第8話 意外ッ!
ついにたどり着いた。
ついに見つけた。
お前を殺すため、全て準備は整った。
どうやって殺そう。
どうやって恐怖を与えよう。
例えあの世へ葬り去っても。
例え100回輪廻転生をしても。
二度と忘れないような恐怖を刻みつけてやる。
それが、私という『恐怖』なのだから。
徴兵と言えども、結局は5年ほどの訓練期間があるため、思ったより足取りは重くない。
いや嘘々、めっちゃ重かったです。
首が絞められた状態があんなに続いたら、誰でも目の前が真っ暗になって足取りも重くなります。
侮蔑の意を込めてサユをチラッと見る。
サユは全くその意味を理解していないようで
「え、何見てんのお前」くらいの目線で返してくる。
っかしーなー…?
もうちょっと自責の念というものを抱いてもいい気がするんだけども。
まぁいいか、と前を見やる。
今は中央部分の発展した都市(?)へ向かう為に歩いている。
魔法を使えば楽だけど、
空を飛ぶ魔法を使おうものなら空の魔物に襲われ、魔力を消費しているこちらが不利。
低空飛行をしようものなら魔法の制御が難しくて地に落ちるだろう。
楽するのも楽じゃないと。
ちょっと何言ってるか分からないですね。
「そういえばアンタさ」
暇潰しに脳内コントをしているとサユがいきなり話しかけてきた。
えぇ…絶対喋ってたらこの先疲れるってわかってるのに何で……
「さっき別れ際に『野郎共』とか言ってたけど、どこでそんな口振りを覚えたの?」
「え?言わない?ちょっとした鼓舞っていうかさ、おかしかった?」
「使い所としては多分あってそうだけど、何か…子供らしくなくない?」
えぇ?絶対そんなことないよ。
と、サユ父とヨシノブに目をやるも
二人も「確かに考えてみれば」くらいの顔をしてる。
えぇー…おかしくないってぇ…。
ただ、こうなった時の弁明の仕方なら身につけてある。
「物語で勇者が言ってたんだよ。
だから、状況重ねてみてさ。こんな時に使えばいいのかなって。」
「へー」
「聞いた身としてもっと興味を持って」
サユの頭にチョップを入れる。
私は軽くやりました。
えぇ、その時のことはきちんと覚えています。
彼女が私の言葉遣いについて言及しておきながら軽くあしらってきたので
ちょっと軽くですよ?かるーくチョップをしました。
そして飛んできたのは、前世で偶然見た、
ボクシングヘビー級チャンピオン
『アンソニー・ジョシュア』を想起させるような重々しく、それでいて正確な…
「防御不可能」その表現が最も当てはまるようなカウンターというか、それが飛んできたのです。
ギリッギリ逸れたパンチと微かに聞こえた「シュッ」という息を吐く音。
いや怖すぎやろ。何しとんあんた。
あんたこそ本当に5歳児かと、聞きたいのですけども。
するとヨシノブが舌打ち混じりに近付いてきた。
「惜しい!もう少し制御できるともっと正確に撃てるからねサユちゃん!」
「精進します。」
という短い会話。
それだけは聞き取れたのだが、その後は聞こえないようにか少し離れて歩き始めた。
すると代わりにリョウマさんが近寄ってきた。
こっちは舌打ちなんかしてないけど、妙にニッコニコなのが気持ち悪い。
「あれ何?」
「どれ?」
「あの恐ろしい威力の篭もってそうなパンチとセコンド」
『どれ?』が即答だったあたり、多分なんの事か知っているんだろう。
この野郎いびりに来たな?
「セコンドはイマイチ分からんが、あれは魔力による身体強化だな。」
「身体強化?」
本で見たか、誰かに聞いたことあった気がするけど
このまま聞けばやり方も教えてくれるだろうし何も知らない風に聞き返す。
魔法に関してはやっぱり知識が乏しいし、戦争に行くなら尚更知っておいた方が良いだろう。
「あー、ウチの国が他国より劣ってるのは知ってるな?」
「うん」
まぁ、ビームやらロボット持ってる国と剣一つで拮抗してる方が変だろう。
すると魔法かなんかでサポートするのが普通の考えだが、うちの国は魔法を使う人が少ないとの話。
あ、身体強化か
「そこで、魔法を出すことに特化するより、魔力で身体を強化する方が良いってことでな。あぁやって普段から魔力を巡らせる訓練をしてるんだ。」
「ほえー、なんか大変なんだね。」
「お前もやるんだぞ」
そういやそうだった。
「でも、魔力を身体強化に回しつつ、魔法を使えないの?全部こなした方が強くない?」
単純な疑問だ。
身体強化を使って
近距離はカタナ、遠距離は魔法と全部こなした方が断然強いはずだ。
そう出来るならそうした方がいいハズ。
「魔力は限られてるからな、使えない魔法を鍛えるよりも、全部を全部身体強化に回した方が効率はいいんだ」
魔力は有限。
例えば平均して魔力の量を100で表したとする。
そこで魔法を使おうとすると、魔力変換やらでパワーを消費し
戦闘で使う頃には量や質も必要となり、火球20個飛ばすとして消費魔力は60。
一方身体強化は、魔力そのものを身体に巡回させる。
こちらの方が効率は良さそうだが、常に巡回させたりあまり暴走させるとこちらの身が持たないので
戦闘で消費する魔力は10分で70くらいだと言う。
魔力を全て消費すると死に至る。
こう考えると、同時に使うのは無理、不可能、不可逆説的この世の理なのだ。
というか魔力の消費が半端じゃない。
しかしこれはあまり魔法を使わないワコウの中の話。
魔法は魔力をコネコネしたり、量の調節等がしやすいので
使えば使うほど魔力も比例して上がる。
どういう原理かは知らないけど、魔力を直接流す身体強化の類の方がリスクは高いし魔力も伸びない。
でももう魔法を教えるほどの指導者はそう居ないらしい。
これは敗北まっしぐらでは無いだろうか?
一通り話を聞き、未来を案じて顔を落としているとリョウマはヒコの頭を掴み、ワシャワシャっとした。
「大丈夫、これからのワコウは明るいものさ、お前らが来てくれたからな。」
「徴兵の謳い文句みたいだね」
「まぁ確かにそうやって呼びかけて…それこそお前の言葉で言う『鼓舞』なんかするけどな……けどお前らに関しては本当にそう思っているぞ?」
向こうも一通り話がついたのか
サユが既に近くにいて、疑問を呈した。
「なんで?ただの五歳児に何を期待しているの?」
「随分卑下してるけど、お前らは多分…同い年の中ならこの国トップクラスの魔法使い、いや、殆どの兵士より魔法が使えるんだ。
だから、これから軍でもっと伸ばしてもらう。模擬だけじゃなく実践を混じえてな」
なんと恐ろしい、実践ってそれ即ち実戦。
戦場じゃねぇか、死ぬわ。
「魔法教えられる人いないんでしょ?そんな中で戦場なんて……」
「誰が教えられないって?」
そう声をかけてきたのはヨシノブ。
なんだ人生の敗北者。いたのか。
訝しむ様に俺がヨシノブを見ていると、リョウマさんが苦笑いしながら言った。
「この方は一応、この国で一番の魔法使いなんだ」
「一応とはなんだ!」
抗議の声より少し遅れて、俺とサユは大声をあげる。
「「えぇええぇええ??!!!」」
「えーって何だァ!」
三つの絶叫が青空に響いた。
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