第5話 適性検査(その2)

適性検査の試験内容は毎年違う。

今年は精密さを測る試験のようで、

制限時間2分以内に、設置された木の的10個に当てるのが目標だ。


試験と言われ気後れするというか、怯んでしまいそうになるが、案ずることは無い。

所詮は五歳児に与える軽いテストだ、合否などのラインは設定されていない。


ただ、勉強とは違うのだよ!

俺は小さい頃からずっと魔法制御の練習をしてきた、強くなる為に喰らったのだッッ


この村で一番…か、二番の実力はあるはずだ。

そう、サユの存在だ。


普通、5歳を迎えると、村で祝う誕生日会の中で魔力適性検査と魔法試験が行われる。

そこで初めて魔力の使い方、魔法の使い方を知るのだが…。

そこで知るのはあくまで「使い方」である。

方法さえ知っていれば、極論0歳でも魔法は使えるのだ。


そんでサユと一緒に魔法に関する本を読んで、使えるようになったんだっけ…。

これ知ってんのは誰だ?

うちの母さんと…サユの両親くらい?

他の人に知られてても良いんだけど、特異性が無くなっちゃうからね、今日まで皆を驚かせるように取っておいたのさ。


試験会場は村の端っこ。

大きさはだいたいテニスコートくらいかな?

テニスは高校の体育で少し触ったくらいだから正確な大きさは分からないけど、体感そのくらい。

25mあるかな…?無いかな?


真ん中に石のゲートが設けられ、

そこを囲むように石のフェンスが設置されている。

いわゆる、野次馬用だ。


簡単なように思えるが、魔法を「使える」と「使う」は別物。

普通習いたての魔法など使えるはずがない。

威力も足りず、多くは途中で霧散するだろう。

野次馬に見られ、どやされつつ、悔しさと恥ずかしさを糧にやっとの思いで的2つに当てるのが普通、出来て4個。


それでも破壊は出来ないんだけどね。


この恥や悔しさを糧にもっと魔法について学ばせようとかいう国からの方針らしいけど…。

どうにもお偉いさんはわかってない、そんな事したらモチベ下がってカタナの道に走るに決まってるやん。


その証拠に、野次馬は結構うるさい。

マジでぶっ飛ばしたくなるくらいうざい声援を延々と送ってくれる。

んで、言いすぎて後で奥さんやら母親やらに怒られるまでがワンセット。

半分八つ当たりみたいなもんで、上手くいってるやつほどバカにされ、下手なやつほど同情される。


だから基本的にワコウの国民は魔力量が低いし、魔法がお世辞にも上手いとは言えない。

軍人になればある程度の魔力操作も必要っぽいけど、科学技術で劣ってる分を考えるともうちょっと魔法の訓練もするべきでは?


まぁ国の方針はともかく、今は目の前の試験をやり遂げる。

ここで成果を見せればサユの父さんからお願い事を聞いてもらえるとか。


まぁ、当の本人は奥さんの方に連れていかれちゃったけども。

でも、ああやって連れていかれる姿はあんまり見たことが無い。

あの奥様、なんでも笑って過ごすタイプだと思ってたんだけど…。

サユも「珍しい」って言ってたし。




魔力の使い方、魔法の発動のさせ方はやっぱり俺たちにとって復習でしか無かった。

そして今は例の試験会場へ連れていかれている。


『魔法ちゃんと使えるかな…』と不安を抱く者もいれば

『1番の成績を残してやるぜ!』と息巻く者もいる。

比率は7:3くらい。

ちなみに俺とサユはもちろん後者。


ゲート前で待機を命じられ、名前を呼ばれた人から的へ向かわされた。


あぁ、やっぱり的当てなのね。

規定の位置から23m〜25m位の位置に木の的が設置されている。

子供だからまだ視力がいいのか、ここからでも的が見えなくもない。


今まで使ってた的よりも若干大きめかなー?なんて考えてると、サユが近寄ってくる。

お、おぉ…なんか不敵な笑みをお浮べになっていらっしゃる…


すると

「ヒコに黙ってたのは悪いけど、実は今回の的当て勝負の為に秘策を練ってきたのよ…!」

ニヤリと笑った。


まぁ、そうよね。

72戦36勝36敗。

その勝負の行方を決するには最高の舞台すぎる。

「恥をかかないように」は勿論、勝つために技巧を凝らすのは当然といえば当然。


にしても、それを伝えに来るのが名前を呼ばれる直前とは。

サユも中々自信があるようだ。

しかし、「今回の的当ての為」って言ったか?一応これ試験だからね?


サユは父親が軍のお偉いさんという事もあってか、魔力制御の素質があるのではと噂されていた。

その分期待値もちょっと高そう。


サユの名前が呼ばれ、規定の位置に立たされる。

毎度の事ながら、位置に立たされる度に野次馬が騒ぐが、今回は一際野次馬がうるさい。


『メインディッシュが来たぞー!』だの

『いいとこ見せてくれー!』だの

『結婚してくれー!』だの。


んんん?


試験官はクワッと目を開き

『試験内容は規定位置から全ての的に魔法を当てることッ!それでは制限時間2分…始めッ!』

と叫んだ。


ふ、とサユは指をピンと張りつめ、目の前へ突き出す。


あ、既に今までと違う。

今までは、

手のひらを前に突き出し

魔力を込めて風魔法の球体を作って

勢いよく発射していた。


今回は手のひらではなく、指を突き出している。

すると、指先全体に魔力がこもった。


同時にサユの周りに強風が立ちこめる。

かなり魔力を練っていて、目を瞑り、精神統一しながら魔法を発動してる。


魔力を込めること10秒ほど、サユの指の先が可視化できるほど魔力が込められていた。


サユが1つ目の的へ目を向け、手を縦から下へ、振り下ろす。

すると、ムチのようにしなった風魔法がグーッと伸び…伸び……?

伸びすぎじゃね…?


しなった風のムチは、的を破壊するに留まらず、後ろの石のフェンスもぶった切った。


フェンスも越え、切った痕が少し会場よりもはみ出ている。

サユが少し腕を上にあげると、土の中から完全に固定化された風の剣がその姿を現した。

サユは突き出した右腕を左手で支え、大剣を薙ぎ払うのごとく左から右へ腕を振る。


大剣を薙ぎ払うのごとく、と言うか、むしろ風の大剣だ。

しかし、風魔法でできているため重さはなく、半透明な固定物体となっている。


動かす際、大きさ分の苦労はあるが…。

いや、大変そうだな…あの大きさだと。


風の大剣はうねりを上げながら右へ右へと移動する。

剣はかなりの切れ味があるようで、触れた的が一瞬で真っ二つになっていく。


試験会場が静かになったのは、サユが試験を終えた頃。

その沈黙は、サユの「ふぅ…っ」というため息と、試験官によって破られる。

『そ、そこまでッ!タイム…43秒!村新記録!』

『オォオオォオオーーーーッッッッ!』


という野次馬からの歓声が上がる。

普通上手いやつはここでわざとらしい舌打ちをくらったりするが、今回ばっかりは野次馬も素直に褒めている。

『見直したぞー!』だの

『流石だー!いいぞー!!』だの

『結婚してくれー!』だの

『黙れッ』だの

『おぼふっ』だの。



んんん?



サユは、珍しく赤面しつつも、会場と野次馬に一礼するとゲートをくぐってこちらへ向かってきた。


「今回の勝負…私の勝ちみたいね」と笑うと、肩を叩いてドヤ顔してきた。


「随分かっこいいことしてくれちゃって…俺にも秘策はあるんだぞ!」と息巻く。

あ、またなんか余計な事言った気がする。


サユはふーん、と目を見開きつつ

「まぁ、やれるだけやってみれば?」なんて言っている。


というかアレは「的当て」としてどうなんだ?

確かに規定の位置から魔法を打って的に当てたけど……。

まぁ、試験官が「No」と言わない限り大丈夫なのかな?

試験官もちょっと叫んでたし。

ヒコは見逃しませんでしたよ。


『次の者ッ!おらんのか!』

などと歓声の中から微かに聞こえてくる。


ゲートに着いた人順でしょ?確かに気後れするのはわかるけど……。

なんて考えていると、肩を強く押される。


「次、あんたでしょ。」とサユが親指を試験会場に向けている。

あ、そうか、次俺か!


ヒョコヒョコ歩いていくも、歓声は未だ止んでいない。


規定の位置に完全につくまで、歓声は続いていた。

この歓声なんかより、父さんや母さんに見てもらって、褒めて欲しかったろうに…。


まだサユの両親は戻ってきていないようだった。


ちなみに、歓声は俺が規定の位置に着いた瞬間罵詈雑言に変わっていた。

『お茶濁し』だの

『おまけ』だの

『お前なんて死んじまえー!』だの。


おい最後のやつ全部サユに『結婚してくれ』だの言って殴られてた奴だろ。

復活はえーよ。


『まぁ…こんな後にやるのも気の毒だがな。試験内容は規定位置から全ての的に魔法を当てることだ。頑張れよ。

……それでは制限時間2分…始めッ!』


試験官にまで同情された!


軽いショックを受けつつ、とりあえず試験に臨む。

えっと…サユが魔力込めしてたのが大体10秒、初秒までに4秒程度…。


サユのタイムが43秒なら…俺の策が全部上手くいくとして、大体20秒はお試しできるかな?


俺は人差し指1本を前に突き出す。

そして、強めに魔力を込めるも…ちょっと指一本じゃまだ固定化しにくい。


『おいおい!お前にはあの魔法は無理だ!』

『真似事ならよした方がいいぞ!』なんて野次馬が聞こえる。

うるせぇ、まだ下手サイドの人間なんだから同情しろ。


次に、中指も添えてみる。

あ、これなら中指と人差し指の差出来た、ちょっとしたスペースで魔法作ればいいし、

何より自分がイメージしやすい。

何なら親指も立ててしまえ、雰囲気だ雰囲気。


すると、小学生が銃の撃ち合いごっこで作る手の形が完成した。

あれなんて言うんだろう?

この手の形作りながら、アホみたいに「バンバンバンバン」言ってた時代が懐かしい。


人差し指に魔力を込め、中指の余りの部分で魔力の形を整える。

すると、風で出来た弾丸が完成する。


試しに、と木の的一つに狙いを定めて魔法を撃ってみる。

発射された風の弾丸は、チュインと音を立てながら的のど真ん中に着弾。

回転させなかったからか、着弾した的は物凄い音を立てて中心付近だけを綺麗に抉った。


おぉ、これなら魔力量次第で威力、速度、大きさが変えられる。

何よりの利点は無反動・半透明・無音で撃てることだ。

火薬で飛ばしてるわけでは無いので、音も反動も出るはずがない。


いい調子、いい調子。

前世で、いっぱいシューティングゲームやった甲斐があったね。

ドンドン的に当ててこうか。


声が止んでいるのは言うまでも……。


『何だあれ…?』

『あんな速度で物を飛ばせるのか…?』

『バカ、魔法なんだから出来るだろ。』

『じゃあお前出来んのかよ』

『『いやぁ、無理だな。』』


なんて聞こえてくる。

サユなんかもポカーンとしてる。


やべ、そういえばこの国で銃の文献なんか見たこと無かった。


あぁ…魔法も使えないし銃も無いの…?

だから負けるんだよ…。



そんな思いも、的がはじける音で掻き消された。


ちなみにタイムは41秒。

村人全員が釈然としないものの、一日で試験の記録が二回更新された日だった。



そのあとの子供たちが試験から逃げようとしたのは言うまでもない。

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