分かんないけども。


敷地内にもいくつか建物があり、そしてど真ん中に城がドドんと構えていた。


しかし、城よりも先に食べ物と、

もうサユさんずっと我慢していらっしゃるので


特に今日は予定も無いし、そのまま四人でご飯を食べる事にした。


しかし、見るからに城壁、石垣、瓦……


「「あれ?」」


サユと俺は同時に声を上げた。


俺は前世でよく見てたけど、『何でここにあるの?』という「あれ?」


サユは、『これなんでこんな造りなの?』という「あれ?」


っていう差分はあったけど、

「あれ?」は「あれ?」である。


何か…一軒だけ造りが…洋風なんですけども。

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