第6話 「大事な話」

一人残らず潰す為、様々な努力をした。

その為の労力や出費は、いくらでも惜しまなかった。


ただ、一人だけではやはり限界を感じていた。

だから、昔一緒にいた人間にも色々手伝わせた。


全員が同じ思いではないことは知っていた。

しかし、それでも手伝わせたのは、所詮彼らをコマとしてしか見ていなかったからなのだろうか。








『あれ、どうやってあんな速度で飛ばしてるんだ?』

『どこで魔力制御の仕方を学んだ?』


様々な質問がぶつけられた、が一人だけ魔法以外の質問をぶつけてきた奴がいた。

サユには『いつ式を挙げる?』

俺には『いつ死んでくれる?』

だと。


ずっと声援のときに違うことを叫んでいた奴だ。

片方だけの頬を押さえている所を見ると、やはりさっきまで叫んでいた上に殴られた奴だろうという事が分かる。


コイツは元々この村出身の人間ではない。

もっと中心部のほうからやってきた、いわば貴族みたいなもの。

サユの父さんが軍にいたころ散々自慢したのか、生でサユの事を見たいとかなんとかで遥々付いてきたとの事。


いやしかし、このお貴族様は15歳、サユは5歳児だぞ?

話を聞いただけで惚れたってのもおかしな話だし、年齢差を考えなさいよ、ロリコンかな?


精神年齢的にはそのお貴族様よりも年上だから、ここで俺がムキになるってのも大人気ないというかなんと言うか。

まぁいいんだよ、今俺はサユと同い年。ロリコンじゃない、年齢に順応しているだけだ。


「お貴族様、私はまだ戦争へ向かう年ではありません。死にはまだ早ようございます。」

「ヨシノブだ!名前くらい知っておけ!」


おぉ、ヨシノブか。なんとも時代を終わらせそうな名前をしている。

一応上に立つ人間だし、もっと縁起のいい名前は無かったのかね

「無礼な!充分縁起がいいわ!」


やべ、口に出してた。

と、思っているとサユのお父さん登場。


既に試験結果を聞き、サユの事を褒めて来たのか、後ろにいるサユは満足げな顔。

お父さんはヨシノブの横を通り過ぎるて俺の横にやって来ると、耳を貸せ、と言った。

ヨシノブのついでに、サユのお父さんの名前も

サユのお父さんの名前は「リョウマ」こちらはなんとも威厳もあり、強そうで新時代を開拓しそうな名前である。


リョウマさんが口を開く前に、俺は先手を打つ。

「お願い事ならもう決めてあるよ、ちゃんと聞いてもらうからね」と


ウグッっと苦い顔をしながら、リョウマさんは話をしはじめる。

「それもそうだが、お前の母さんにも関係のある話だ。一応ヨシノブ様もな。一通りほとぼりが冷めた後、私の家に来てくれ」とだけ言った。


何だろう、自分にとってもあんまりいい話じゃない気がする…。


▼ ▼ ▼

パーティーが一通り終わったのが大体夜の8時頃。

主にケーキを食べたり、各家々から自慢の料理を出し、どの家の料理が1番うまかったかを競ったり、

キャンプファイヤーをして、火を囲い輪になって踊ったりした。


村人全員の誕生日なので、もちろん5歳以下の小さい子供もこの祭りには参加する。

よって、子供の寝る時間を配慮し、8時で一旦パーティーはお開きになり

お父さんは、年に一度許される深夜までの飲み会の開催するのだ。


そんなお楽しみを、みすみすと言うか逃したせいで、目の前にいるこのお父さんは若干テンションが低い。


しかし、それ程までに重要なのか

後片付けの係を終えた母がサユ宅へ来ると、その態度を改めた。


母さんは俺の横に来ると、ゆっくりと正座した。

何か、思い改め、これから来るべき何かを真摯に受け止めんとする態度だ。

この態度は、今夜の集合の旨を伝えた時からのものだ。


ヨシノブ(様)を含め、全員がそんな態度。

多分わかってないのは俺とサユだけ


ふ、とリョウマさんは口を開いた。


「単刀直入に言います、ヒコ君とうちの娘のサユは、軍に入って頂きます。」


囲炉裏の中の火の音だけが、しばらく部屋の中に流れた。

パチ、パチ、と不規則になるその音が、鍋の下で燃え盛る紅い火だけが、ぼんやりと全員の顔を照らしていた。


この戦争は100年続いている。

そして、今は70年ほど拮抗中。

どこの国もその拮抗した状態を崩せずにいる。

つまり、その戦争を引き起こしている、主な機関の郡に参加するということは

イコール死を表すことである。


しかし、前世と同様。

これは言わば「赤紙」であり

その意思は、国王様の意思そのものである。

これは、絶対なのだ。


その沈黙を最初に破ったのは、サユだった。

「軍に参加するのって、10歳からの任意じゃないの?」

「原則な、しかし、能力が突出していたり、素質があるならばその限りじゃないんだ。」


次に、俺が次の質問をする為に口を開く。

というか、ほぼ運命が決定したと言っても過言ではないこの状況で、質問したくない筈がない


「じゃあ、どちらかと言うと最初は『戦争に行く』というより『訓練しに行く』ってイメージなの?」

「そういう事になる、二人は五歳だから、まず五年は訓練する事になるな」


どうやら、本格的に軍に入れられるらしい。

しかし、何で突然?


素質…に関しては、あの魔法適性試験の結果を見ての事だろう。

以前から魔法を使ってたにせよ、サユの魔力量はあまりにも大きすぎる。

俺の方は、多分魔法の使い方なのかな?


あの銃を模した魔法は、こちらの世界には無い知識が入っている。

ならはま、「使い方に長けている」という評価を得ても何ら不思議ではない。


思案していると、リョウマさんは重々しく、口を開いた。

「ここには、少なからず軍に関係する人間しかいない。

だから話す事なんだ、これから話すことは口外しないで貰いたい。」


囲炉裏の火が、大きく弾けた。

「コーアン国が、内部反乱により国の方針が大きく傾いた。近いうちに、ウチと殺り合う可能性だってある。」


その内容は、この世界を生きる人間にとってかなり驚くべき事だった。


この世界は、7つの国に分かれている。

今俺達が住んでいる国「ワコウ」

魔法や遠距離には長けていないが、少ない魔力を全身に回し、「身体強化」に特化した近距離戦闘をする。



他の六国と交易を交わし、独自の文化をそれぞれ少しずつとり入れていた「コーアン」。

その文化の融合により、

大戦が始まって暫くはその武力にものを言わせてどこ国とも渡り合っていた。

また平和な世界を目指していただけに遅れをとり、その後の勢いは削がれていた。


薬物等で生物を巨大化、凶暴化させ、手懐けて戦争に参加させる国「ディアンカ」

コーアンと強い同盟を結んでいたが、コーアンが負け始めると同時に他の国と手を結ぼうとした。

が、その態度が気に入られず若干孤立気味ではある。

しかし、良くも悪くも孤立している為戦争に積極的ではない。



そして、戦争自体には参加しておらず、強い国に技術提供をしている「ナーチュ」。

後述する二国同盟の間に入り、技術提供の代わりに国を守ってもらっている。


ワコウと手を結んでいたが、やがて国そのものを滅ぼされてしまった「ルーン」。

同じく近距離戦特化ではあったが、魔法が全く使えないという珍しい国だったために集中砲火を受け、国は滅ぼされてしまった。

この国が滅んで以降は拮抗状態である。


そして、

「フーラス」と「タール」。

この国は魔法がほとんど使えないが、代わりに科学技術が前世よりも発達している。


「フーラス」は機械開発に長け、全長20mを超えるロボット等を多く開発し、その装甲は並の魔法では太刀打ち出来ないでいる。

しかし、その開発コストが尋常ではない為、慎重に軍の勢力を整えて、いつか来る完全武力衝突に備えている。


「タール」は、『神の住む国』ともされている、現状最強の国だ。

フーラスの科学力を取り入れてロボット開発もしているし、独自の文化「ビーム」もある。

どんな兵装や魔法も貫けない走行で守られ、どんな魔法でも防ぎきれない「ビーム」を使い、圧倒的兵力で国を蹂躙している。

ルーンもその餌食になった。



元々、平和だった七国なのだが

コーアンがタールの技術を目的に近付いたが、タールはそれを拒否。

コーアンはそれに対し輸入出をカットすると脅すと、タールは武力をチラつかせた。


コーアンは、ワコウ・ディアンカ・ルーンと手を結び、武力に対しての抵抗をすると

兄弟国であるフーラスとタールが手を結び、戦争が開始した。


しかし、前述のルーンの滅亡とディアンカの裏切りにより戦争は膠着こうちゃく、現在までに至る。



フーラスやタールならともかく、何故コーアンが内部反乱を起こされたのだろうか。


「でも、驚くのはその内部反乱の内容なんだ。」

驚きを隠せない俺達に、リョウマは驚くべき事を言った。



「反乱を起こしたのは、わずか5歳の子供なんだ。そして、それを一人で成し遂げた。

軍は正式にその情報を受け取ったんだ。」


絶句した。

同い年の子供が、たった一人で国をひっくり返すなど普通に考えてありえない。

一体どうやって…


「もうコーアンとの連絡は着いていない。つい先週からな。

そして、さっき妻から軍の連絡を受け取った。」


さっき連れていかれたのは、そんな軽い理由じゃなかった。

そんな、重要な事だったんだ。

サユも固唾を飲む。


「禁忌の魔法が観測された。コーアン内でな。」


…拮抗状態だった国が、わずか5歳の子供に滅ぼされた。

そして、その子供は禁忌の魔法を使ったと言うのだ。


ありえないことの連続だ。


「だから、軍も戦力を確保しなきゃいけない。

多分、これを機にこの戦争は一気に動く。

そうなれば、俺はもちろん、2人にも命を張ってもらうことになる。」


俺たちにもう、選択の猶予は残されていなかった。


しかし、それに抗う声がひとつだけ、響いた。


「………嫌です。」


母さんだった。

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